木の姿
2018年04月06日 | 詩
木の姿を幻想にまとわせた
美しい絵本
展示を見終えて美術館を出た
母とわたしは公園で立ちどまる
絵本のページの続きのように
冬の木立ちに囲まれていた
遠い国の言い伝えが
紙の舟に乗って
心の入江に接岸し
まなざしから出港して
木々に命を吹き込む
夏の間
隠れて見えなかった声が
空に向かって希求する
移りゆく色を背景にして
公園は劇場になる
トランポリンを運ぶように
わたしたち二人は母と子
太古からの円をこの空間に持ち込んでいた
そこでは名前があることが必要なことで
名前を知らないことは問題ではなかった
ひっそりと立っている沈黙には声があり
もう一度聴きたいと
身を乗り出す気配に満ちている
母と子は互いのカーブに沿うていて
目にも留まらぬゆっくりさで
伸び続ける背丈を押し当て
歴史を測る
髪を長くしていた母に抱きつくと
コートから冬の匂いがして
母の手は買ってきたばかりのみかんと
同じくらい冷たい
腕組みをして
否定の観察や実験をしていたい年頃は
太陽にいらつくこともあったけれど
その影にきつく吸い寄せられてしまうのだった
いつも弱くなってしまった
いつも弱いと思ってしまったので
きりがなかった
見られているつもりでわたしも
同じくらいに見ていたと思った
背丈は伸び続け
しばしば測り間違える
不安をおそるおそる破っても
破っても破っても
もっと大きな青空が現れるので驚く
見ているつもりでわたしには
見えていなかったのかもしれない
もたれる
堅いのに柔らかい
目にも留まらぬゆっくりさで
ガードレールを呑み込み
仏様を呑み込み
母と子を呑み込み
戦争を呑み込み
栄枯盛衰を呑み込み
木々が編み込む空色のボールに
見とれていた時間
寝室の窓に降ってきて
しんとする
きっとすぐに忘れるだろう
ここはどこにも無い時間になるだろう
でも印象は降り積もっていくだろう
そしてわたしは歩き話し
鱗粉を撒き散らす
そのようにひとが撒き散らす鱗粉は
長い時間をかけてことばを真似て
物語の撚り糸になっていく
木々は燃えるだろう
美しい絵本
展示を見終えて美術館を出た
母とわたしは公園で立ちどまる
絵本のページの続きのように
冬の木立ちに囲まれていた
遠い国の言い伝えが
紙の舟に乗って
心の入江に接岸し
まなざしから出港して
木々に命を吹き込む
夏の間
隠れて見えなかった声が
空に向かって希求する
移りゆく色を背景にして
公園は劇場になる
トランポリンを運ぶように
わたしたち二人は母と子
太古からの円をこの空間に持ち込んでいた
そこでは名前があることが必要なことで
名前を知らないことは問題ではなかった
ひっそりと立っている沈黙には声があり
もう一度聴きたいと
身を乗り出す気配に満ちている
母と子は互いのカーブに沿うていて
目にも留まらぬゆっくりさで
伸び続ける背丈を押し当て
歴史を測る
髪を長くしていた母に抱きつくと
コートから冬の匂いがして
母の手は買ってきたばかりのみかんと
同じくらい冷たい
腕組みをして
否定の観察や実験をしていたい年頃は
太陽にいらつくこともあったけれど
その影にきつく吸い寄せられてしまうのだった
いつも弱くなってしまった
いつも弱いと思ってしまったので
きりがなかった
見られているつもりでわたしも
同じくらいに見ていたと思った
背丈は伸び続け
しばしば測り間違える
不安をおそるおそる破っても
破っても破っても
もっと大きな青空が現れるので驚く
見ているつもりでわたしには
見えていなかったのかもしれない
もたれる
堅いのに柔らかい
目にも留まらぬゆっくりさで
ガードレールを呑み込み
仏様を呑み込み
母と子を呑み込み
戦争を呑み込み
栄枯盛衰を呑み込み
木々が編み込む空色のボールに
見とれていた時間
寝室の窓に降ってきて
しんとする
きっとすぐに忘れるだろう
ここはどこにも無い時間になるだろう
でも印象は降り積もっていくだろう
そしてわたしは歩き話し
鱗粉を撒き散らす
そのようにひとが撒き散らす鱗粉は
長い時間をかけてことばを真似て
物語の撚り糸になっていく
木々は燃えるだろう
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