MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2280 遠のくシルバーシート

2022年10月17日 | 社会・経済

 企業の定年年齢が、昭和の55歳から平成には60歳へ、令和の時代には65歳へと引き上げられ、それに応じてこれから先、年金の支給開始年齢も70歳まで先送りされそうな気配が濃厚です。セカンドライフの過ごし方は人それぞれでしょうが、元気でバリバリ働く多くの高齢者の存在と社会保障財源のひっ迫、世代間の所得格差などを考えれば、(それはそれで)しっかり受け止める必要がありそうです。

 いつまでも現役を離れられない、人生のゴールテープがどんどん遠くに行ってしまうように感じる昨今、周囲に気兼ねなくシルバーシートに座っていられるようになるのはいつの日なのか。こうした状況を踏まえ、長浜バイオ大学教授の永田宏氏が9月8日の「日刊ゲンダイヘルスケア」に、「遠のくシルバーシート…将来的に高齢者は「75歳」からになる」と題する興味深い論考を寄せています。

 現在、日本の社会が直面している多くの問題は、高齢者が増えすぎたことに起因している。だから高齢者を減らせば、ほぼ自動的に問題は解決するはずだと、氏はこの論考の冒頭に記しています。本当にそんなことが可能なのか。そうした疑問はもっともだが、実は意外と簡単で、「高齢者」の年齢を引き上げさえすればうまくいきそうだというのがこの論考で氏の指摘するところです。

 世界保健機関(WHO)は、65歳以上を高齢者と定義しており、日本も今までこの定義に従ってやってきた。しかし、日本人の平均寿命は伸び続けているので、既に20年も前から「高齢者の定義を変えるべき」という議論が、専門家の間で交わされてきたと氏は言います。

 そうすることによって、(もちろん)財政的な負担は大きく減らすことができる。現在の高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の割合)は28.9%だが、たとえばこれを75歳以上にすれば、高齢化率は一気に14.9%に下がるということです。

 これは一見「誤魔化し」や「禁じ手」のように見えますが、実際、政府の高齢者対策を追っていくと、当面は高齢者を70歳以上とし、将来的にはこれを75歳以上にすることを強く意識しているようにも見えるというのが氏の見解です。

 民間企業の定年(再雇用を含む)が現在65歳まで延長されているところ、さらに昨年には、今後70歳を努力目標とすることが閣議決定されている。そんな政府の動きと前後し、日本老年学会と日本老年医学会からは、次のような新区分が提案されていると氏は続けます。

 これは、65~74歳を「准高齢者」、75~89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」とするもの。高齢者の健康や医療の専門家集団が、公式に「高齢者は75歳以上」と言い出したのだから、外堀は着実に埋まりつつあると思ったほうがいいということです。

 今後を考えれば、現在50代の人は70歳まで、40代の人は75歳まで働き続けるのが当たり前になってくるはず。いや、現実にそうなりつつあると氏は話しています。総務省の統計によれば、2017年における高齢者(65歳以上)の就業率は、日本が主要国の断然トップで23.0%。いまや高齢者の4人に1人が仕事をしているわけで、70歳定年はすぐそこまで迫っているということです。

 もちろん、定年延長自体が悪いわけではない。しかし、働き続けるためには、健康を維持する必要があるのは言うまでもないと氏は言います。私自身、いくら日本人の長寿化が進んだとしても、高齢者が生活を維持するためだけに、限られた体力で働き続けなければならない世の中が決して幸せとは思えません。

 一口に「高齢者」と言っても、ひとりひとりはいろいろな環境に置かれている。気力・体力も、正直、また人それぞれと言えるでしょう。元気な人もいれば、疲れてしまっている人もいる。家族と幸せに暮らしている人もいれば、人知れず孤独と戦っている人もいる。60年、70年の齢を重ねれば、人生への考え方も様々です。

 シルバーシートではありませんが、社会に暮らす人々が世代や(年齢にかかわらず)そうしたお互いを思いやり、暮らしやすい世の中を築いていく。そうしたシンプルな発想こそが、今の日本に求められているのではないかと改めて感じたところです。

 



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