5月6日に行われた共同通信社主催の講演会で、日本銀行の黒田東彦総裁が「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言したことに対し、朝日新聞をはじめとしたいくつかのメディアが、「発言全体から透けて見えるのは、今の金融政策を正当化したいという黒田氏の思惑だ」とさっそく噛みついています。
6月8日の朝日朝刊は(黒田)総裁の発言に、「野党議員からは『生活者不在と感じた』などと厳しい指摘が相次いだ」「『国民の声とは全くかけ離れている』との声が上がっている」などと報じ、参議院議員選挙に向け政府の任命責任を追及していく野党の姿勢を伝えています。
併せて、スーパーマーケットの買い物客へのインタビューで「野菜や調味料などの価格が上がり、少しでも安い店を探して買い物をしている」「黒田さんはもらっている額が違うから感覚が違う」といった声を拾い、黒田総裁の生活者目線の欠如を強く批判しているところです。
当の黒田氏は、同7日の参議院財政金融委員会でもこの発言への釈明に追われました。立憲民主党の白真勲参院議員の「ご自身がショッピングしたときの感覚、実感をお聞かせください」との質問に、「基本的に(食品などの買い物は)は家内がやっておりますので、物価の動向を直接買うことによって感じているというほどではありません」と答弁すると、メディアはそこに食いつきます。
同日の「女性自身(ONLINE)」は、公表されている黒田総裁の年収が3501万円であることを挙げ、「こうした国民生活と乖離した感覚を持つ黒田総裁がなぜ『家計が値上げを受け入れている』と言えるのか?」と厳しいコメントを添えています。(「日銀・黒田総裁 年収3500万円、買い物は妻任せ…「値上げ受け入れてる」発言の陰で“リッチ”な生活」(2022.6.7))
結果、黒田総裁は同日の記者会見で、「家計が自主的に値上げを受け入れているという趣旨ではない」「誤解を招いた表現だったということで、申し訳ないと思っている」と釈明。大手新聞各紙は、これを「異例の謝罪」として大きく取り上げています。
さて、7月の参院選まで1か月を切ろうというこの時期。岸田現政権の安定した支持率と波風の少ない政局を前に、野党の焦りや、メディアが(あの手この手で)政府・与党に揺さぶりをかけたい気持ちはわからないではありません。
しかし、そもそも黒田総裁が言っているのはマクロ経済のデータから読み取られた「傾向」の話であり、庶民の「生活実感に寄り添っていない」と批判されてもそれとこれとは話が違います。そこで、自身の収入の話をされてもせん無いこと。ましてや、「スーパーに買い物に行かないから生活感覚が判らない」と非難される(77歳の)日銀総裁というのも、「なんか可哀そうだな」と思うのは私だけでしょうか。
もちろん生活水準は人それぞれ違うので、値上げの痛みや金銭感覚が生まれ育ちや家計の状況によって異なるのは当然でしょう。そんな時、統計データに真摯に向き合い、政治家とは違った立場から専門家としてクールに状況を分析することは、日銀総裁としての彼に託された使命ではないかとも感じるところです。
一連の報道姿勢にそうしたことを感じていた折、6月7日の「スポーツニッポン(ONLINE)」に掲載されていた「三浦瑠麗氏 立憲議員の国会質問にあきれ…日本全体の議論の質を落としている」との記事に目が留まりました。
国際政治学者の三浦瑠麗氏が7日放送のフジテレビ情報番組「めざまし8(エイト)」に生出演し、日銀の黒田東彦総裁をめぐる参院予算委員会の答弁について「議論の質を落としている」と語ったと同記事は伝えています。
黒田総裁は参院予算委員会において、立憲民主党・白真勲参院議員から「食料品を購入する際、以前と比べ価格が上がったと感じるものがあるか」などとの質問を受けた。
この質疑に対し三浦氏は、「(白議員の)こういう取り上げ方は一番やってはいけないと思う」と発言。「みなさんの一人ひとりのことではないんですよ、家計というのは。日本全体の家計ということ。(彼は)事実しか語っていない」とコメントしたと記事はしています。
そして、「黒田総裁は専門家なわけです。専門家がマクロの全体の話を見て言っているのに“私が行った今日のスーパーでは、白菜はこのくらいの値段でしたけど”っていうね、エピソードベースで反論しようというのは一番やってはいけない」と指摘。「これが日本全体の政治や経済に関する議論の質を落としている。感情論で専門家の意見に反対するのは、やめた方がいい」とさらに持論を展開したということです。
黒田総裁の発言について三浦氏は、「(あくまで)給料を上げるまでの時間稼ぎができるだけ、全体としてみれば家計に貯蓄があるということ(にすぎない)。低所得者に保障とか保険をすべきでない、と話しているわけではない」と説明。「給料を上げるのに相当の期間がいる中、ベアが決まるまでの時間稼ぎができると言っているわけです」と分析したとされています。
さて、主に野党による国会質問などでよく使われる手法ですが、データ分析と感情論を(あえて)ごっちゃにして、人間性の問題にまでレベルを下げて相手を批判する姿には、政治家として(ある意味)見るに堪えないものがあると私もしばしば感じます。
(今回の白氏がどうということではなく)本人は国民感情を代弁しているつもりでも、とどのつまり、よく勉強・理解していないので、相手の話を封じ直観と勢いだけで押しとおす姿は(国会中継などでも)よく目にするところ。(どこの政党とは言いませんが)庶民の代弁者、正義の味方のような声高な糾弾にこそ、国民への裏切りや誤魔化しがあるようにも感じるところです。
燃料高や円安によるインフレ懸念が高まる現在、私自身、苦しい生活を余儀なくされている国民がこれ以上の値上げや物価高を容認できる状況にあるとは思いません。しかし、そこは政治がしっかりと国民の声を受け止め、判断すべきこと。ここで日銀総裁の発言をあげつらっても、国民にメリットはないと考えるところです。
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