美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

大瀧詠一・元ネタ集(その2)

2020年05月02日 22時19分00秒 | 音楽


当シリーズ、こわごわとはじめてみたのですが、一応お読みになっていらっしゃる方もいるようなので、「その2」をアップいたします。


一曲目は、「Tシャツに口紅」の元ネタ、「カラーに口紅」です。

コニー・フランシスが歌った当楽曲は1959年5月に発売され、ビルボード最高5位でした。大瀧詠一は、小学校時代を振り返って、次のように言っています。

自分のファースト・チョイスという意味合いではコニー・フランシスだったわけ。親戚のうちに「カラーに口紅」があったんだよ。(中略)とにかく「カラーに口紅」ばっかりかけてたね。あれはアメリカン・ポップスの良いエッセンスが全部込められていると思うのね。あのリズム。ドラムとベースのタイトな感じと楽しい感じ。イントロのジェームズ・バートンのカッコいいギター。あれどう弾いてんだかよくわかんないんだよ、未だに。

カラーに口紅/コニー・フランシス


「Tシャツに口紅」は、1983年に発売されたラッツ&スターの2枚目(シャネルズ時代から通算すると11枚目)のシングルで、大瀧詠一は作曲者として当楽曲に関わっています。ちなみに、作詞は松本隆、編曲は井上鑑(あきら)です。2016年に発表された『DEBUT AGAIN』で、大瀧詠一による当楽曲のボーカルを聴くことができます。Youtubeで大瀧詠一の歌を聴くことはできませんので、ラッツ&スターの同楽曲を掲げておきます。リーダーの鈴木雅之は同楽曲を評して「早すぎた名曲」と言っています。セールス的にはあまり振るわなかったようです。それにしても、良い曲です。

Tシャツに口紅


二曲目は、「LET’S ONDO AGAIN」の元ネタ、「LET’S TWIST AGAIN」です。当楽曲は、カール・マンとデイヴ・アぺルの共作で、チャビー・チェッカーが歌っています。1961年で最もヒットした楽曲のひとつです。このウズ・ウズした感じといささかの悲哀感がいいですね。先ほど触れたラッツ&スターが同楽曲をあるライヴで取り上げているので、それも掲げておきましょう。

Chubby Checker - Let's Twist Again (lyrics)


LET'S TWIST AGAIN


Youtubeにたまたま「LET’S ONDO AGAIN」があったので、載せておきますね。これを歌っているのは、大瀧詠一ではなくて布谷文夫です。布谷文夫は、大瀧詠一が早稲田大学に入学した後に、はじめて出会った音楽関係の人物です。たしか専修大学に通っていたと思います。北海道出身です。彼には、『悲しき夏バテ』という1973年に発売された傑作アルバムがあります。それをプロデュースしているのが大瀧詠一です。なんというか、天然の無意識の奇人変人で、どこか愛嬌もあります。抜群の和製ブルースセンスの持ち主でもあります。同アルバムから「冷たい女」を掲げておきましょう。言い忘れるところでしたが、「LET’S ONDO AGAIN」はもちろん大瀧詠一が作った楽曲です。イントロのつながり具合がドンピシャリ、うまくいったところで震えが走ったそうです。

Let's Ondo Again’81 /アミーゴ布谷

冷たい女 布谷文夫  ~アルバム 「悲しき夏バテ」 より~


「LET’S ONDO AGAIN」は、第一期ナイアガラ・レーベルの最後のアルバム『LET’S ONDO AGAIN』に収録されています。大瀧詠一の言葉に耳を傾けましょう。

1978年のカレンダーをジャケットにしたアルバム『ナイアガラ・カレンダー78』がセールス的に全く不発に終わった78年のお正月、ナイアガラ第一期の活動を終わる事を決定しました。そして“最後”のアルバムとして企画されたのがこの『LET’S ONDO AGAIN』です。楽曲そのもののアイディアはラジオ番組『ゴー・ゴー・ナイアガラ』に寄せられたファンの葉書からで「チャビー・チェッカーも“ツイスト”をヒットさせた後に“レッツ・ツイスト・アゲン”を作っているので“ナイアガラ音頭”の続編も作ってほしい」という依頼でした。

当楽曲もそうなんですが、『LET’S ONDO AGAIN』全体、半分はヤケクソで作ったところがあるとは思うのですが、そのせいといおうか、怪我の功名と申しましょうか、独特の魅力があって、「コレは、傑作アルバムなんじゃないか」と思えてくるのです。次回にでもそのことに触れられたらと思います。

なんだか、けっこう長くなってしまいました。今回はこんなところで(実は、「ペパーミント・ブルー」の元ネタと思しき楽曲も目星をつけたりしておりますので、次回をお楽しみに)。

