日本でお目にかかることは少ないと思いますが、アマゾンの密林などで行われている「焼畑農業」とはまず必要な分だけ森林を焼き払い、その灰を肥料にして(その場で)作物を作るという、極めて原始的な農業手法を指す言葉です。
一方、こうした焼き畑の手法は、2~3年すると土壌中の養分が少なくなるので(また)別の場所へ移らざるを得ません。
それでも、(自然とは良くしたもので)その場所を2~30年放置するとそこにも再び木が生え森ができてきます。そして森が元どおりになった時点で再び森を焼き払って作物を作ることができるという、「焼き畑農業」はそうした(長期的な視点での)循環型農法として定義づけられています。
そう説明されれば、何となく(一見)合理的に見える焼き畑農業ですが、そうして次々と森林を焼き払うことで土地に大きなダメージを与えるのに加え、森が再生するまでに長い年月を必要とすることを考えれば、その対価の大きさから言って効率が悪いことこの上ないのも事実です。
土地を次々と丸坊主にしながら移動していく焼き畑農業。「二の矢」「三の矢」と様々な手法を繰り出していく、どこかの国の経済対策と似て非なるものとは思えません。
2月11日の日本経済新聞のコラム「大機小機」では、そうした(ある意味)クールな視点から、「安倍政権の『やってる感』」と題する興味深い論評を掲載しています。
安倍政権の経済政策である「アベノミクス」。最初の「3本の矢」は一定の成果を収めたものの、それだけでは成長力は高まらず、以降、地方創生、新「3本の矢」、一億総活躍などと次々に目先を変えて打ち出し続けています。
しかし、結局看板を掛け替えて会議を立ち上げるだけなので、実際に成果が生まれるはずもない。気が付けば、日本経済は「焼き畑」を繰り返す果てしない「消耗戦」の最中にあるのではないかと、このコラムはアベノミクスの「今」を位置付けています
それでも、安倍内閣が極めて高い支持率を維持し続けているのは一体何故なのか?
御厨貴・芹川洋一両氏の対談本「政治が危ない」(日本経済新聞出版社)によれば、それは安倍首相が醸し出す「やってる感」によるものだということです。しかも同書は、首相自身「やってる感が大事なんだ」と、これを意識して行動しているとしています。
記事は、日本には成果の有無ではなく、「頑張っている人をおとしめてはならない」という(結果よりも努力を重んじる)文化があるとしています。
「アベノミクスは道半ば」として、次々新しいスローガンを掲げ続ける安倍政権の経済政策は、確かに頑張っている印象を与える。党内対立などで身動きができなかった旧民主党政権とは好対照だという指摘です。
まして頻繁に外遊をこなし、その度に、プーチン大統領やトランプ大統領などの「大物」と2ショットの姿をメディアに映し出す安倍氏の外交姿勢は、確かに「やってる感」満載と言えるかもしれません。
昨年末の北方領土交渉でロシアのプーチン大統領に肩透かしを食らっても、意外に支持率が下がらなかったのは、諦めずに頑張り続ける姿勢を示しているからではないか。黒田東彦総裁率いる日銀の金融政策が、4年近く経っても(物価上昇率はいまだにマイナスにもかかわらず)批判の声を聞くことが少ないのは、マイナス金利や長期金利コントロールなど、あの手この手を繰り出して頑張っている姿勢が評価されているからではないかと記事は指摘しています。
実際、テレビの街頭インタビューなどを見ても、安倍首相や小池東京都知事に対し「あの人好きよ。だって頑張ってるじゃない…」といったコメントがしばしば聴かれるのは、日常に暮らす市井の人々にとって、「頑張る人が報われる社会」が強く求められていることの裏返しと言えるかもしれません。
しかし、敢えて言うならば、「頑張っていさえすれば、それで許されのか?」と、記事は記しています。第二次大戦で日本を徹底的な敗戦に向かわせた、「兵隊さんは頑張っている」「欲しがりません勝つまでは」に通じる精神第一主義が、日本を(再び)間違った方向に向かわせているのではないか?
日本企業の長時間労働は、こうした「成果よりも頑張る姿勢を重視する」という文化の反映に外ならないと記事はしています。経済の成長力強化も財政の健全化も、道半ばのままでは団塊世代が後期高齢者となる2020年代には日本の社会保障は行き詰まってしまう。
焼き畑農業は、その一瞬は成果が上がっても、持続可能な豊かさにはつながりません。祭りの後に残るのが、茫漠とした荒野ばかりでは困ります。
折しも、2月時点の安倍内閣の支持率は(読売新聞の調べで)66%と、前回調査(1月27~29日)の61%から5ポイント上昇し、第2次内閣発足時の2012年12月の65%を超える勢いだということです。
そうした状況であればこそ、今年こそ安倍政権には「やってる感」だけではなく、実際の成果を出してもらいたいと結ぶこの記事を、私も改めて興味深く読んだところです。
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