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8月31日のダイヤモンド・オンラインに、アメリカの「ハーバード・ビジネスレビュー」からの翻訳記事として、心理学者で説得術などの専門家として活躍するケビン・ホーガン(Kevin Hogan)氏による興味深いレポートが掲載されています。
日常の仕事を進めるうえで、関係者に調査やその他のお願い事を書面で依頼しなければならないのはよくあることです。忙しい相手に、そうしたお願い事を気持ち良く、そして確実に引き受けてもらうにはどうしたらよいか。
そんな時、どこにでもある「付箋」に(ちょこっと)手書きのメッセージを書いて貼り付けるだけで、意外な威力を発揮するという実験結果が示されたとホーガン氏はこのレポートで紹介しています。
サム・ヒューストン(テキサス州立)大学のランディ・ガーナー氏の研究によれば、人を説得する場合に、
(1) 個人的な雰囲気(パーソナルタッチ)を加えること
(2) 相手に「他の誰でもない自分自身が頼まれている」という実感を抱いてもらうこと
という2つの働きかけを同時に行うことで、より大きな効果を上げられることが証明されたということです。
ガーナー氏の実験は大変シンプルなものです。学内の150人の教授を無作為に50人ずつの3グループ(A,B,C)分け、それぞれ条件を変えながら(5ページ分の多少面倒な)アンケート調査を依頼して、回答の状況を比較しています。
アンケートに回答する作業と言えば、しばしば分量が多く億劫なもの。そこで、ガーナー氏は、グループAに送った依頼状には手書きで、「少しお時間をいただきますが、アンケートにご協力ください。感謝します!」と書いた付箋を貼りつけて送ることにしました。
一方、グループBへの依頼状には、付箋ではなく依頼文の右上に同じ手書きのメッセージを書き添えて送り、さらにグループCへは手書きのメッセージは添えずに依頼状をそのまま送ったということです。
さて、その結果ですが、付箋でメッセージを付けたグループAでは教授たちの76%がアンケートを提出した一方で、グループBでは48%、グループCでは36%しか回答がないという、明確な違い(効果)が現れたということです。
そこでガーナー氏は、追加のアンケートを行うことにしました。付箋を付けることで提出が早まるかどうか、また回答者が記入する情報量に影響があるかを測定したとレポートは続けています。
結果は、付箋を付けたグループでは平均すると概ね4日以内に回答が提出されたのに対し、何も付けなかったグループでは平均で5.5日を要し、コメントの量も付箋を付けとグループの方が有意に多く、自由回答の質問への答えも長かったということでした。
また、このレポートによれば、さらにその後も実験を繰り返すことによって、作業の実行や順守が容易である場合には、付箋に書く依頼の文言はシンプルでよいこと。しかし作業が複雑なものである場合は、個人的なメッセージをより多く記した付箋のほうが大きな効果を上げることも分かったということです。
「付箋」というほんの小さな存在が、人間の反応になぜこれほど影響を与えるのか。こうした疑問に対しレポートでは、「付箋」は人間の行動反応を強く誘発するたくさんの要素を備えていると説明しています。
付箋は場所を取り、貼られた紙面や物の環境になじまない。したがって人間の脳は違和感を覚え付箋を無視することができなくなる。そして、そこ(付箋)に個人的なメッセージが書かれていれば、たっての頼み事や特別な依頼のような印象を受け手は覚え、自分は重要な存在なのだと感じるようになるということです。
例えば、その付箋に相手のファーストネームを記し、末尾に自分のイニシャルを書き込めば、相手が応じてくれる可能性は格段に高まるとレポートはしています。私は「あなたに」このお願いをしている。あなたにこそ私のリクエストに応えてほしい。
そういう気持ちを相手に伝えられれば、相手もきっとその「意気」に応えてくれる。このレポートはそうした「パーソナル・タッチ」の大切さを私達に教えてくれています。
読者の皆さんが今後、同僚に何かを依頼し応じてもらう必要がある時、あるいはクライアント候補に製品ポートフォリオを渡して検討してもらう時には、(騙されたと思って)付箋を試してみるといいと、このレポートは結ばれています。
個人的な雰囲気を少し醸し出すだけで、お望みの結果をはるかに得やすくなるはずだと結論付けるホーガン氏のアドバイスを、私も「さもありなん…」と、大変興味深く読んだところです。
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