MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1794 近未来のビジネスマナー

2021年01月27日 | 社会・経済


 厚生労働省が11月6日に発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、1人当たりの現金給与総額は26万9503円と前年同月比で0.9%減っているということです。

 新型コロナウイルスの感染拡大が鮮明になった4月から6カ月連続の減少となっており、残業代などを示す所定外給与が1万6761円と12%減った影響が大きいと報じられています。

 実際、在宅勤務やテレワークの普及が進む中、(9月の1か月間の)1人当たりの総実労働時間は136.1時間と1.5%減少しており、その内訳は所定内が△0.6%、所定外が△12.5%だったとされています。

 「働き方改革」が官民挙げて叫ばれるようになった昨今ですが、昭和生まれのサラリーマンがビジネスの第一線から退出しつつある中、世代交代と共にオフィスにおける働き方にも(少しずつではありますが)確かな変化が生まれつつあるようです。

 12月21日の東洋経済ONLINEでは、ライフバランスマネジメント研究所代表の渡部 卓(わたなべ・たかし)氏による「電話嫌いの若者が急に増えた意外すぎる理由」と題するレポートを掲載しています。

 20〜30年前の職場なら職場における当たり前の光景として、定時で仕事が終わった新人がまだ残っている上司や先輩に「何かやることありますか」と訊く慣例があったと、氏はこのレポートに綴っています。

 これはもちろん、「今日はこのまま帰ってよろしいですか」と先輩たちに許可を求める際の(ある種の)「サイン」なわけですが、上司や先輩より先に帰る場合には必ずひと言かけろ、がビジネスマナーというか、ひとつの「常識」として認知されていたことを意味しています。

 当時は、自分の担当する仕事が終わっても、それ以上の仕事をしてこそ認められると教えられていた。ビジネスとは、相手の期待に応えているだけではダメで期待値を上回る成果を見せて初めて評価される、そんな教育を受けていたということです。

 しかし、いまではそんな昭和の常識は通用しない。新人は“声がけ”などなくサッサと帰っていくと氏は言います。

 そんな彼らの姿を見て、「なぜ若い社員は残業を嫌がるのか」と中高年世代は言いがちです。(このご時世ですから)言葉には出さなくても、「みんな忙しそうにしているのに何で普通の顔をして帰れるのだろう」と、苦々しく思う上司たちも多いかもしれません。

 でも現在では、この「なぜ」という疑問自体がおかしいと考える必要があるというのが、このレポートにおいて渡部氏が指摘するところです。

 この不安定な世の中では、会社に尽くしても必ずしも報われるわけではない。若い人が言われたことしかやらないのは、気が利かないわけでも、やる気に欠けるからでもなく、(勿論、本当に気が利かなかったりやる気に欠けている若手社員もいるでしょうが)指示された以上の仕事をしても自分のためになるという意識を持てないからではないかと氏は説明しています。

 氏が担当する学生たちのレポートを見ても、教員である私の期待を超えて驚かせてやろうという意識はあまり感じられない。指示された範囲の中で、自分なりに頑張る学生がほとんどだということです。

 「プラスアルファ」の冒険をすることに躊躇がある。無理をして浮いてしまうよりも、与えられた役割の中で「そこそこ」頑張り、問題の無い評価を得られれば良いということでしょうか。

 見方を変えれば、相手のテリトリーにわざわざリスクをとってまで入り込むことへのメリットを感じられないということなのかもしれません。

 いずれにしても、それぞれが自分の守備範囲を守るのが彼らの経験上のマナーであり、その一線を越えること(越えられること)は彼らにとって大きなハードルに映っているような気もします。

 さて、同様の観点から、良く知らない相手と直接コミュニケーションをとらなければならない「電話」が、嫌で嫌で我慢ならない若者が増えていると氏はこのレポートに記しています。

 職場への休暇の連絡をメールでよこすのはのはもはや普通で、最近では退職する旨の連絡をメール一本で済ませようとする若者も珍しくないとはよく聞く話です。

 彼らは、「NO」という言葉を口にすることにも、電話で相手と直接と話をすることにも慣れていないと氏は言います。

 中高年の世代には何ということもない電話での会話も、若い世代にとっては不慣れでストレスフルなものとなっている。実際、職場で電話を取りたがらない新入社員が多いことは周知の事実だということです。

 突然電話をかけたり、かけられたりという行為自体が、彼らには(ある意味「デリカシー」に欠ける)唐突で不自然なものに映る。必要な場合、まずLINEで「いま、電話してもいい?」と事前に確認してから電話につなげるのが彼らのマナーだということです。

 親しい間柄であっても直接電話はせず、日常的にLINEのやりとりでコミュニケーションを完結させている彼らには、友人でも何でもない見知らぬ相手に入れる断りの電話は、とてつもなく難度の高い作業だというのが氏の見解です。

 さらに言えば、実際に初対面の相手と顔を合わせるというハードルも高い。彼らはリアルな素顔での生のコミュニケーションに対して抵抗感があって、とにかく顔をさらす行為への拒否反応が強いということです。

 さて、こうした状況を考えれば、今後10年とか20年とかの時間がたって現在の若い世代がオフィスの主導権を握るようになった時には、現在の仕事の仕方やビジネスマナーも(やはり)大きく変わっていると考えるのが自然でしょう。

 チームとも顧客と直接顔を合わせることも言葉を交わすこともなく、チャットやメールで商談や交渉を進める。言い難いことは可愛らしいキャラクターの「スタンプ」に代弁させ、不出来な部下や担当に声を荒げたり、感情を露にする上司や取引先ももいなくなるかもしれません。

 直接電話をかけるなんてもってのほか。ネットを介して淡々と進む、クールで穏やかなビジネスシーン。目標達成への情熱や個人と個人の信頼、必要なチームワークなどが確保できれば、それはそれで時代に合ったやり方なのではないかと今回の渡部氏のレポートから私も改めて感じるところです。



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