MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2405 管理職の罰ゲーム化

2023年05月04日 | 社会・経済

 内閣府の『男女共同参画白書(令和4年版)』によると、2021年の女性管理職比率は係長級で20.7%。課長級で12.4%、部長級で7.7%とされ、かなり低い水準で推移しているのが現状です。もちろん、政府も経済界も労働組合も女性の管理職比率向上に取り組むとはしていますが、なかなか成果が上がっているとは言えません。

 政府は小泉純一郎内閣時代の2003年に女性管理職比率を30%に引き上げる目標を掲げましたが、目標を達成できた企業は現在でもわずかに9.5%。政府は達成期限を2020年から2030年に延ばしているものの、あと7年間でこれを3倍に引き上げるのは、なかなか難しい状況と言えるでしょう。

 女性管理職の増加が大きく停滞しているこのような状況を踏まえ、人事コンサルティングのパーソル総合研究所の総合サイト「日本の人事部」に、同研究所上席主任研究員の小林祐児氏が『女性活躍を阻む「管理職の罰ゲーム化」』と題するレポートを掲載しているので、その一部を小欄に残しておきたいと思います。

 バブル崩壊後、「組織のフラット化」の名の下に多くの企業で管理職の削減が行われた。気が付けば「部下なし管理職」などの(処遇のための)ポストがなくなり、中間管理職への早期退職募集も頻繁に行われてきたと、小林氏はこのレポートに記しています。

 一方で、管理職の減少とともにマネジメントをしながら個人目標も抱える「プレイングマネジャー」化が急速に進められた。外出した部下の帰りをオフィスでのんびりと待っている牧歌的な中間管理職の光景は、もはやはるか遠い昔話だというのが氏の認識です。

 そしてもうひとつ減ってきたのが「賃金」だと、氏はこのレポートで指摘しています。正確にいえば、一般職層と管理職層の賃金の差、つまり管理職になることで上積みされる金額が、長期的に減少してきているということ。「賃金構造基本統計調査(厚生労働省)」のデータを見ても、1981年から2015年の30年ほどで、課長級でも部長給でも一般職層とのギャップが縮まっていく様子がはっきりと確認できるということです。

 一方、こうして頭数や賃金が減っているにもかかわらず、現在の管理職が束ねる現場は「課題のデパート」状態にあると氏は話しています。

 例えば、2015年ごろから進められた「働き方改革」について。改革の一丁目一番地とされた長時間労働是正によって(特に大企業において)正社員の残業時間が減少したが、そうした「改革」が進んでいる企業ほど「管理職の負荷が高くなる」という逆説的な傾向がデータからも見られると氏は言います。

 従業員への「上から」の「時短」の働きかけが、(中間管理職を通じ)職場全体ではなく労働時間管理の対象である「一般メンバー層」を中心に行われた。その結果、多くの企業で、メンバーを早く帰らせる分、管理職が仕事を引き取受けなければならないという状況が生じたということです。

 これはあくまで一例に過ぎない。昨今の種々の労働法制への対応や、新しい組織課題は、ほとんど決まりきったように現場の中間管理職の負荷として蓄積されていくと、小林氏はこのレポートに綴っています。

 例えば、パワハラ防止法、ダイバーシティ対応、部下のメンタルヘルスやキャリア構築など、新しい働き方の課題の多くが「現場のマネジメント能力」をもって解決されようとしていく。昨今でも、「アンコンシャス・バイアス」や「心理的安全性」など、新しい課題と概念が発見されるたびに、新たなマネジャー研修ばかり増えているということです。

 こうして管理職の負荷が上がっても、それについてくる就業者がいればまだいい方だろうと、氏はここで話しています。

 昨今の就業者の価値観のトレンドは、それとは真逆の「脱・組織化」の流れの中にある。ビジネス変化のスピードが早くなると同時に個人の就業期間が長くなれば、必定、会社組織に人生を埋没させることの合理性は減っていく。会社は会社で個々のキャリアを丸抱えすることが難しくなり、主体的なキャリア形成を促す「キャリア自律」「リスキリング」などがキーワードとなっているということです。

 このような管理職の「罰ゲーム化」は(男女を問わず)一般的な状況としてあるわけだが、それでも男性よりも「女性」の活躍推進により大きなハードルとなってしまうと氏はここで指摘しています。

 それは、相変わらずの男女分業意識から、「結婚」というライフイベントをきっかけに、「男性」はそうした負荷を背負う「覚悟」を強め、一方女性は「家庭時間を確保する」という意識を強くするから。

 言い換えれば、若い未婚の期間はあまり男女で変わらない仕事の意識が、結婚後には男性は「お金」重視に、女性は「時間」と「休み」重視へと大きくシフト・チェンジするということ。ここにおいて、管理職になりたがる男女の違いが再生産され、多くの企業で管理職一歩手前の地位に女性が滞留する状況が生まれるというのが氏の見解です。

 会社に人生を埋没させてまで管理職を目指す個人が減っているにもかかわらず、管理職の負荷は上がり続けているという相反する2つの流れ。これこそが、管理職を「罰ゲーム」にしている要因であり、女性管理職比率を上げる大きな障壁ともなっていると氏は話しています。

 日本企業は(まずは)組織フラット化と人件費抑制ばかり考えず、管理職の補佐的なポストを増やして業務をワークシェアリングし、「管理職負荷の分散」のための打ち手を始める必要がある。

 そのような実効的な打ち手が講じられない限り(女性管理職比率が上がるどころか)誰も管理職を目指そうとしない、停滞した組織が日本に数多く生まれてくることになるだろうと語る氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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