MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1516 ビッグマック指数

2019年12月24日 | 社会・経済


 日本マクドナルドホールディングスの業績が急ピッチで回復していると報じられています。

 2018年12月期決算で売上高は前期比7.3%増の2722億円、営業利益は前期比32.4%増の250億4500万円。前年の2017年12月期の営業利益に至ってはその前の期に比べて172.9%の増加となっており、まさにV字回復と言うべき好調さを見せています。

 さらに、営業利益率は9.2%と高く、これも前年の7.5%から大きく改善しています。これは、ハンバーガーを1個売るたびに(必要な経費を全て差し引いても)約1割の利益が発生している計算です。

 日本マクドナルドは、2014年12月期には67億円の営業赤字、2015年には252億円の営業赤字を計上していました。上海での使用期限切れ鶏肉問題や異物混入問題で消費者の信用を失い、さらに店舗や商品の陳腐化が競合他社との競争力を奪っていたためと言われています。

 しかし、その後マクドナルドはサラ・カサノバ社長の下、店舗や商品のリニューアルに積極的に取り組み業績を急速に回復させてきました。2019年1~6月期決算の売上高も前年同期比2.7%増、経常利益は同8.7%増で2001年の上場以来最高となるなど業績はさらに好調です。

 最近では、平日ランチタイム向けの「ワンコイン(500円)メニュー」や「ビッグマック+ドリンク400円」メニューなど価格競争で消費者を引き付けているほか、「未来型」と呼ばれる店舗やスマートフォンで注文・決済できる「モバイルオーダー」の導入により、省力化と顧客満足度を併せて高める戦略を進めているということです。

 さて、こうしてサラリーマンやママ友たちのランチメニューのリーズナブルな定番としてすっかり定着した感のあるマクドナルドのハンバーガーですが、(バリュー・セットだとか100円マックだとか)なぜこんなに安い値段で利益を出せているのかと考えたことはないでしょうか。

 そもそも、東京の銀座にマクドナルドがハンバーガーの1号店を出した1971年、大卒初任給は46,400円のところハンバーガーは1個80円の値札がついていました。これは、現在の初任給との比較で言うと260~270円の価格設定ということができます。

 一方、現在、マックのハンバーガーの値段は税込みで1個100円ですので、価格としては6割以上安くなっていると考えてよいでしょう。

 経済学の分野でよく知られた言葉に「ビッグマック指数(BMI)」というものがあるそうです。

 これは1986年に英国の雑誌『エコノミスト』によって「貨幣の的確な価値基準」を測るために発明されたもので、(その名のとおり)各国のビッグマックの価格を比較することによって、適正な為替レートを算出しようとしている指数だということです。

 ビッグマックはほぼ全世界でほぼ同一品質のものが販売されています。その販売単価は原材料費や店舗の光熱費、店員の労働賃金などさまざまな要因を元に決定されるため、賃金水準や生産性との相関が高く、購買力を示すわかりやすい指標となりうるというものです。

 このため、実際の通貨の為替市場におけるレートと比較することで、その通貨が実勢価値よりも高く評価されているかどうかが分かるとされています。

 日本の店舗でビッグマックを単品で頼むと一つ390円ですが、最も高いのは5年連続でスイスとなっており、日本円に直すと712円と2倍近い金額です。次いでアメリカの624円、スウェーデンの585円、カナダの561円と続きます。

 興味深いのは、ブラジルが500円、タイが420円、チリが416円、貧しいスリランカでも396円と、いわゆる発展途上国でもビッグマックには日本よりも高い値札が下がっているということです。

 因みに、お隣の韓国では415円と日本よりもやや高く、逆に中国では332円と日本よりもいくらか安い設定になっています。なお、最下位はロシアで、222円ということでした。

 さて、こうして並んだ金額を見て、「日本のビッグマックは高すぎる」と思った人はおそらく(きわめて)少数派ではないでしょうか。少なくとも、多くの人が、日本人の(国際比較上の)購買力はもっと高いはずだと感じたことでしょう。

 さらに不思議なのは、こうした価格設定でも日本マクドナルドは順調に収益を増やし続けているという現実です。

 政府はインフレターゲットを2%と位置づけ、(財政赤字も厭わずに)消費を刺激するための積極的な財政政策を展開しています。しかし、残念ながら日本の経済は、この20年間でそうしたシュリンクの局面に向かっていることはどうやら否定できない事実のようです。

 物価が上がらなければこれに越したことはないという向きもあるかもしれませんが、安いからと言ってビッグマックばかりを食べてばかりもいられません。

 物価は上がらないけれど給料はもっと上がらないでは生活が豊かになることはありませんし、国際的な競争力や信用がなくなることで失うものはさらに大きいと言えるでしょう。



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