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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:ピエール・ルメートル著、『監禁面接』(文春e-book)

2019年10月03日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行
久々にピエール・ルメートルの作品を読みました。この人の作品は予想できない不思議な展開をすることが多いので、え?え?え?と疑問に思っているうちにとんでもないところに着地するようなスリル満点の面白さがあります。
この『監禁面接』にしても、失業4年のさえない元人事畑の管理職のおじさん、アラン・デランブル(57)が生活費のためにバイトでつないでいるというフランスでは珍しくない、どこでもいそうな人の苦悩を描いていると思いきや、ある日突然「あなたの経験が必要とされている」と夢のようなことを言われ、求人の職務も自分の経験に見合う人事副部長であるため、ついに運が向いてきたかと舞い上がるのもつかの間、最終試験では、ほかの管理職の選抜のためにテロ集団の襲撃を装って候補者を監禁してストレス耐性を評価するというので、アランはやる気満々であるのに対して妻ニコルはそんな異様な面接を管理職に課すような会社とは関わり合いにならないほうがいいと考え、夫婦の間に亀裂が生じます。アランは最初ニコルに内緒で準備を進め、多額の借金までしますが、いずれニコルにばれてかなりまずい関係になります。それまでが第一部「そのまえ」。
第2部「そのとき」は人質拘束のオーガナイザーを委託された元傭兵のダヴィド・フォンタナの視点で語られますが、実際にその面接にアランが準備万端で臨むのかと思えばそうはならず、アランが実弾の入った銃で関係者全員を監禁するという暴挙に出ます。なぜ?なんのために???と疑問符を引きずったまま、アランの視点で語られる第3部「そのあと」に突入し、その意外な理由が徐々に明らかとなります。そして、そのためにアランは命を狙われることになります。この章でアランが絶望の末にやけを起こした高齢失業者ではなく、プライドが高いばかりでなく実はかなり狡猾な人物であることが浮き彫りになります。
アランは社会悪のような権力を持つ敵との勝負には勝っても、持っていた幸福は失ってしまう「気の毒な人」。自業自得の部分が大きいので同情はしきれないのですが、終局に向かうまでのサスペンスの描写は素晴らしいです。

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