MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2257 政府が厚生年金の適用拡大を急ぐワケ

2022年09月17日 | 社会・経済

 日本国内における公的年金被保険者数(国民年金や厚生年金に加入している人の数)は、令和元年度末現在で 6762 万人(全人口の半数強)となっており、前年度末に比べて 15 万人(0.2%)増加しているとされています。

 そのうち、自営業者などが対象となる「国民年金」の第1号被保険者数は1453 万人。こちらは前年度末に比べて 18 万人(1.2%)減少しているということです。

 一方、企業に勤めるサラリーマンや公務員などが加入する「厚生年金」の被保険者(国民年金第2号被保険者)数は令和元年度末現在 4,488 万人で、前年度末に比べて 60 万人(1.3%)と増加傾向を示しています。

 また、サラリーマンの家庭の主婦などで自らは保険証を支払う必要のない国民年金第3号被保険者(厚生年金加入者の被扶養者)は 820 万人と、年度末に比べて 26 万人(3.1%)減少しており、いわゆる「専業主婦」の減少傾向が見て取れるところです。

 因みに、厚生労働省によれば、2020年の国民年金の保険料の最終納付率は77.2%。一方、未納者の割合は22.8%、人数にすると330万3720人に及びます。

さらに、(未納者数には含まれない)被保険者の42.6%、617万2740人が保険料の全額免除や納付猶予を受けているため、実際に国民年金保険料を納付している人の割合は被保険者全体の57.4%、人数にすると831万7260人に過ぎないことが判ります。

 2020年代に入り、日本の高度成長期を支えてきた団塊の世代がいよいよ後期高齢者の仲間入りを果たし、その生活を支える公的年金の重要性も一層増してきていると言えるでしょう。

 他方、少子高齢化の流れの中で、保険料の支払い手が減り続ける年金財政の方も年々厳しさを増しています。支給額の減額も現実のものとなり、実際に保険料を支払う現役世代を中心に年金への信頼が揺らいでいるのが現状です。

 2024年度に予定されている次期年金制度改正を見据え、国においても年金制度を巡る議論が活発化してきています。

 これまでに、厚生年金への加入が義務付けられている企業規模を、22年10月に101人以上、24年10月には51人以上にまで引き下げることが法律で決まっています。今後は、こうした企業要件などを撤廃するとともに、対象業種を飲食業や宿泊業などにまで拡大できるかが焦点となってくるはずです。

 さて、このような近年の年金制度見直しの動きに関連して、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が「日経ヴェリタス」誌の8月6日号に、「パート年金拡大のカラクリ」と題する興味深い論考を寄稿しているので、参考までにここで紹介しておきたいと思います。

 社会保険の適用拡大で、今年10月から従業員数101人以上の事業者に対し、雇用期間2カ月超で週20時間以上勤務のパートも含む従業員への厚生年金・健康保険への加入が義務化されると氏はこの論考に記しています。

 この件に関し、国の広報などでは「将来の年金受給額が増える」「傷病手当金や出産手当金が受給できる」など良いことばかりが報じられている。しかし実のところ、この話にはものすごく胡散臭いとことがあるというのが、この論考における氏の見解です。

 パートの従業員からすると、これまで年収130万円未満なら配偶者の社会保険の被扶養者になれていたのが、10月以降は年収106万円(月額8.8万円)を超えると扶養の範囲から外れ、(保険料を支払う分だけ)手取り収入が減額されてしまうことになる。

 一方、企業の側からすれば、パート従業員が保険料の天引きを避けるために労働時間を減らすと、人手不足がさらに悪化してしまう。結局、どちらにとっても全くいいことはないと氏は言います。

 だが、本当の問題は別のところにある。そもそもこの制度改正は、厚生年金は加入者にとって大幅な損失になっているというのが氏の認識です。

 平均的な大卒男性の生涯賃金(退職金を除く)を2億7000万円とし、厚生年金の保険料率18.3%を掛ければ、就職から定年までに収める保険料の総額は約4900万円になる。

 対して、厚生年金の平均受給額は男性で月額約16万5000円で、65歳時の平均余命を20年とすると受給総額は3900万円にしかならない。あくまでも概算だが、それでも1000万円も損しているというのは衝撃的だと氏は説明しています。

 厚生年金が大損というのはとんでもないスキャンダルだと思うのだが、なぜみんな大騒ぎしないのと言えば、それは「ねんきん特別便」の加入記録では、厚生年金の保険料は(会社負担分を含む)総額ではなく、半額の自己負担分だけしか記載されていないから。これだと、個人で支払った保険料の総額は2500万円ほどで(それにもかかわらず)4000万円近く戻って来るので、(一見、何となく)得に思えるためだということです。

 しかし、こうした説明ははとんでもない詐術だと、橘氏はここで強調しています。社会保険の保険料は労使折半。会社負担分と言えば体は良いが、本来は労働者が支払ったはずのものだからだというのがその理由です。

 これを分かり易く言うと、サラリーマンが収めた年金保険料の半分は国家によって詐取されているということ。それがどこに行くかというと、いうまでもなく年金財政の赤字補填に回っているというのが氏の見解です。

 このカラクリがわかると、なぜ国が社会保険(=厚生年金)の適用拡大を強引に推し進めるのか理解できると氏はしています。

 年金制度を破綻させずに何とか維持しようとすれば、現役世代からの保険料収入を増やす以外に方法はない。中小企業のパートにまで社会保険に加入を強制すれば、会社負担分の保険料をさらにぼったくることができる。こんなウマい話があるだろうかと氏は話しています。

 だが、無から有を生む錬金術がない以上、会社は社会保険料の負担増をどこかで埋め合わせなければならない。そのもっともシンプルな解決法は、人件費(=賃金)を削って帳尻を合わせることだというのが氏の指摘するところです。

 さて、賃金水準の低迷が日本に悪いインフレをもたらしていると懸念される昨今、さらに社会保険料の増額が相次ぎ、実質賃金はむしろ減少傾向にあるという指摘もなされています。

 このようにして、高齢者の年金を守るために現役世代がどんどん貧しくなる。日本の人口構成を考えれば、恐ろしいことに、この負の循環はすくなくともあと20年は続くのだとこの論考を結ぶ橘氏の指摘を、私も大変興味深く受け止めたところです。

 



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