「家に帰ってからまず一番に何をしたかぁ?」
そう、と咲人は答えた。
こいつ毎回意味不明な質問するなぁ。
コート脱いだとか手を洗ったとか答えちゃいそうになったけど、そういうことじゃないんでしょ?
あ!と私は声を上げた。
「オッケー、家に帰って一番最初にやった重要なことね?」
「そう」
「マフィン焼いたわ」
「……マフィン」
「そ。」
「いいね。何味?」
「バナナチョコチップマフィン」
「ふーん、色は?」
「は?ブラウン(笑)」
「トッピングは?」
「え?!えーと…だから、バナナだけど…」
「興味深い」
「(笑)あんた、それ聞いてどうすんの?」
「想像してるんだよ。どんな見た目のマフィンが出来上がったのか」
「あ、そ…」
私はフライパンに油を注ぎながら言った。
今日はキッチンで料理しながら電話中だ。
彼との電話はとにかく長くなりがちなので、何か作業しながら話すことが多かった。
「私にとって、料理はストレス解消法の一つなの」
「なるほど」
「あなたは何かある?そういう趣味。あなたの頭をリセットしてくれるような」
んー、と咲人は唸った。
油の香りがして来たので、私は卵を混ぜ始めた。
ボウルの中でタトトトと小気味良い音がする。
「俺は今のところ、探してる、かな」
「あ、そう」
「そうだね。まぁでも、最近はちょっとしたアクティビティをしてる」
「ふーん?どんな?」
「仕事が終わってから、知らないところへ知らないルートで行く」
へ〜、面白そう。
「いいじゃない?」
「あぁ。でもちょっと問題があるんだよ」
「何?」
私はフライパンに勢い良く卵を流し込んだ。
ジュウゥという音に、タッタッという箸さばきの音が重なる。
咲人はどこか楽しげに答えた。
「思いがけず長旅になることが多々あるんだよ。出発した時はもう夜中なのにも関わらずさ」
「あらそう」
「俺は初めはほんの10分で終わらせようと思ってたのに、結局三、四時間になってたりする」
「ふーん?」
10分で終わる道ってつまんなくない?
それが三、四時間になるって、彼の意思とは別に先導する人がいるツアーか何かなの?
と、私がぼんやり考えていると、突然彼は笑い出した。
えっ何?!
「なんで笑ってるの?」
「君は、俺が何について話してるかわかってる?」
「は?YES」
あ、私が料理に夢中で空返事してたから確認してるの?
ごめーん、卵入れた後はさすがにちょっと適当だったかも。
「あー、えっとぉ……」
「(笑)あのさ、俺は、俺たちのことを話してたんだぜ?」
「へ?………あぁー!!」
ハハハハ!と咲人は愉しげに声を上げた。
「私との長電話のこと言ってたのね?」
「そうだよ(笑)」
「たしかに(笑)10分で終わらせてないわね(笑)」
「そう」
「オッケー咲人。よーーーくわかったわ」
私は火を止め、腕を組んでツンとアゴを上げた。
「つ、ま、り。咲人は最近、自分のストレスをすごーくいい感じに解消しているわけね?誰かさんのお、か、げ、で」
そうだな、と咲人は笑った。
「だってそのストレス解消法は、あなた一人じゃできないもんね?」
「そうだな」
「私がいいアドバイスをあげるわ」
「(笑)何だよ」
「あなたはその誰かさんに、たーくさん感謝したほうがいいわ」
「プッ。えーと…俺は十分感謝してるつもりだけど?」
「そお?彼女の話によるとまだまだ足りないみたいよ」
「マジかよ。もう一回聞いてみてよ」
「聞いたけど、そーだって。あなたこそ彼に、ちゃんと感謝してるか聞いてみたら?」
「オッケー、聞いてみる」
んー、とちょっと黙った後、やっぱり感謝してるって言ってるよ、と答えた。
「(笑)まだ足りてないんじゃない?」
「そうかな」
「そうよ。だって彼ってたまにすごーく意地悪みたいよ?彼女に対して」
「(笑)ま、そうだね」
フライパンから卵焼きを下ろす手つきは慣れたもので。
黄色い可愛らしいそれではなく、茶色い模様の入った、キリンのような卵焼きが好みだ。
ふつふつと別のコンロにかけていた鍋が音を立て始めた。
私は戸棚からパスタの袋を取り出した。
今日はフジッリ。
茹で時間を確認しながら話を続けた。
「あなたって、いつもそんなに意地悪なの?」
「まぁね」
ふーん。
咲人は喋り方はいつもエラそうだし、チョイチョイ私のことをからかってくる。
私はプライドの高いMなので誰彼構わずそういう扱いを受けたいとは到底思わない。
軽視されたり見下されていると感じる相手には私の人生からご退場いただいている。
ちゃんと敬意(って言うのも変だけど)を忘れずに可愛がってくれているうちは
まぁそんなにイヤじゃないかな、と思っていた。
咲人は愉快そうに続けた。
「俺はいつもこんな感じだよ。でも、君に対しては特に意地悪だよ」
「は?なんでよ」
Because!と咲人の声が大きくなった。
「君が、意地悪されるのが好きだからだよ」
(´⊙ω⊙`)
「え、えぇ〜!?私そんなこと言ってないんですけど!」
「そうだな。でも好きなんだろ」
む、むぅと私は黙り込んだ。
た、たしかに好きと言えば好きなんだけど、それは夜だけの話なんだけど…
ってすみませんねそんな話で(テヘペロ)
私はパスタ鍋をかき混ぜながら、I don’t knowとつれなく答えたが、咲人は楽しげに笑っていた。
正直言って、少し前から不思議に思っていた。
咲人が私と毎日のように長電話するのは、きっと私のどこかに惹かれているからだと予想できた。
勉強、という真面目な視点から考えれば日本語の練習はほぼできてないし、私の英語の練習に付き合ってるだけだ。
変わってるから研究したいって言ってたけど、それって本当?
見た目がタイプなの?でもおいそれと会える距離でもないよ。
しけこみたいの?でもおいそれ(以下同文)
彼の欲が満たせる状況なら、きっとそうなんだろうなーっと思ったけどそうでもない。
多分本当に話してて楽しいんだろうなと思ったけど、どうして楽しいんだろう。
多分私が感じているように何か相性を見出しているんだろうけど。
多分
咲人は
私がMっぽいのも気に入ってるんだろうなと
なんとなーーーくわかるのだけど
なんでわかったの?
Sの皆さぁーーーん、教えてぇーーーーー!!!
(ちなみに私は男性がSかMかは見分けられないんですが…)
(ちなみにルックスがタイプじゃないのに第一印象で惹かれる相手はどうやら毎回Sです)
(えっこれは見分けられてるに入るのか!?)
「ところで」
出来上がったパスタをモグモグしながら私は訊いた。←食いながら話すんかい
「昨日、おとといは何か雰囲気違った〜興味深くなかった〜みたいなこと言うてましたけど。
あれってどういう意味なの?」
「興味深くなかったって言ったつもりはないぜ」
「じゃ、何よ」←こんな話し方なのになぜMだとわかるのだろう
「君の雰囲気が違ったって言いたかっただけだよ」
はい?
「君の声が違った理由の1つ。俺が君が恥ずかしくなるようなこと聞いたから、だろ」
「そうね」
「だから、それのせいで何か会話の雰囲気まで変えちゃったなと思って…」
シーン。
咲人が黙ってしまったので、静寂が流れた。
まぁ私の脳内は助平なオヤジだし、元お水なのだけど
一応シラフでまともな昼の顔(昼顔だとまた違った意味になりますね。てへ♡)をしている時は
あんなに食い下がって質問されると困ってしまう。
そんな話を今更振り返されも…
もしかしてこの人、謝るつもり?
何か言ってやる気もしないので←本当ひどいひたすら黙っていると、
咲人は話題を変えようとした。
おい
ちょっと待て
そいつぁ………
無責任じゃねーか?
「ねぇ」
「ん?」
「あなたの言う通り私はあの日そんなにいい気じゃなかったのよ。
それを忘れてたのに、今あなたがその話をまた持ち出したの」
「………。」
「またイヤな気持ち思い出したわ。
どうしてまたそんな話したの。そしてどうしてそれなのに話題を変えようとしてるの?」
私の問いに、咲人はそうだな、と答え、話し始めた。
「あの夜君に居心地悪い思いさせて、良くなかったと思った。
だから、しばらく君に連絡しない方がいいと思った。
でも君は翌朝も普通にメールくれたから、ああ良かったと思って普通に連絡したんだ」
「………。」
「でも…謝ったほうがいいなとはずっと思ってたから。それを言おうとしたんだ」
咲人の口調はキザなままだったけど、エラそうではなかった。
「俺の謝罪を受け入れてくれる?」
私は
「That’s not smart at all, Sakito」
超ダサいわと答えた。
続きます!
そう、と咲人は答えた。
こいつ毎回意味不明な質問するなぁ。
コート脱いだとか手を洗ったとか答えちゃいそうになったけど、そういうことじゃないんでしょ?
あ!と私は声を上げた。
「オッケー、家に帰って一番最初にやった重要なことね?」
「そう」
「マフィン焼いたわ」
「……マフィン」
「そ。」
「いいね。何味?」
「バナナチョコチップマフィン」
「ふーん、色は?」
「は?ブラウン(笑)」
「トッピングは?」
「え?!えーと…だから、バナナだけど…」
「興味深い」
「(笑)あんた、それ聞いてどうすんの?」
「想像してるんだよ。どんな見た目のマフィンが出来上がったのか」
「あ、そ…」
私はフライパンに油を注ぎながら言った。
今日はキッチンで料理しながら電話中だ。
彼との電話はとにかく長くなりがちなので、何か作業しながら話すことが多かった。
「私にとって、料理はストレス解消法の一つなの」
「なるほど」
「あなたは何かある?そういう趣味。あなたの頭をリセットしてくれるような」
んー、と咲人は唸った。
油の香りがして来たので、私は卵を混ぜ始めた。
ボウルの中でタトトトと小気味良い音がする。
「俺は今のところ、探してる、かな」
「あ、そう」
「そうだね。まぁでも、最近はちょっとしたアクティビティをしてる」
「ふーん?どんな?」
「仕事が終わってから、知らないところへ知らないルートで行く」
へ〜、面白そう。
「いいじゃない?」
「あぁ。でもちょっと問題があるんだよ」
「何?」
私はフライパンに勢い良く卵を流し込んだ。
ジュウゥという音に、タッタッという箸さばきの音が重なる。
咲人はどこか楽しげに答えた。
「思いがけず長旅になることが多々あるんだよ。出発した時はもう夜中なのにも関わらずさ」
「あらそう」
「俺は初めはほんの10分で終わらせようと思ってたのに、結局三、四時間になってたりする」
「ふーん?」
10分で終わる道ってつまんなくない?
それが三、四時間になるって、彼の意思とは別に先導する人がいるツアーか何かなの?
と、私がぼんやり考えていると、突然彼は笑い出した。
えっ何?!
「なんで笑ってるの?」
「君は、俺が何について話してるかわかってる?」
「は?YES」
あ、私が料理に夢中で空返事してたから確認してるの?
ごめーん、卵入れた後はさすがにちょっと適当だったかも。
「あー、えっとぉ……」
「(笑)あのさ、俺は、俺たちのことを話してたんだぜ?」
「へ?………あぁー!!」
ハハハハ!と咲人は愉しげに声を上げた。
「私との長電話のこと言ってたのね?」
「そうだよ(笑)」
「たしかに(笑)10分で終わらせてないわね(笑)」
「そう」
「オッケー咲人。よーーーくわかったわ」
私は火を止め、腕を組んでツンとアゴを上げた。
「つ、ま、り。咲人は最近、自分のストレスをすごーくいい感じに解消しているわけね?誰かさんのお、か、げ、で」
そうだな、と咲人は笑った。
「だってそのストレス解消法は、あなた一人じゃできないもんね?」
「そうだな」
「私がいいアドバイスをあげるわ」
「(笑)何だよ」
「あなたはその誰かさんに、たーくさん感謝したほうがいいわ」
「プッ。えーと…俺は十分感謝してるつもりだけど?」
「そお?彼女の話によるとまだまだ足りないみたいよ」
「マジかよ。もう一回聞いてみてよ」
「聞いたけど、そーだって。あなたこそ彼に、ちゃんと感謝してるか聞いてみたら?」
「オッケー、聞いてみる」
んー、とちょっと黙った後、やっぱり感謝してるって言ってるよ、と答えた。
「(笑)まだ足りてないんじゃない?」
「そうかな」
「そうよ。だって彼ってたまにすごーく意地悪みたいよ?彼女に対して」
「(笑)ま、そうだね」
フライパンから卵焼きを下ろす手つきは慣れたもので。
黄色い可愛らしいそれではなく、茶色い模様の入った、キリンのような卵焼きが好みだ。
ふつふつと別のコンロにかけていた鍋が音を立て始めた。
私は戸棚からパスタの袋を取り出した。
今日はフジッリ。
茹で時間を確認しながら話を続けた。
「あなたって、いつもそんなに意地悪なの?」
「まぁね」
ふーん。
咲人は喋り方はいつもエラそうだし、チョイチョイ私のことをからかってくる。
私はプライドの高いMなので誰彼構わずそういう扱いを受けたいとは到底思わない。
