MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1882 気が付いたら置いてきぼり

2021年06月20日 | 社会・経済


 4月1日付けの総合経済サイト「ダイヤモンドONLINE」に、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏が、「弱いGDP回復力、コロナで日本の国際的地位は低下する」と題する論考を寄せています。

 氏によれば、IMF(国際通過基金)の推計をもとに中国、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、日本の7か国の2019年から2021年にかけてのGDP増加率を比較したところ、日本が0.46%と最も低かったということです。
 新型コロナの感染拡大を最も早く抑えた中国の14.5%が最も高く、ドイツ(11.8%)、フランス(7.4%)など(コロナによってたくさんの死者を出した)ほとんど国が2%以上の成長を実現している一方で、先進国の中で日本の回復だけが遅れているのが現状のようです。

 もちろん日本経済の回復が遅いのは、日本では経済活動よりウイルスの封じ込めを重視しているからだと言えるでしょう。
 もともと、急激な高齢化や人口減少局面に直面する一方で労働生産性が上がらず置いてきぼりを食っていた日本経済。そこに、コロナ対策の遅れがさらに足を引っ張る形となり、(コロナのどさくさで国民の多くが気が付かないうちに)周回遅れの様相を呈しているということです。

 現状否定的な厳しい言説で知られる野口氏ですが、とは言え、コロナで益々しょぼくれていく日本を、私たちはこのまま座視していてよいのでしょうか。

 確かに、政府にも経済界にも、いまだ「反撃に出よう」という積極的な動きは見えません。もちろん感染対策は重要です。しかし、だからといって内向きになるばかりでなく、時には周りを見る努力が必要なのではないかと感じるところです。
 そんな折、5月30日の日本経済新聞に掲載されていた「コロナ禍が示す国民の行動様式」と題する記事が目に留まりました。(経済コラム「大機小機」2021.5.30)

 先日発表された2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)の成長率は年率換算でマイナス5.1%。米国の(プラス)6.4%とは対照的な数値となったと記事はしています。
 前年1年間の成長率も日本がマイナス4.7%、米国は同3.5%でこちらも日本の落ち込みが激しかった。さらに国際通貨基金(IMF)の4月の世界経済見通しによると、今年は全般に回復し、日本の成長率は3.3%、米国は6.4%とされており、日本経済の復元する力は国際的にも弱いと見られているということです。

 一方で、新型コロナウイルスによる直接的な人的被害は、現在まで日本は格別に少ない国として知られている。新型コロナによる死亡者数は4月末で1万人を超えたが、米国は足元で59万人、イタリアやフランスは10万人以上であることを考えれば、日本の経済的損失は人的被害に比べあまりにも大きいというのが記事の認識です。

 では、その原因はどこにあるのか。人的ダメージは小さいのにパフォーマンスが大きく落ちている理由は種々指摘されているが、基本的にはリスク回避的な日本人の行動特性から説明できるのではないかと記事はしています。

 記事によれば、行動経済学や社会心理学の分野で「独裁者ゲーム」という実験があるそうです。2人でペアを組み、そのペアは主催者からお金をもらう。1人はお金を「分ける」役割、もう1人は「分けてもらう」役割を分担するものだということです。
 社会心理学者の故山岸俊男氏によると、日本人は(その際)「分けてもらう」役を選ぶ人が多いということ。分けることには責任が伴うため、(日本人には)それを嫌う傾向が強いと記事は言います。

 さらに、日本人は「自立心をもって自己責任で行動することが苦手で、用心深く自己防衛的」と山岸氏は分析している。意思決定が他者依存的で、自ら進んでリスクをとることに極めて慎重だというのが記事の指摘するところです。

 最初の緊急事態宣言が出た昨年4月以降、欧米のロックダウン(都市封鎖)のような強制措置がなくても日本国民は街から姿を消した。他国に比べて人的被害が少ないのに経済的損失が大きい理由は、ここにあるような気がすると記事は説明しています。
 このことは広く社会的、公共的な課題より目先の自分の問題に目が行き、長期的で戦略的な発想に乏しいことにつながっている。新型コロナワクチンの開発の遅れや接種体制の不備の根本原因はここにある(のではないか)というのが記事の見解です。

 さて、行動することで「より良く生きること」よりも、行動しないことで「死なないこと」を優先するという判断が間違っているとは言いません。しかし、完全主義の中で「死なないことばかりを優先し「ゼロリスク」を追っている限り、経済回復のターニングポイントは訪れないのもまた事実です。

 より良く生きるために目指すものは何なのか、そこに向けて今何をすべきなのか。目の前の感染を抑制することは大切ですが、それが今なすべき「全て」ではないということでしょう。
 政策決定や長期戦略に向けた企画立案のありかたを考えるには、日本人の行動原理への理解が不可欠であることを今回のコロナ禍は教えてくれている、そう結ばれた記事の指摘を私も重く受け止めたところです。



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