MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯141 中国との関係改善は可能か?

2014年03月25日 | 国際・政治

Edward_luttwak
 米戦略国際問題研究所(CSIS)は、米ワシントンDCにある超党派のシンクタンクとして知られています。第二次大戦後、外交・安全保障分野を中心に重要な政策提言を米政府に対して数多く行ってきており、米政府の政策形成に大きな影響力をもつシンクタンクとして世界的にも有数の権威を誇っています。

 CSISは1962年の発足以来、歴代の米政権に外交・安全保障を中心とする様々な政策提言を行ってきました。キッシンジャー元国務長官、ブレジンスキー元大統領補佐官など、政府の元高官を顧問や理事に迎え入れる一方で、研究員などから数多くの人材を時の政権に送り込んでいるということです。

 そんなCSISの上級アドバイザーであるエドワード・ルトワック氏が、読売新聞が3月14日から開始した日中関係をテーマとした連載「日本への提言」のトップを飾る寄稿において、現在、そして今後の東アジアにおける日中の関係に関して非常に厳しい視点を投げかけています。

 ルトワック氏はまず、「中国の人々は(これまでの)共産党支配に対し数世代にわたる非常に大きな怒りを抱いている」という指摘からコメントを始めています。中国人民は、効力をなくした共産主義に代わる新しいイデオロギーを欲している。そして中国の指導者たちは、こうした共和国内部からの強いプレッシャーにさらされ続けているというものです。

 そんな中、習近平国家主席は「中華民族の偉大な復興の実現」をスローガンとする「中国の夢」を提唱し、「中国の力を世界中で行使する」という民族意識を掲げ、人民の怒りを中国の「外側」に受け止めさせようとしているとルトワック氏は言います。

 実際、人民解放軍は既に「反日」だけでは満足できていない。特に西太平洋の派遣を求める中国海軍は空母を手に入れ、新たな敵として「米国」を必要としている、というのがルトワック氏の最初の指摘です。

 こうした「大国」としての近年の中国の露骨な振る舞いが周辺諸国の大きな反発を生んでいることは明白だが、共産党指導部は当面国内の強力なプレッシャーに向き合わざるを得ない(内向きな姿勢を崩せない)ため、外部からのメッセージを受け止めることができない状態にあるというのが、中国の国内事情に関するルトワック氏の見解です。

 そして、現在、日中関係が尖閣諸島をめぐる中国の威圧的な姿勢により首脳会談すら開けない状況に陥っているのも、そもそも中国の政治システムが日本への「敵意」を必要としているからであり、それは中国指導部にとっては「酸素のようなもの」だとしています。例えここで日本が「お土産」のように尖閣諸島を差し出したとしても、中国は即座に沖縄についての話しを始め、「実は琉球が欲しかったのだ」と言うだろう…これがルトワック氏の日中関係の現状に対する認識です。

 尖閣をめぐる緊張を和らげることは事実上不可能だとルトワック氏は見ています。ここで日本政府にできることは「抑止力を強める」ことであり、尖閣をあきらめないという姿勢を示すことだというのが日本政府に対しルトワック氏が示唆するところです。

 (これは非常に興味深い考察なのですが、)中国人には、相手を降伏させるために「謀略」をめぐらす戦国時代の考え方が染みついているとルトワック氏は言います。つまり、中国はこの問題を「何某かの形」で収めるつもりはなく、次へ、そしてその次へと様々な要求をジャブのように繰り出してくるだろう。そしてもし日本がそこで戦う姿勢を示さなければ、彼らは様々な手段によりますます圧力を強めてくるだろうというものです。

 こうした状況に対し、日本が行うべきことは、フィリピンやベトナム、インドなど、中国の脅威に同じように直面している国々を支援し、軍事面を含めた連携を深めることだというのが日本政府に対するルトワック氏の提案です。日本からインドに至る一連の同盟により包囲することで中国と対峙する。ルトワック氏はまた、ロシアとの長期的な協力関係を結ぶことで中国をけん制することも有効な手法ではないかとしています。

 ルトワック氏の視点は、隣国である韓国にも及びます。米国は、膨張する中国への対抗軸として日・米・韓の同盟による東アジアの安定戦略を探っているが、日本が韓国を自らの戦略の中に組み込むことは、結局不可能だろうというのがルトワック氏の認識です。

 韓国は歴史的にも文化面でも中国に強く依存しており、一方で日本を蔑視し憎しみを抱いている。この「憎しみ」の原因の一端は、韓国が日本の植民地支配と戦わなかった歴史にあるのかもしれない。しかし、いずれにしても現在の韓国で反日の原動力になっているのは差別的な感情や非理性的な憎しみであり、そうした非合理性は世界的に見ても極めて異例だと言わざるを得ない。これが日韓関係に対するルトワック氏の見解です。

 日本における国民の意識とは別の次元で始まった歴史認識や領土問題をめぐる日・中・韓の対立は、たった2年、3年という短い期間にもかかわらず、気が付けば日本の国民感情にも色濃く影響を与え始めています。そして、現在の尖閣諸島周辺における具体的な戦闘行為へのハードルは、中国の人民解放軍にとっては(日本人が想像するよりも)ずっと低いというのが一般的な認識でしょう。

 そんな中、今回のルトワック氏の指摘は日本人に易しく、日本人にとって「わかりやすい」「腑に落ちる」視点を多く含むものであることは間違いありません。また実際、一部のメディアでは、最近こうした論調をしばしば見かけるようになっています。

 しかし一方で、日本を代表するメディアである読売新聞の紙面を飾る今回の論評が、読者であるところの「ごく一般的な日本人」にどのように受け止められるのかについては、その論点の分かりやすさがゆえに、今後の報道の方向性と併せて強い関心を持って接していかざるを得ません。

 日本の右傾化を叫び安倍首相を「トラブルメーカー」と見なす隣国に違和感を持ちながらも、それが国家観の抜き差しならない対峙につながることを望む日本人は決して多くないと考えられます。

 東アジアの安定のために、現状をどのように認識しどのような選択をしていくべきか。現状を変更しようとする力の存在は一体どこにあるのか。そして東アジアの平和と安定のために日本が担うべき役割はどこにあるのか。国民一人一人が自分のこととして考えなければいけない時期が、既に来ているということでしょうか。


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