軽視されたり見下されていると感じる相手には私の人生からご退場いただいている。
ちゃんと敬意(って言うのも変だけど)を忘れずに可愛がってくれているうちは
まぁそんなにイヤじゃないかな、と思っていた。
咲人は愉快そうに続けた。
「俺はいつもこんな感じだよ。でも、君に対しては特に意地悪だよ」
「は?なんでよ」
Because!と咲人の声が大きくなった。
「君が、意地悪されるのが好きだからだよ」
(´⊙ω⊙`)
「え、えぇ〜!?私そんなこと言ってないんですけど!」
「そうだな。でも好きなんだろ」
む、むぅと私は黙り込んだ。
た、たしかに好きと言えば好きなんだけど、それは夜だけの話なんだけど…
ってすみませんねそんな話で(テヘペロ)
私はパスタ鍋をかき混ぜながら、I don’t knowとつれなく答えたが、咲人は楽しげに笑っていた。
正直言って、少し前から不思議に思っていた。
咲人が私と毎日のように長電話するのは、きっと私のどこかに惹かれているからだと予想できた。
勉強、という真面目な視点から考えれば日本語の練習はほぼできてないし、私の英語の練習に付き合ってるだけだ。
変わってるから研究したいって言ってたけど、それって本当?
見た目がタイプなの?でもおいそれと会える距離でもないよ。
しけこみたいの?でもおいそれ(以下同文)
彼の欲が満たせる状況なら、きっとそうなんだろうなーっと思ったけどそうでもない。
多分本当に話してて楽しいんだろうなと思ったけど、どうして楽しいんだろう。
多分私が感じているように何か相性を見出しているんだろうけど。
多分
咲人は
私がMっぽいのも気に入ってるんだろうなと
なんとなーーーくわかるのだけど
なんでわかったの?
Sの皆さぁーーーん、教えてぇーーーーー!!!
(ちなみに私は男性がSかMかは見分けられないんですが…)
(ちなみにルックスがタイプじゃないのに第一印象で惹かれる相手はどうやら毎回Sです)
(えっこれは見分けられてるに入るのか!?)
「ところで」
出来上がったパスタをモグモグしながら私は訊いた。←食いながら話すんかい
「昨日、おとといは何か雰囲気違った〜興味深くなかった〜みたいなこと言うてましたけど。
あれってどういう意味なの?」
「興味深くなかったって言ったつもりはないぜ」
「じゃ、何よ」←こんな話し方なのになぜMだとわかるのだろう
「君の雰囲気が違ったって言いたかっただけだよ」
はい?
「君の声が違った理由の1つ。俺が君が恥ずかしくなるようなこと聞いたから、だろ」
「そうね」
「だから、それのせいで何か会話の雰囲気まで変えちゃったなと思って…」
シーン。
咲人が黙ってしまったので、静寂が流れた。
まぁ私の脳内は助平なオヤジだし、元お水なのだけど
一応シラフでまともな昼の顔(昼顔だとまた違った意味になりますね。てへ♡)をしている時は
あんなに食い下がって質問されると困ってしまう。
そんな話を今更振り返されも…
もしかしてこの人、謝るつもり?
何か言ってやる気もしないので←本当ひどいひたすら黙っていると、
咲人は話題を変えようとした。
おい
ちょっと待て
そいつぁ………
無責任じゃねーか?
「ねぇ」
「ん?」
「あなたの言う通り私はあの日そんなにいい気じゃなかったのよ。
それを忘れてたのに、今あなたがその話をまた持ち出したの」
「………。」
「またイヤな気持ち思い出したわ。
どうしてまたそんな話したの。そしてどうしてそれなのに話題を変えようとしてるの?」
私の問いに、咲人はそうだな、と答え、話し始めた。
「あの夜君に居心地悪い思いさせて、良くなかったと思った。
だから、しばらく君に連絡しない方がいいと思った。
でも君は翌朝も普通にメールくれたから、ああ良かったと思って普通に連絡したんだ」
「………。」
「でも…謝ったほうがいいなとはずっと思ってたから。それを言おうとしたんだ」
咲人の口調はキザなままだったけど、エラそうではなかった。
「俺の謝罪を受け入れてくれる?」
私は
「That’s not smart at all, Sakito」
超ダサいわと答えた。
続きます!
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