MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2495 ウクライナ戦争が長期化している理由

2023年11月14日 | 国際・政治

 イスラエルとパレスチナ解放組織ハマスの衝突が既に1か月を超える中、ロシアと交戦中のウクライナの戦況に関する国際的な関心が低下していると言われています。

 ウクライナ軍が今年6月以降、ロシア軍に対して続けている南部での(いわゆる)「反転攻勢」についても、今のところ目立った成果につながっていない。対ロシア軍との戦況に関し、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は11月1日付の英誌エコノミストのインタビューに対し、ウクライナとロシアの両軍が前線で行き詰っており、「手詰まり」の状態に達したと発言、「おそらく深く美しい前線突破はないだろう」と述べているということです。

 同総司令官によれば、ロシアとの戦争が今ではお互いの位置を維持するための静的な段階に移行しつつあり、これによってロシアは「軍事力再建の猶予を得る」ことになるだろうとのこと。一方、ウクライナを支援する西側諸国の間でも、戦線膠着の状況に、高額な兵器や資金を提供し続けることへの抵抗感が募っているとも言われています

 こうした状況に、ゼレンスキー大統領自身11月4日の記者会見で、「ウクライナへの関心が低下していると気づいている。これは事実だ。これがロシアの目標の1つだ」と話し、危機感を隠せない様子です。

 ロシアによるウクライナ侵攻の開始からもうじき2年。世界情勢が大きく変化する中、関係国の様々な思惑を飲み込んだウクライナ問題は世界に何をもたらし、どこに進もうとしているのか。

 月間総合誌「文芸春秋」の12月号が、「勝敗はすでに決しているのに、空約束の軍事支援で、米国はウクライナに戦争継続を強いている」と題するフランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏へのインタビュー記事を掲載しているので、参考までにその一部を小サイトに残しておきます。

 我々は今、ウクライナ戦争の報道を日々眼にしているが、西側の主流メディアは最も肝心な現実をきちんと伝えていない。西側陣営が直視できていない(その)現実とは、米国がすでにウクライナ戦争で負けてしまっていることだとトッド氏はインタビューに答えています。

 戦争は、長期化すればするほど「物量戦」の様相を呈してくる。複雑で高度で高価な最先端の兵器よりも、通常の安価でシンプルな兵器や弾薬が大量に必要となるというのがトッド氏の認識です。

 ところが現状、グローバリゼーションによる「産業空洞化」という米国の弱点がここに来て露わになっている。米国は、膨大な額の軍事支援をウクライナに約束していながら、国内産業が空洞化しているために、「通常のシンプルな兵器や弾薬」を迅速かつ大量に供給できないでいるということです。

 「兵器供給力=工業生産力」で、米国は既に敗北している。つまり、米国が十分な武器や弾薬を物理的にウクライナ軍に提供できないことにより、この戦争の勝敗は事実上決しているとトッド氏は言います。

 「貨幣を配ること」と「実物の製品を配ること」は同じではない。膨大な額の軍事支援の約束はあるが、実際の軍事物資そのものがウクライナに届いていないという今、ウクライナの「反転攻勢」が失敗に終わることは明らかだということです。

 では、すでに失敗に終わっている「反転攻勢」は、一体、誰のため、何のために続けられているというのか?

 いわゆる「反転攻勢」とは、西側陣営が大量の兵器を供与することでウクライナ軍を増強し、冬の間に構築されたロシアの防衛線を突破して、占領された領土全体の奪還をめざすもの。しかし、私の眼にはこの「反転攻勢」が、米国がウクライナを勇気づけるためのものというより、米国がウクライナに強いたものであるように見えると氏はここで指摘しています。

 空約束の軍事支援をちらつかせ、ウクライナに戦争継続を強いている米国の指導者たち。戦争が始まって高揚したウクライナのナショナリズムを見て、「これは、不倶戴天の敵であるロシアを弱体化させる絶好のチャンスかもしれない」と米国は考えたというのがトッド氏の推測するところです。

 しかし、よく考えてほしい。この戦争が長期化すればするほど多くの犠牲を強いられるのは、ウクライナの人々だと氏は言います。戦争が長期化するほど、多くのウクライナ人が犠牲となり、ウクライナの建物や橋は破壊されていく。実際、「反転攻勢」が始まった6月4日以降、ウクライナ側ではこれまで以上に大量の死者・負傷者が出ているということです。

 米国は「支援」の名を借りて、実はウクライナを破壊している。自らの手を汚さずに(ある意味「身内同士」の戦いで)ロシアを消耗させ弱体化させること。それが米国の長期的な狙いだということでしょうか。

 歴史的にロシアと緊密な外交関係を維持してきたフランスの(特にウクライナ問題に対する)立ち位置は、確かに米・英のアングロサクソン連合とはかなりニュアンスの異なるところ。マクロン大統領も、歴史的にロシアと緊密な外交関係を維持してきたフランスの立場を保つのに腐心しており、西側諸国も巻き込んで紛争が拡大するリスクについてたびたび警告していると聞きます。

 戦線膠着とパレスチナ紛争の再燃の中で微妙な状況を迎えるウクライナ問題。米国追従の姿勢を頑なに示す日本政府も、(そろそろ)自らの立ち位置を明確にしていく必要があるのではないかと、トッド氏の指摘に改めて感じるところです。



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