MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1775 銀行の復活はあるのか

2020年12月22日 | 社会・経済


 少し前の記事になりますが、今年夏のクールにおいて高い視聴率を記録したTBSドラマ「半沢直樹」について、8月10日の産経新聞が「「半沢直樹」は令和の時代劇か」と題する目を引く記事を掲載していました。

 話題となったこのドラマでは、大手メガバンクを舞台に激しい出世競争や渦巻く陰謀、個人の生い立ちにまで遡る壮大な復讐劇が描かれている。サラリーマンが組織で生きていくことの生々しさと、登場人物たちのオーバーアクションが巻き起こすシリアスで重厚な物語だからこそ、敵味方がはっきりして個性が単純明快なキャラクターの生きざまが際立つというのが記事の評価です。

 一般的に、不況や暗い世相の時こそ、「復讐」やら「下克上」やらといった(つらい日常生活の)鬱憤を晴らすような物語が好まれると記事はしています。

 コロナウイルス禍で在宅・自粛生活が続く中、企業の経営状態も先行きの不透明感が拭えない。人々は強いられたストレスの環境の下で、閉じ込められた抑鬱感を発散させるある種のカタルシスを求めているということでしょう。

 正義感が強く物分かりの良い妻がいる(なおかつ仕事のできる)主人公が、艶めいた雰囲気の女性の助けを得て、部下を率いて大きな仕事をやり遂げる。

 こうした流れには「昭和の男」たちの理想と世界観が詰まっており、その頃(つまり昭和の時代)といまだに状況が大きく変わらない(ある意味、閉鎖的・特権的なイメージを持つ)「銀行員」の行内政治が、その舞台として選ばれたということでしょう。

 10月30日の日本経済新聞(コラム「大機小機」)は「銀行復活へ覚悟のとき」と題する一文を掲載し、その体質の古さと存在感の低下が指摘される現在の銀行に期待される「改革」への道のりに触れています。

 社会現象を巻き起こしたテレビドラマ「半沢直樹」。(勧善懲悪の復讐劇そのものに関しては)「昭和のメンタリティーに浸っている」との声は聞こえてくるものの、このドラマを契機として銀行は関心の的になったと筆者はこのコラムに記しています。

 しかし、翻って、当の銀行は株式市場でどう評価されているのか。(少なくとも)株価推移を検証する限り、個々にばらつきはあるものの全体としては驚くほどの低迷が続いていると筆者は指摘しています。

 一部を除きPBR(株価純資産倍率)は継続して1を大きく下回り、市場は退場を警告している。ドラマの高視聴率と銀行の市場評価は天と地であり、再編が政策テーマになっている地銀ばかりでなく、メガバンクを含めた銀行全体が苦境に陥っているというのが筆者の認識です。

 こうした株価の低迷に加え、かつては非常に高かった就活生の銀行人気がここ数年は下降トレンドにあることは広く知られています。女性活躍の時代ともいわれるだけに女性に親しまれる存在であることは今や極めて重要だが、(筆者によれば)とりわけ女子学生の人気は目を覆うばかりだということです。

 就職情報大手マイナビの調査によれば、銀行に対するマイナスイメージは「将来性」「職場の人間関係」「変革性」に集約されていると筆者はしています。

 つまり、従来の「銀行」というビジネスモデルに先行きの不安を感じ、(ドラマの影響もあって)疲れ果てる人間関係を想像し、変革性に乏しくて明るい未来を感じない…ということではないかということです。

 ドラマでの人気と裏腹に、現実の銀行は株価が示すように将来性を厳しく評価され、学生からも敬遠されているというのが、現在の銀行の有り様に対する筆者の厳しい評価です。

 昭和の時代をリードした銀行は社会や学生からの評価が極めて高かったが、今や様変わり。超低金利の長期化など金融環境も激変し、創り上げてきたビジネスモデル、従業員の働き方が、令和の時代にミスマッチを起こしていると筆者はこのコラムに記しています。

 確かに、ドラマ「半沢直樹」に描かれる、旧Tだとか旧Sだとかいった行内政治が優先され、親分子分の人間関係や貸し借りによって縛られた銀行の職場に魅力を感じる若者はそう多くはないでしょう。

 中でも、男のイメージに染まった存在としてしか描かれることのない女性たちの、家庭か仕事かを選択させられたその姿に魅力を感じる女性たちはさらに希少と言わざるを得ません。

 現実の銀行がそうした環境にあるとは言いませんが、もしも銀行が投資家や若者からの支持を失っているとすれば、必要なのは小手先の対策ではなく、自らが提供する価値を突き詰めることで存在意義を問い直し、ビジネスモデルを再構築することだと筆者は言います。

 政治が動く前に自ら再生に向け「倍返し」復活できるか、今、銀行経営陣と取締役会の覚悟が問われているとこのコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も共感を交えて興味深く読んだところです。



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