*上記の、大瀧詠一のコメントの引用は、いずれも『大瀧詠一 Writing&talking』(白夜書房)からです。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「九月入学・始業」は、ショック・ドクトリンである

2020年05月01日 19時46分23秒 | 教育


宮城県の村井知事が、先月の二七日に「九月入学・始業」の私案を提示したのをきっかけに、大阪の吉村知事や東京の小池知事が賛意を表明し、それに便乗して萩生田文科大臣が「それも選択肢のひとつ」と発言し、さらに、安倍晋三首相が二九日の衆院予算委員会で「九月入学・始業」の可能性を探る考えを示しました。あっという間の出来事でした。

当方、この動きに少なからず違和感を覚え、《「九月入学・始業」は、新自由主義お得意のショック・ドクトリンである》という考えを抱くに至りました。

以下、その筋道を説明いたします。

まずは、例によって、言葉の定義から。ショック・ドクトリンとは何でしょうか。

「ショック・ドクトリン」は、ジャーナリストのナオミ・クラインが二〇〇七年に著した『ショック・ドクトリン』から生まれた、新自由主義を批判するキー・ワードです。その意味内容は「一言でいえば、惨事便乗型資本主義である。すなわち、大惨事につけこんで実施される過激で大胆な市場原理主義改革のこと」となるでしょう。

言いかえると、ショック・ドクトリンは、わたしたち一般国民がへこたれそうなときをねらって襲ってくる。そう言えるのではないでしょうか。

今回は、コロナ禍をきっかけに、九月入学・始業という「ショック・ドクトリン」が作動した。それが、当方の見立てです。

当議論が巻き起こる前に当方が考えていたのは、いま、公立学校の休校が長期化するなかで、子ども総体の学力がドラスティックに低下し、また、通塾している子どもとしていない子どもの間や、私学に通っている子どもと公立学校に通っている子どもの間での学力格差の拡大が加速度的に進んでいるのではなかろうか、ということでした。

それを改善するには、教育行政当局が、とにもかくにも学校に通学しなくても受けられるオンライン授業の可及的速やかなる実施を具体的目標にしてその実現を図ることが肝要であると考えていました。実技科目はどうするのか、とか、評価方法は、とか、問題はいろいろあるでしょうが、とりあえずは生徒たち全員が主要五教科のオンライン授業が受けられるようにすることに目標を絞り込むことが大事なのではなかろうかと。これらは、コロナ禍の長期化という厳しい条件下でも進捗可能なことがらですから。

で、目耳に水といおうか、なんといおうか、突然の「九月入学・始業」騒ぎが降って湧いてきて、当方、面喰うやら、違和感半端ないやらで、一瞬頭の中が真っ白になってしまったのでした。

そうして、この感触には既視感があることに思い至りました。郵政民営化問題やTPP参加問題に直面したときの感触に似ている、と。一言でいえば、唐突感、です。

冷静に考えれば、子ども総体の学力低下や子ども間の学力格差の加速度的拡大の改善と「九月入学・始業」とはまったく結びつきません。すぐにでも、具体的措置を大胆に講じなければ、生徒の学力状況は大変なことになっているのです。悠長に九月まで待っているわけにはいかないのです。

また、コロナ禍の長期化が九月には収まっているはず、というのは現状では希望的観測に過ぎません。そういう希望的観測もあって、文科省は安易に当案に飛びついた、という側面もあるのではないでしょうか。

こんなふうにいろいろ考えると、九月案は下策と断じざるをえないのです。喫緊の課題に直面した人間がマトモな頭で思いつくアイデアではないのです。

しかしながら翻って考えるに、新自由主義の旗印は、規制緩和であり、国境のボーダーレス化であり、ワンワールドです。そのことと、当案賛成派が賛成の理由として判で押したように「九月入学・始業はグローバルスタンダードである」ことを挙げていることとは、附合します。すなわち賛成論者は、TPPにおける「非関税障壁の撤廃」を主張していることになります。「非関税障壁の撤廃」とは、要するに、各国の商習慣や慣習を廃止して、主にアメリカのそれに右習えすることなのですから。

恐ろしいのは、地方自治体や文科省や安倍内閣の当案賛成は、別にアメリカの圧力に屈した結果ではなくて、まったく自主的なものである点です。つまり、権力中枢に新自由主義のDNAが深く埋め込まれていて、今回のコロナ禍などのような社会的激震が走ると、そのDNAが自動的に作動してしまう点です。そう考えると、末法の世を眺めているようで、恐ろしくなってきます。

しかし、それに屈するわけにはいきません。社会的激震による国柄の安易な変更・破壊を許すわけにはいかないからです。ブログで発信するよりほかにすべはないので、当方、できうるかぎりそうし続けます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする