MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1994 なぜ地方の人口流出は止まらないのか?

2021年10月18日 | 社会・経済


 地方で進む人口減少への危機感から、自民党第2次安倍政権が「地方創生」を看板政策に掲げて既に7年。東京一極集中の是正を目指し、多額の予算を費やしてきましたが、地方から首都圏への流出が止まったという話はつと気に聞きません。

 新型コロナの影響もあり、東京都区部への人口流入は減少傾向にあるというものの、首都圏全体でみれば転入超過はさらに拡大していると見る向きも多く、問題なのはその多くが本来地方の経済社会を支えるべき若者だというところにあるでしょう。

 総務省の住民基本台帳人口移動報告で2020年の全国の人の動きを確認してみると、他の道府県から東京都内への転入超過数は全国最多の3万1125人。なかでも10代後半から20代の若者たち、とりわけ女性の流入の勢いが転入超過を押し上げているようです。

 最初の緊急事態宣言が発出された同年4月の転入超過数を男女別に見ると、女性が男性の3・5倍。新型コロナにより男性が約80%低下したのに対し、女性は約57%の低下にとどまったとされています。

 この数字何を意味しているかと言えば、進学や就職で東京に出てきた若い女性の(年度替わりの)Uターン率が、同世代の男性に比べて極めて低調であったということ。都内の新型コロナへの感染拡大があれだけ進んだ時でさえ、東京にとどまる女性が多かったということです。

 なぜ、東京に出てきた女性は故郷に帰りたがらないのか。9月25日の東洋経済ONLINEに、住宅ジャーナリストの山本久美子氏が「地方の人口流出に、『仕事』」以外の隠れた本質理由」と題する興味深いレポートを寄せています。

 地方創生事業では、地方から東京圏への人口移動が止まらないのは地方における雇用や所得の問題だと考え、とりわけ地方経済の“稼ぐ力”に重点が置かれてきた。しかし、各種統計で確認してみると、必ずしも人口の社会増減を雇用や所得で単純に説明することはできないようだと山本氏はこの論考に綴っています。

 不動産情報サイトを運営する LIFULLのシンクタンク「LIFULL HOME'S 総研」の調査で、東京圏に住む30代以下の「地方出身者」に対して、出身道府県への「Uターン意向」を聞いたところ、Uターン意向を示したのは、全体の17.8%。男性(20.0%)よりも女性(15.5%)のほうがUターン意向は低く、30代の女性に至っては40.5%が「戻りたくない」と回答しているということです。

 では、Uターンをしたくない理由はどこにあるのか。一般的には「やりたい仕事」「生活利便性」などが大きな要因だと考えられているが、同調査の結果を見る限り、実は(男性よりも)女性では「人間関係が閉鎖的」「親や親戚の干渉」といったものが大きな要因となっているようだと氏は説明しています。

 同調査では、日本の各都道府県の「地域の寛容性」を測る指標を設け、暮らしの自由度を比較している。例えば「女性の生き方」として、「女性は家庭や子育てを最優先するべきだと考える人が多い」といった保守的な考え方と、「古い考え方に縛られないで自由に生きている女性が多い」といったリベラルな考え方を4つずつ提示し、当てはまる度合いを4段階で評価しているということです。

 その結果、「寛容性の高さ」の順位を見ると、1位が東京都で総合偏差値77.2、2位が神奈川県で73.2、3位が⼤阪府で69.5など、首都圏をはじめとした大都市圏が上位を独占していたと氏はしています。一方、最も低かったのは島根県の36.1、2位は秋田県の36.3、3位は富山県の38.8と、「地域の寛容性」は、「地方出身者」の「Uターン意向」と強い相関関係が認められたということです。

 つまり、多様な生活の仕方への寛容性が高い地域ほど、Uターン志向が高いということ。特に若い女性では、故郷に戻りたくない大きな理由の一つに「親や地域の人間関係に縛られたくない」という強い思いが伺われるとこのレポートで山本氏は指摘しています。

 少子化をもたらす大きな要因として、東京一極集中や地方活性化などの問題がクローズアップされて久しい。また、人口減少地域の活性化には「雇用の創出」や子育て層を呼び込むための「子育て家庭支援」、時代に合った「街づくり」などが重要であると言われてきた。しかし、本当にそれだけやっていれば、若者は「地元」に戻ってくるのかと(こうした調査の結果から)氏は疑問を呈しています。

 コロナ禍でテレワークが普及したことで、二地域居住や移住なども促進されると期待されている。しかし、仕事を都市部から持ち込むことができても、地域のコミュニティに溶け込み、豊かな自然と共生していくことにはさまざまな課題もあるというのが氏の懸念するところです。

 今回のレポートで浮き彫りになった「地域の寛容性」は、特に女性に強く影響すると見られると山本氏は言います。地方の人々は見て見ぬふりをしているようだが、当たり前の話として、若い女性が転入しなければ人口も増加しない。若い女性が自由に自然に振る舞える環境がなければ、いくらインフラなどに大金を投入しても結果はついてこないということでしょう。

 身近らが変わらなければ、若者はついてこない。そうした視点に立ち、女性が暮らしやすいと思える地域になっているかどうかが、今後の地方創生の大きなカギになることは間違いないとこの論考を結ぶ山本氏の指摘を、私も改めて興味深く読んだところです。



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