MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯777 トランプ政権の変質

2017年04月19日 | 国際・政治


 米中首脳会談の最中にシリアに対してトマホーク59発による攻撃を開始したトランプ政権の具体的な軍事行動を巡って、メディアでは様々な憶測が飛び交っています。

 もともとトランプ大統領は、国際情勢に関するインテリジェンス・ブリーフィングを受ける際、これまでのように文書でまとめるのではなく、視覚的な単純化した資料を作成し口頭で報告するよう関係機関に要請していたということです。

 さらに言えば、トランプ氏はインテリジェンス・ブリーフィング自体に関心が薄く、そのため、歴代大統領のように毎日ブリーフィングを受けるのではなく、1週間に1回程度、必要に応じて大統領が求めた時に受けるような体制になっていたとも言われています。

 そうした中で決断されたミサイル攻撃に対し、各国のインテリジェンスの専門家たちは、(これまでのトランプ氏の政治的立ち位置とは異なる)微妙な違和感を感じ取っているようです。

 毒ガスによる無差別攻撃に対し、トランプ大統領が(人道的な観点から)「レッドラインを越えた」と判断したことも当然あるでしょう。しかし、今回の軍事行動に関しては、それ以上に、(米中首脳会談に先だって)国家安全保障会議(NSC)のスタッフの構成が変わった点も見逃せないという指摘があるのも事実です。

 4月10日のNews week日本版(「軍事政権化したトランプ政権」)では、北海道大学公共政策大学院教授の鈴木一人(すずき・かずと)氏が、そこに、「闇の大統領」と呼ばれ、大統領の政策アジェンダをコントロールし大統領令を書いてきたスティーブ・バノン大統領顧問がNSCの中核メンバーから外れた影響を指摘しています。

 この(更迭騒ぎの)背景には、これまでバノン氏と同盟関係にあった、大統領の娘婿で日増しに影響力を増してきたジャレッド・クシュナー大統領顧問との関係が悪化したことがあると言われています。そして、こうした一連のホワイトハウス内の力学の変化がトランプ政権の性格を、ポピュリスティックな国益主義から軍事的な解決策を優先する実利主義に変えつつあるのではないかと鈴木氏は考えています。

 氏の指摘を待つまでもなく、実際、現在のトランプ政権では、意思決定の中心にマクマスター、マティス、ダンフォードなどの軍出身者が座っています。

 勿論、彼らが安全保障政策の実権を握っているからと言ってトランプ政権が「軍事政権化」したということではないでしょうが、軍出身者がホワイトハウスの政策決定に重大な影響をもたらす状況にあることは事実です。

 鈴木氏も言うように、大統領が信頼を置くクシュナー氏が軍出身派との関係を緊密にしたことや、トランプ大統領も「力による平和」を志向する傾向が強いことを考えると、国際社会における問題に対して外交や交渉による解決ではなく、軍事的な解決を優先するという傾向が一層強まったことを否定する根拠はありません。

 例えば、4月13日の英紙「FINANCIAL TIMES」も、同様の視点からバノン氏の退出によるトランプ政権の(ある種の)「変質」を読み解いています。

 トランプ米大統領は就任後100日もたたないうちに軍人出身者に主導権を委ね、物議を醸したトランプ氏のこれまでの政策は、今やすべて帳消しとなった。バノン氏よ、さようなら。今日から新しいトランプ時代の幕開けだと、同紙は現在ホワイトハウスの状況を説明しています。

 NSCに残されたクシュナー上級顧問には義父のトランプ氏と同様、人脈形成の才はあるが世界観がない。マティス国防長官は鋭敏な軍事的頭脳の持ち主だが、戦場での知性は戦略とは違う。バノン氏を脇へ追いやったマクマスター大統領補佐官にも同じことが言える。そして、ティラーソン国務長官は手腕が未知数だと、FINANCIAL TIMESの記事は酷評しています。

 一方で、バノン氏は考え方には「ぶれがない」と記事は言います。同氏はシリア攻撃に反対だったが、それには彼なりの理由があった。それは、簡単に言えば、米国には泥沼化する中東情勢に新たに関わっている余裕がないということで、そうした中東に関する同氏の直感は「健全」だと記事はしています。

 大統領選挙でトランプ氏を支持した人々にとって、最も重要なのは1兆ドルのインフラ投資計画であることは論を待ちません。それが「この国の忘れられた人々」に対するトランプ氏の公約の柱であるにもかかわらず、現在はここでも主流派の声が勝っている。記事によれば、その理由は、トランプ氏の周囲が(今や)ウォール街と共和党の旧来の減税派だらけだからだということです。

 トランプ政権の政策は、急速に有権者があれほど激しく拒絶したものに戻りつつあると記事は言います。軍人出身者らがトランプ氏の「米国第一」の外交政策を締め出しているように、経済面でもウォール街が経済の議論を有利に進めているということです。

 中産階級に再び光を当てるという公約を信じてトランプ氏に一票を投じた人々が、(ブッシュ政権下でのイラク戦争のような)無謀な戦争は二度とせず、大富豪への迎合もしないことを望んでいるのは確かでしょう。

 しかし、今、そうしたトランプ氏の選挙運動の立役者の中心にあったバノン氏が、ホワイトハウスでの地位を失いつつあるのはどうやら事実のようです。

 記事は、政治家は最低限、公約の一部を果たそうとすべきだと指摘しています。ワシントンの主流派は今、そうした(現状に不満を募らせる)有権者の期待を裏切っているということです。

 これから先も「民主主義」や「大衆の意思」を尊重するならば、米国の政治は「変革」する必要があると記事は言います。

 そうした視点から、バノン氏の処遇がこの先どうなるかで、トランプ氏が自分が大統領に選ばれた理由を忘れていないかがわかるだろうと結ばれたFINANCIAL TIMES紙の指摘を、私も改めて興味深く読んだところです。




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