薬指の標本

小川洋子。ディアーヌ・ベルトラン。
観たいなと思っていたきり忘れていた。
フランスで映画化というのもちょっと不思議な気がしていた。

が、しかしとても小川洋子の世界を創り込んでいた。はっきりいって驚愕だ。
部分に寄せる執着、フェティシズムもよくまあここまで表現したと思う。
靴。足。
埃をかぶった標本壜。木製の棚。
タイル張りの部屋。
そこに漂う官能。まさに官能だ。エロティックでも猥褻でもない、官能。
セックスは介在するのだけれど、おそらくそれは付加的な要素でしかなく
おなじ官能を感じ取れるという部分で全ては了解され溶融しているような
気持ちになる。技師と少女の関係は身体を触れ合わせる事は瑣末ごとの
ようにに感じる。
フェティッシュとは書きはしたが、小川の作品またこの映画にはフェティシズム
という言葉は似合わない気がする。
お互いの精神の融合がある一点でなされたと言う事なんだと感じる。
その一点を生じさせるためにあるのがこのラボでそれを誘発させるのが
靴であるのかな？などと感じていた。

そして、”標本になること”。
少女がやってきて火傷を標本にしたいという。それに嫉妬する主人公。
それは秘密の共有。標本になるという秘儀。
監督のインタビューにある青髭。ジル・ド・レ。入ってはいけない部屋へと
滲入する彼女。そこにはやはり秘儀がある。
標本になることで、秘密を共有し、永遠を手にするのだろうか。

エピソードとしてとても興味深かったのは、ホテルの部屋。
夜に造船所で働く男と、昼に働く主人公のルームシェアリング。
いかにも、小川らしい設定でありながら、これは原作には無かったかと思う。
そこに居ない、けれども、そこにある残滓がより確かなイメージを形作る。
匂い立つようなイメージが。

この監督の以降の作品も注目したいと思った。