政府観光局の発表によれば、2016年1年間の訪日外国人客数は4年連続で過去最高を更新。前年比で22%増、人数で2,400万人を突破したということです。訪日外国人が初めて1000万人を突破したのが2013年のことですから、折からの円安などの追い風を受け、わずか3年の間に2.5倍近くにまで増加したことが判ります。
みずほ総合研究所が2月16日に公表した報告書によれば、この2,400万人という外国人観光客の入込み数は、2015年当時に世界15位であった(ヨーロッパの観光国家として知られる)ギリシャを上回る水準だということです。また、同報告書は、訪日する外国人観光客は2017年度も前年比+16%程度で堅調に推移するとの予測の下、概ね2,800万人程度に達すると予想しています。
政府は、今年3月に公表した「観光ビジョン構想」において、訪日外国人観光客数の目標人数を2020年に4,000万人、2030年に6,000千万人としていますが、報告書はこの訪日ペースがこのまま推移すれば、目標への到達は十分に可能だと予測しています。
確かに、こうした数字を追うまでもなく、昨今では街中に外国人観光客の姿を探すのは本当に容易になりました。京都、富士山、浅草、秋葉原さらには各地の温泉卿など外国人に人気の場所にとどまらず、都心のオフィス街や郊外の住宅地に至るまで、キャリーバッグを引っ張る外国人の姿を見かけない日はありません。
一方、彼らを(いわゆる観光地ではない)様々な場所で普通に見かける背景には、単に外国人旅行者の数が増えているということばりでなく、(どうやら)彼らが住宅地の中にある「民泊」施設を利用していることにも原因があるようです。
例えば1月31日の日経新聞は、(大阪観光局の聞き取り調査の結果)大阪を訪れる外国人旅行者の約17%が民泊を利用しているとこと分かったとしています。さらに記事によれば、2016年の1年間で、(2015年の2.7倍に上る)約370万人の訪日観光客が、宿泊先の選定に当たり民泊仲介最大手である米「エアビーアンドビー」を利用しているということです。
さて、一般の住宅やマンションの一室を旅行者等の宿泊施設として提供するこうした「民泊」(のほとんど)が、実は違法に営業されている(ヤミ宿泊施設の)状態にあることはあまり知られていないようです。
昨今のこうした外国人旅行者の急激な増加に伴いひっ迫する宿泊需要を踏まえ、政府は現在、一般の住宅を宿泊施設として活用するための営業基準などを定める新法案の国会提出を急いでいます。
現行の旅館業法では、旅行者等に対し「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」を行う行為を、一定の制限の基に営業許可が与えられた事業者による、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業以外には認めていません。
営業目的の宿泊施設には、都市計画法によって住居専用地域での営業は認められないなどの厳しい立地規制あるうえ、消防法によって避難路の確保やスプリンクラーの設置が義務付けられるなど、宿泊業への新規参入のハードルは(極めて)高いのが実情です。
さらに言えば、例えばホテル営業については、部屋数10室以上、旅館営業については部屋数5室以上といった要件などが課されています。いずれも玄関帳場(フロント)が必要とされたり一室当たりの面積や洗面所、トイレの数も規定されているなど、設備についても細かな基準が定められています。
こうした現状に対し、(投資対象としての)市場拡大を目指す不動産業界を中心に規制緩和を求める動きが高まり、今回の旅館業法の改正と民泊新法の法案提出につながる動きが加速されることとなりました。
しかしその一方で、(法案提出を目前にして)これまで法令を守りまじめに営業をすることで(ある意味)規制に守られてきたホテル・旅館業界では、民泊の解禁に反対する声に激しさを増しています。
宿泊業者への厳しい規制があるということは、見方を変えれば、行政はそのような参入基準を細かく定めることにより、施設やサービス、衛生状態などの水準を保ってきたと考えることもでます。
実際、何の規制も受けていない(違法な)民泊営業が放置されることで、宿泊者の安全や衛生の確保に対する苦情が自治体や消費生活センターなどに寄せられる例も増えているほか、既に各地で問題となっている騒音やごみ出しによる近隣住民とのトラブルに加え、警察関係者や自治会などを中心に犯罪発生の懸念なども高まっているということです。
いずれにしても、現状では既に、(現実が先行する形で)数百万人とも言われる訪日外国人が違法状態のまま営業される民泊施設を利用していると考えられることから、こうした(野放しの)状況を改善する必要に迫られているというのが、今回の制度改正に向けた政府の本音と言えるかもしれません。
報道によれば、そうした観点から、3月の国会提出を目指すとされる新法案では、民泊営業をする家主や仲介業者を登録制とするほか、住居専用地域での営業を認める一方で宿泊者名簿を作成し騒音防止に配慮するよう宿泊者に求めたり、民泊住宅と周囲に分かるように標識を掲げたりすることを(罰則付きで)家主に義務付けるとしています。
客を宿泊させることができる日数も、(旅館業界等に配慮して)1年の半分を超えない年間180日を限度とするとしており、生活環境の悪化が懸念される地域では自治体が条例で定めることによりさらにこれを短縮できる規定も設けるということです。
こうして、(今通常国会会期中には)どうにか形になりそうな旅館業法の改正と民泊新法ですが、制度はできたとしても、地域住民の間で定着するまでにはまだまだ時間がかかるかもしれません。言葉や生活習慣の違う外国人が日替わりで地域をうろうろされるのは、静謐な住宅街に暮らす人々にとってはそれはそれで気になるし、たとえ小さな子供を持つ親でなくても彼らの存在は鬱陶しいものに映ることでしょう。
一方、私自身、ひとりの旅行者として国内外のあちこちの都市で、いわゆる民泊やコンドミニアムを利用してきた経験から言えば、その滞在期間はどれも思い出に残る貴重な時間として記憶に残っています。
京都の町家では、古い日本家屋がもたらしてくれる懐かしくも落ち着いた時間をゆったりと過ごすことができました。パリやベニスの中心街の裏通りに面したアパートメントでの暮らしは、ある意味旅行者であることを忘れさせてくれる、街の日常に自然に溶け込んだ極めて気やすいものでした。
さらに、オーストラリアやハワイ、バリ島などのリゾート地で、地域の食材を料理しながらホテルでは味わえないのんびりした空気や時間を味わうことができたのも、こうした民泊施設であったればこそと言えるでしょう。
そのような経験を振り返れば、街場の普通の家に宿をとる「民家暮らし」は、その土地ならではの貴重な体験を(しかも安価で)旅行者にもたらしてくれる、大変意味のある経験となると言えるかもしれません。
また、旅行者を受け入れる側の街の住民にとっても、民泊の受け入れは、文化的に様々な背景を持つ多彩な人々との(非日常的な)交流が期待できる、貴重な機会となるのではないかとも思います。
いわゆる「民泊」が、既に多くの訪日外国人が利用しているインフラである以上、その流れをもう止めることは(恐らく)できないでしょう。
で、あればこそ、外国人だから不安だと恐れるばかりでなく、今回の制度改正を地域として積極的に受け止め、外国人の存在を前提としたオープンな地域社会づくりに取り組んでみてはどうかと、制度改正の報とともに私も改めて感じるところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます