MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2494 個人所得のデータが示すもの

2023年11月12日 | 社会・経済

 日本の個人所得が9年連続で上昇し、全国の約3割に当たる494市区町村でバブル期を上回ったとの報道がありました。(日本経済新聞2023.9.30「個人所得、バブル超え3割」)

 記事によれば、総務省が公表している個人住民税(所得割)の課税対象所得を納税義務者数で割った1991年の一人あたりの所得は、前年度より10万円多い361万円。賃金上昇に加え、株式や不動産の売却益の増加、地方部では道路網の整備などで工場進出や農産物の高付加価値化などが所得の押し上げに寄与しているということです。

 2022年度の(都道府県別)課税所得が全国一だった東京都もバブル期を0.9%上回ったとのこと。中でも港区は全国トップの1471万円で、バブル期から60.6%もの増加。株式や不動産の譲渡所得などの増加が寄与していると見られ、千代田区で11.0%、渋谷区でも38.3%増えたとありました。

 バブル期と言えば、港区や千代田区、渋谷区などで開発に伴う地上げが進み、折からのNTT株売却に端を発する株価の高騰、そして1ドル70円台を記録した円高なども相まって、日本中がマネーに浮かれていた時代。私自身の記憶でも、周囲の人たちの多くが「投資」に熱を上げ、挙って不動産や有望株を買いあさっていた印象があります。それに比べ、現在の状況はあまりに静か。そこかしこで聞き耳を立てても、儲け話に花が咲いているという感じはありません。

 所得の少ない(多くの)人はじっと耐え忍び、所得の多い(一握りの)人たちは独自のネットワークの中で、静かに、しかし確実に所得を増やしているということでしょうか。そういえば、いつの間にか都内の新築マンションは1億円超えが「あたりまえ」になり、別荘や高級車が飛ぶように売れているという話も聞きます。

 港区民の所得が(納税義務者)一人当たり1471万円と聞けば「さもありなん」とは思いますが、それにしても「平均」で1500万円。これが普通でない状態であることは感覚としてわかります。因みに、個人所得の全国平均は361万円で1992年比で5.3%の減との由。港区の約四分の一という状況に、「格差の拡大」や「分断」を読み取ることは容易です。

 さらに言えば、「平均」で四分の一なのですから、住民がそれよりももっと(ずっと)少ない所得で日々の生活を賄っている地域が(全体の)半分はあるということ。こうした数字に、「世の中は何か間違った方向に向かっているのではないか」と感じる人もきっと多いことでしょう。

 世の中が(何となく)浮かれていたバブルの時代が「素晴らしかった」とは言いませんが、当時は当時で、日本中の多くの人達がその熱に期待や希望を込めていたのもまた事実。都会に出れば何か「いいこと」があるのではないかと、たくさんの団塊二世が胸を膨らませて東京を目指したこの時代と(現在とを)比べると、例え「所得が追い付いた」と聞かされても、素直に喜べないような気がするのは私だけではないでしょう。

 若者の口から「親ガチャ」とか「発射台」などという言葉がしばしば漏れるようになったこの時代。静かに進む経済の拡大を一部の一部の人たちのものにしたままではいけないと、改めて感じるところです。

 



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