ここ数年、日本列島をたびたび襲う台風などの大型災害では、自治体による現場の初期対応や調査の遅れが問題となるケースが増えています。さらに、新型コロナの影響などで相次ぐ児童虐待事件では、児童相談所などの対応の問題も指摘されるところです。
近年、こうした問題の背景にある自治体の人手不足や、いわゆる「非正規公務員」の増加による住民サービスの低下が懸念されるようになっています。
税収が減り世論の目も厳しくなる中、各自治体の首長も職員定数の大幅増加を打ち出せる状況になく、気が付けば非正規の職員は、全公務員の3分の1を占めるまでになっています。
月15~16万円の手取りで働く児童相談所の職員や職業安定所の相談員、学級担任を任されながら時給900円以下の非常勤の教師など、厳しい労働環境の中で多くの非正規職員たちが公務の現場を支えている状況には、一般の人々が想像している以上に過酷なのものがあるかもしれません。
こうした問題に詳しい作家の橘玲氏の自身のブログ(6月11日「橘玲の日々刻刻」)によれば、2016年の総務省調査では、正規公務員の平均年収645万円に対し、非正規職員は1日8時間、月20日、年12カ月をフルで働いても年収162万円から207万円にしかならず、それだけで生計を営んでいくのは難しい状況にあるということです。
保育士の多くが非正規であることは知られているが、小学校以上の公立学校でも教員の不足を臨時教員や非常勤講師で補っているところは多い。シングルマザーの臨時教員や保育士など、補遺常勤として現場に復帰するもそれだけでは生活費がまかなえず、週末や夏休みのアルバイトで補っている状況だと橘氏は記しています。
このような非正規公務員の驚くほど低い給与は、
(1) 基本給の水準が正規公務員の初任給より異様に低く設定されていること
(2) 昇給額の上限設定が決められていること
(3) 支給すべき手当に制限があること
などが原因で、自治体によっては、非正規公務員が普通に働いて得る収入が地域別最低賃金さえも下回る状況も生まれているようです。
こうした状況を改善するため昨年導入された「会計年度任用職員」制度は、公募試験の導入によって「金銭的な対価のない解雇」を自由化するなど、状況をさらに悪化させているとの指摘もあります。
非正規公務員はなぜこれほどまでに劣悪な労働環境に置かれているのか。橘氏はこの論考で、その理由を以下のよう整理しています。
(1) 国も自治体も財政に余裕がない。経済が低迷し税収が上がらない一方、超高齢社会で年金や医療・介護などの社会保障費が青天井で増えていくことが明らかである。
(2) それにもかかわらず、住民が行政に求めるサービスはさらに多様化・複雑化している。(法律や通達などにより、自治体の支援の範囲がDV、ストーカー被害、児童虐待、障害者や保護者の相談、ひとり親家庭の就労支援、生活困窮者の相談、ホームレスの自立から、自殺、ニート、ひきこもり、過労死、債務整理に至るまで、自治体の対応すべき分野は多岐にわたり広がっている。)
(3) このため自治体は職員を増やさなければならないが、予算の裏付けがなければ担当する正規職員を雇えず、専門資格をもつ人材を非正規で採用してやりくりすることになる。
(4) こうして「全国のすべての地方公務員の3人に1人は非正規公務員」「もっとも身近な市区町村では44.1%が非正規公務員」という事態になった。
(5) 予算が決まっているなかで、増えつづける業務を非正規・臨時職員でまかなおうとすれば、必然的に低賃金になる。
非常勤の職員の増加と低賃金化の流れはざっとこんな感じです。
このよう現実は関係者ならみな知っているが、首長や政治家は票にならないことはやりたがらず、労働組合は正規職員の既得権を守ることしか考えていない。一方、住民は行政の質の低下には不平をいうが、住民税の引き上げのような負担増は反対する。そして、そうした流れの中で、非正規公務員は劣悪な職場環境に放置されることになるというのが、橘氏の指摘するところです。
ここで誰もが疑問に思うのは、民間はまがりなりにも同一労働同一賃金が導入されつつあるのだから、まともな人は民間企業で働こうとするのではないかと氏は言います。それは実際そのとおりで、多くの自治体で教員が不足しているが、その理由のひとつは「臨時教員が就職してしまったため」だということです。
日本の場合、公務員はもともと「正規」が原則で、「非正規」は専業主婦などが家計を助けるため(アルバイト的に)補助的な仕事をするのだとされていた。それがいつのまにか、不安定な身分と極端な低収入の専門職の非正規公務員が、自治体の住民サービスの最前線に立たされるようになったと氏はここで説明しています。
こうした状況では、どれほど高い志があったとしても(このような劣悪な労働環境下では)長く働くことはできないのではないかという懸念は、現場を知るものならだれもが抱いているということです。
専門性を要する相談員や指導員、司書、教師などの業務を非正規職員に委ねている状況を、国民・住民はどれだけ認識してるいのか。
児童相談所や生活保護の相談窓口で不祥事が起きるたびにメディアは激しいバッシングを浴びせるが、職員が置かれた実態が記事になることはほとんどない。なぜなら、そんな不愉快な話は読者・視聴者が喜ばないからとこの論考に記す橘氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。
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