MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2102 若者を惹きつける街、東京

2022年03月02日 | 社会・経済


 東京都は1月31日、今年1月1日時点の推計人口が1398万8129人となり、暦年ベースで26年ぶりに減ったと発表しました。前年同時期よりも4万8592人の減少で、23区では都内全体を上回る4万9891人減少。23区で増加したのは中央区、台東区、墨田区の3区のみで残りの20区は減少。一方、都下の市部人口は前年より2089人増え、立川市や町田市などで大きくプラスに振れたということです。 

 時を同じくして、総務省が公表した2021年の人口移動報告では、東京23区は比較可能な2014年以降で初めて、域外から転入した人数を転出者が上回る「転出超過」に転じたと伝えられました。特に23区では転出者が38万2人に対し、転入者は36万5174人で、転出超過が1万4828人に達している。東京都全体では、転出者が41万4734人、転入者は42万167人で、差し引き5433人の転入超過だったということです。

 こうした発表に対し多くのメディアは、東京から転出する人が増えている背景には、コロナ禍を機に多くの人がテレワークを始め出社回数が減ったことがあると報じています。都内企業の働き方の見直しが進み、東京都心部からから近隣県に人が出て行く流れが強まったということです。

 因みに、昨年4月19日付の東京新聞は、東京23区からの転出者がどこに移ったのかを調べています。それによれば、1位が藤沢市(神奈川県)、2位が三鷹市(東京都)、3位が横浜市中区(神奈川県)、以下小金井市(東京都)、川崎市宮前区(神奈川県)、川崎市高津区(神奈川県)、船橋市(千葉県)、鎌倉市(神奈川県)、つくば市(茨城県)と人気の住宅地が続いており、確かに都心に住む人々が環境の良い郊外に流れたことが見て取れます。

 少なくとも、コロナが怖くて東京から脱出したという話ではなく、この機会に東京郊外の広い一戸建てに移り住み、家族との生活自体を見直そうという動きを感じるのは私だけではないでしょう。そもそも、これまでの東京の転入超過、人口の一極集中を支えていたのは10代の終わりから30代にかけての若い世代だったと言われています。

 進学や就職で地方から上京してきた若者たち、そして海外から渡航してきた外国人たちなどが集まり、青春時代や働き盛りの一定期間を過ごす街、東京。しかし、今回のコロナ禍は、こうした若い世代の動きを抑制し、併せてそれ以上の世代の都心離れを促した。そういう意味では、新型コロナのパンデミックは、大都市での生活の脆弱さや暮らしにくさを改めて浮き彫りにしたと言えるのかもしれません。

 とはいえ、東京の持つ人口吸引力はこのコロナが収まれば、再び力を盛り返すことは想像に難くありません。特に、未来ある若い世代にとっては、勉学や就職の機会、人との出会いなど様々な選択肢のある東京の暮らしは、何もとにも代えがたい魅力に映ることでしょう。東京はなぜ(これほどまでに)若者を惹きつけるのか。少し前の記事になりますが、コラムニストの荒川和久氏が2020年7月14日の東洋経済ONLINEに「20代独身の若者たちが東京に集まり続ける理由」と題する論考を寄せていたので、この機会に一部を紹介しておきたいと思います。

 東京の転入超過総数の93%が20代で占められていることはあまり知られていない。実際のところ35歳以上では東京都ですら転出超過に見舞われており、東京の転入増はこうした20代のほぼ未婚の若者たちによるものだと、荒川氏のこの論考に綴っています。

 若者が移動する最大の理由は仕事にある。東京に集中するのは、その他のエリアと比べて就職先の絶対量が大きいことと高収入を得られる可能性が高いからだと氏は言います。都道府県別アラサー男性の平均年収のランキングを見ても、東京在住者の年収は未既婚かかわらず全国のトップで、全国平均より20%以上も高い年収を誇っているということです。

 未婚の若者が職を求めて東京に集中すれば、副次的な効果も生まれます。それが、結婚数の増加だと氏は続けます。実のところ、結婚も東京に集中している。東京は生涯未婚率が高い(男性3位、女性1位)ので勘違いしている人が多いが、それはあくまで45~54歳の中年男女の未婚比率が高いということ。平均初婚年齢の30歳前後の東京の未婚率は、全国平均とあまり変わらないと氏は言います。何より、東京の人口千対の婚姻率は全国一高く、しかも 2000年にトップに君臨して以来ずっと1位をキープしている。2018年実績では、人口千対婚姻率6.0以上なのは、全国でも唯一東京だけだということです。

 婚姻数が多いということは、それだけ出生数も多くなる。東京の合計特殊出生率は全国最下位ということでこちらも誤解する人が多いが、この合計特殊出生率の分母は、15~49歳の未婚の女性も含んだもの。東京は、全国各地から未婚若年層がたくさん集積しているエリアなので、東京の合計特殊出生率が低くなってしまうのは、この若年女性の転入が多いことによるものだと氏は説明しています。その証拠に、人口千対の出生率は8.0(2018年)で全国7位と上位に位置している。合計特殊出生率の数字だけを見て、東京の出生が少ないというのが明らかな誤りだというのが氏の認識です。

 一方、東京都とは正反対に、婚姻率と出生率ともに全国最下位を継続している秋田は、20代の転入超過率(2018年人口対比)もマイナスで全国最下位だと氏は指摘しています。47都道府県すべての20代の転入超過率と婚姻率の相関を見ると、若者の転入が多ければ多いほど婚姻率は高まるという強い正の相関があることがわかる。つまり、結婚と出生に影響を与えるのは若者がどれだけ転入してくるかであり、若者が外に出ていくエリアは自動的に結婚も出生も少なくなることを意味しているということです。

 若い世代は仕事を求めて移動するが、仕事があれば無人島でもいいというわけではない。仕事が多くある場所とは多くの人が集まる場所でもあり、彼らが都会に出てくるもう1つの理由は、人と出会うためでもあるというのが氏の見解です。今よりもさらにテレワーク環境などが整い、例え物理的に集まる必要のない環境が整ったとしても、今度はそれでは、若者同士の出会いがなくなる。一方、人の多く集まるところで仕事や交流をし、多くの人たちと出会うことによって若者は結婚し、子供を産み育てることになるのであって、(言ってしまえば)人のいない所に彼らは行きたくはないというのが氏の指摘するところです。

 今後、数十年にわたり続くことが予想されている少産多死時代。若者たちが活力をもって働き、結婚し、子どもを産み育てていくには、都市空間が持つ活力もまた欠かせないということでしょう。コロナ禍によって地方への回帰が進んでいると(地方再興の期待とともに)報じられる昨今ですが、東京のエネルギーやダイナミズムもまた日本の将来にかけがえのないものであることを、氏の論考から私も改めて考えさせられたところです。


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