今年の夏休みの終わり頃、平日午後の早い時間に乗った山手線の電車の中で、生まれて初めて「席を譲られる」という経験をしました。
目の前に座っていたのは、制服を着た(私立の)小学生と思われる女の子の二人連れ。そんなに混んでいる時間帯ではなかったのですが、もじもじしていた二人が顔を見合わせ、「どうぞ」と立ち上がる姿には可愛いものがありました。
見ればそこは、車両の隅っこにオレンジ色のつり革がぶら下がっているシルバーシート(優先席)。きっと彼女たちには、自分たちが座っているのがシルバーシートだという認識があったのでしょう。居心地が悪い中で目の前におじさんが立ったので、「これはまずい…」と立ち上がった様子です。
せっかくの好意を無にするのもなんだなと思いその場は有難く座らせていただきましたが、こちらもまだ還暦を超えてそんなに時間が経っていない身の上。次の駅でお礼を言ってそそくさと立ち上がり、ふたつ隣の車両に乗り換えた次第です。
真夏の日差しの中でかなり疲れて見えたのか、それとも70代以上に老けて見えたのか。初めてのことに多少のショックを覚えましたが、確かに小学生の眼で見れば40代も50代も同じ「おじさん」で、60代ともなれば「おじいさん」であることは間違いありません。自分もいよいよそういう年代になったのだなと、苦笑いを隠せなかった次第です。
そこで思ったのは、シルバーシートというのは、実際、何歳から座ってよいのかということ。ググってみると、このシルバーシートなるものは、旧国鉄が1973年の9月15日「敬老の日」に東京・大阪の国電区間に導入を始めた制度とのこと。当時から特に年齢制限はなかったようですが、各自治体が発行している公共交通機関の(いわゆる)「シルバーパス」の多くが70歳以上を対象としていることを考えれば、まあそのくらいが一つの目安になっているのでしょう。
少し前の東洋経済ONLINEに掲載されていた文筆家の蜂谷あす美氏の寄稿(「老人が優先席に自分から座るのは何歳から?」2017.4.9)によれば、「初めて席を譲られたときの年齢」についてのアンケート調査では、最高齢が77歳、最若手が40歳で平均は64歳だったとのこと。また、その多くが、初めて席を譲られたことをきっかけに、(本人としても)シルバーシートの利用を意識したと答えているということです。
確かに80代でも背筋がピンと伸びてかくしゃくとしている人もいれば、50歳前後でもすっかり禿げ上がり(失礼!)背中が丸まっている人も見かけます。結局のところ、問題は譲られる側の年齢ではなく、譲る側の「思いやり」の問題だということ。シルバーシート(優先席)は、その背中を押すために存在しているということでしょう。
因みに、1997年の道路交通改正によって導入された「高齢者マーク」(いわゆる「紅葉マーク」)の貼付も、2002年6月の法改正で70歳以上の(高齢)ドライバーに努力義務が課されています。その理由はもう少し現実的で、年齢が70歳を超えると、反射神経の鈍化や視力や聴力の低下といった身体機能の低下が、車の運転に影響を及ぼすおそれがあるからということです。
さて、国連の世界保健機関(WHO)の定義では、65歳以上の人のことを高齢者と位置付けており、実際、多くの先進国における高齢者の定義は65歳以上となっているようです。日本においても、現在、医療制度、年金制度その他の様々な法律が65歳以上の者をいわゆる「高齢者」と定義しています。
他方、人生100年時代と言われる長寿社会が訪れ、人口構成においても少子高齢化が進む中、高齢者の多様化とともに、世の中の仕組みも大きく変化しているのもまた事実。(今の感覚では随分落ち着いて見える)漫画「サザエさん」の父親、磯野波平氏の設定年齢が54歳だったというのも、朝日新聞で連載が始まった1950年代という時代背景があってのことでしょう。
人はいくつから高齢者になるのか。結論は人それぞれでしょうが、私の場合は、自分で自分が「現役じゃない」と諦めた時から。敢えて言えば、シルバーシートに平然と座っていられるようになった時かなと、実際に席を譲られてみて改めて感じたところです。
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