
4月25日、3度目となる新型インフルエンザ特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象に発令されました。
政府や自治体が示した今回の対策の特徴は、酒類を提供する飲食店に対する「休業」の要請を初めて加えるなど、対面サービス業種に対して昨年4月や今年1月の過去2回を上回る厳しい措置を講じること。もちろんこれには、政府と都道府県の前回の対応が後手に回ったことで、医療提供体制が危機的な状況に陥ったことが影響しているとされています。
したがって、今回の宣言が日本経済に与える影響は(これまでよりも)必然的に大きくなると考えられており、2021年度に期待されていた景気や消費のV字型回復はますます遠のくのではないかと懸念されているところです。
もとより、人の移動を抑える大掛かりな対策を採れば採るほど、GDPの下振れ幅が大きくなるのは自明です。野村総合研究所は、こうした緊急事態宣言が首都圏の3都県に拡大し期間が2カ月間に延びれば経済的損失は3兆8650億円に達すると見ており、今回の措置により1-3月期に続き4-6月期も日本の経済成長率はマイナスを記録するだろうと予想しています。
また、日本経済研究センターが2月16日に公表した経済予測では、GDPが2020年度にマイナス4.8%に落ち込んだ後、2021年度にプラス5.0%に回復するとの標準シナリオを示していましたが、(併せて)今年7~9月に3回目の緊急事態宣言が出されて去年の1回目を上回る外出規制などが行われた場合は、GDPは1.4%下振れすると試算しています。
これらの要素を勘案すると、今回の緊急事態宣言は2~3%を超えるGDPの下振れ要因となり、21年度のGDPが1%台にとどまってもおかしくないと見る向きもあるようです(4月27日「現代ビジネス」)。「V字型回復」はすでに絶望的であり、このままワクチン接種が進まなければ日本経済は「L字型の停滞」が続くだろうということでしょう。
こうして新型コロナへの感染拡大が続く中、(他の先進国との比較でも)なかなか明かりが見えない日本の経済状況に対し、4月16日の東洋経済ONLINEではニッセイ基礎研究所経済調査部長の斎藤太郎氏が、「新型コロナへの過剰反応をいつまで続けるのか」との指摘を行っています。
今年1月に発令された2度目の緊急事態宣言の影響は、2020年4~5月の緊急事態宣言時と異なり一部の分野にとどまった。このため、(日銀短観2021年3月調査では)輸出の増加を背景に製造業は大きく改善し、対面型サービス以外の非製造業も多くの業種で改善したと斎藤氏はこの寄稿に記しています。
また、法人企業統計の経常利益は2020年4~6月期に前年比マイナス46.6%と急速に落ち込んだ後、10~12月期には同マイナス0.7%まで減少幅が縮小した。(もちろん)対面型サービス業(運輸、宿泊、飲食サービス、生活関連サービス、娯楽)は大幅な減少が続いているが、製造業や対面型サービスを除く非製造業は前年比でプラスに転じているということです。
さらに雇用に関しても、2020年4月の緊急事態宣言の影響で急速に落ち込んだ雇用者数はその後の持ち直しその後も緩やかにとどまっている。現在、下押し要因となっているのはやはり対面型サービス(運輸、宿泊・飲食サービス、生活関連サービス・娯楽)で、対面型サービスを除いた雇用者数ではすでにコロナ前の水準に戻っていると氏はしています。
つまり、日本経済は全体としては新型コロナウイルスの打撃から立ち直りつつあるが、営業時間短縮要請や外出自粛などの影響を強く受ける対面型サービス業が完全に取り残されているということ。緊急事態宣言は解除されても「まん延防止等重点措置」は引き続き適用されるなど、今後も環境は厳しいというのが氏の認識です。
日本は諸外国に比べてワクチン接種が遅れているが、この先接種が本格化すれば、外食、旅行などの対面型サービス消費が急回復するとの見方があると斎藤氏は言います。だが、そこに過度の期待は禁物で、今回のワクチンは有効性や副反応が未知数であるうえ、日本は欧米と比べて感染者数、死亡者数が圧倒的に少ないため、ワクチン接種の恩恵が相対的に小さいということも認識しておく必要があるということです。
新型コロナウイルス感染症は感染者、死者の計上方法が従来と異なるため、その深刻度を把握しにくい。このため、今後、感染対策を講じるうえでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって全体の死者数が増えたかどうかをきちんと見る必要があると氏は説明しています。
日本は高齢化の進展を背景に、総死亡者数は2010年から2019年まで10年連続で増加していた。この間の増加幅は年平均2.4万人、2019年の総死亡者数は138.1万人であったということです。
しかし、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年は、多くの国で超過死亡が発生する中、日本の総死亡者数は前年より9373人減って11年ぶりの減少となった。死因別では、新型コロナウイルスによる死者数は3459人の増加となり、自殺も912人増と11年ぶりの増加となったが、肺炎は1万5645人の減少、心疾患は3808人減少、インフルエンザは2371人減少したと氏は言います。
これは、対人接触機会の削減、手洗い、うがい、マスクの着用といった感染防止策によって新型コロナウイルス以外の感染症等が抑制されたためと考えられる。また、従来であれば肺炎などにカウントされていた死者が新型コロナウイルスによる死者としてカウントされている可能性も考えられるということです。
もちろん総死亡者数が減少したこと自体は喜ばしいことだが、そのために犠牲にしていることは少なくないと氏は言います。日本はもともと新型コロナウイルスの感染者数、死者数が国際的に少ないにもかかわらず、一定の経済活動の制限を行ってきた。そしてその結果、2020年の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス4.8%となり、感染者数や死者数が圧倒的に多いアメリカのマイナス3.5%を下回ったということです。
その要因としては、経済対策の規模の違い(アメリカ>日本)や潜在成長率の違い(アメリカ>日本)もあるが、感染者数や死者数対比で見て、自発的な行動変容も含めた行動制限が「過剰」だった可能性もあるというのがこれまでの状況に対する斎藤氏の見解です。
そして現在では、直接的な経済損失に加え、(コロナ対策の副作用として)自殺者の増加、婚姻件数の激減など、対人接触を避けることによって生じるさまざまな弊害が表面化しつつあるということです。
日本では季節性インフルエンザで毎年約1000万人が感染し約3000人が亡くなっていたが、それでも学級閉鎖や一時休校などを除いて特別な社会・経済活動の制限が行われなかったのは、一定程度の感染や死が社会的に許容されていたためだと氏は説明しています。
さて、新型コロナウイルスへの感染をどこまで恐れるかは「人それぞれ」というところでしょう。経済への影響と人命や健康を秤にかけて、「さあどっち」と聞いてもそれ自体詮無いことだとも思います。
また、国民が感染症への罹患を恐れているのであれば、多少過剰だと思っても政治や行政はそこへの対応を優先せざるを得ないのは民主主義国家として当然のことだとも思います。
そうした中、経済をとるのか健康をとるのか、最終的に決めるのは国民であり、国民が正しい判断を下すためには、科学的な根拠に基づいた正確な情報を行政やメディアそして専門家たちが提供していく必要があるのが自明です。
そのような視点も含め、「感染者数をゼロにすることは基本的に不可能であり、ワクチン接種の進展が対面型サービスの救世主になるとは限らない」「新型コロナウイルスについて、日々の増減に一喜一憂するだけでなく、社会的にどこまで許容されるかを議論すべき時期が来ているように思われる」…そうこの論考を結ぶ斎藤氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます