少し前のデータになりますが、国立社会保障・人口問題研究所が2006年に行った「結婚と出産に関する全国調査」によれば、その年、結婚(初婚)した夫婦が知り合ったきっかけは、「職場や仕事の関係で」が最も多く全体の約3分の1、次いで「友人・兄弟姉妹を通じて」が約3割、「学校で」が約1割と、概して日常的な場での出会いが恋愛に発展し結婚に繋がったケースが多いことが分かります。
それ以前の5回の調査から傾向を追うと、「友人・兄弟姉妹を通じて」の割合がやや増え、徐々に「職場や仕事で」の割合に近づいているようです。また、第2次大戦以前には全体の7割を占めていた「見合い結婚」は一貫して減少傾向にあり、1965~69年頃に恋愛結婚と比率が逆転した後、1995年以降の結婚では全体の1割を下回っています。
一方、日本の離婚率は、ここ数年の間およそ30%程度で推移しています。結婚したカップルの3~4組に1組が離婚している現状において、離婚したカップルのうちおよそ40%が恋愛結婚だったのに対して、お見合い結婚のカップルはおよそ10%に留まっているという統計データもあるようです。
日本の生涯未婚率は、1970年の国勢調査では男性1.70%、女性2.53%だったものが、1990年に男女が逆転し、2020年には男性が20.14%、女性が10.61%まで増加しています。特に35~39歳の男性の未婚率が全体の3分の1を超える35.6%、女性が約4分の1の23.1%(それより下の世代は当然それ以上)であることを考えると、日本の未婚率が今後もさらに増加し続けることは容易に想像できます。
こうした「結婚」を巡る昨今の状況について、精神科医でコラムニストとしても活躍する能代 亨(のしろ・とおる)氏が、昨年12月14日の自身のブログに「『恋愛=結婚』は本当に幸福な価値観なのか」とする興味深い論評を掲載しています。
高度成長期以降の日本で既に「常識化」している、「結婚には恋愛感情が必要だ」、「恋愛を前提にしない結婚なんて不幸に違いない」という考え方について、氏は「これはひとつの固定観念に過ぎないのではないか?」という疑問を呈しています。
昭和時代にお見合い結婚した男女が須らく不幸になっているようであれば、恋愛は結婚の必須条件かもしれません。しかし、(離婚率の状況を見ても)見合い結婚した人や政略結婚的に結婚した人が一概に不幸だったとはいえないのではないかと能代氏は考えています。
さらに氏は、「それでは恋愛結婚時代の男女は、特別に幸福になっただろうか?」と続けています。離婚が増えたという意味では、現代は不幸な結婚が増えている時代のようにも見えるし、実際、未婚率も恋愛結婚が本格化した1970年代以降大きく増加を見せている。
能代氏は、冷静に考えると、結婚相手を選ぶ際の前提としてなぜ「恋愛」がこんなに重視されているのかが不思議だと述べています。結婚相手を選ぶにあたり、「惚れた、腫れた」が効率的な判断材料とは思えない。さらに言うと「モテるか」「モテないか」も、結婚を踏み切るに当たってのあまり良い判断材料とは思えないということです。
結婚生活を幸福・円満なものにするために必要な素養と、モテたり好かれたりするために必要な素養は大きく異なる。男女関係をゼロから立ち上げたり異性を惹き付けたりするための能力と、いったん出来上がった男女関係をメンテナンスしたり家族関係をマネジメントしたりするための能力はかなり違っているのではないかというのが、この問題に関する能代氏の認識です。
氏は、(少なくとも男性にとって)恋愛に重要なのは、「始めること(と終わらせること)」であって、関係を長く維持することではないと言います。醒めないスープが存在しないように、関係が醒めない恋愛など存在しないということです。
それにも関わらず、恋愛の評価尺度を結婚相手の評価尺度に近しいものとみなし、恋愛を結婚の必須プロセスとみなす人が多いのは何故なのか?
そこに、人間の持つ「性(さが)」とも言うべき、「恋愛=独占欲」といった感情の存在を忘れるわけにはいきません。もしかしたら、「恋愛感情」というある意味人々から理性を失わせる一時の情動が、現代人の生活をより不幸なものにしているのかもしれません。
さらに能代氏はここで、結婚相手を判断するための、恋愛感情に代わる「材料」についても言及しています。
氏によれば、結婚を決める際に必要なのは「長期的な信頼関係をマネジメントできる相手かどうかを確かめること」であり、有体に言ってしまえば「自分の背中を任せられるパートナーか否か」ということだということです。
恋愛と違い、結婚生活では長い時間を共に過ごしていかなければならない。そこで、数十年という歳月を離婚せずにうまくやっていくためには、(1)相手との信頼関係を維持し、(2)人間関係のマネジメントやメンテナンスを行う意志や能力を持ち、(3)協同関係や分業関係に適している…といった素養が求められると能代氏はしています。
さらに、こうした素養はパートナーに期待するだけで上手くいくはずもなく、(4)自分自身がこれらの条件を満たしていることが重要だと氏は付け加えています。
相手には信頼やマネジメントを期待しておきながら、自分にはその意志も能力も無いようなアンフェアな関係では、結婚生活を継続していくのが難しいことは言うまでもありません。
いざ結婚を考えるに当たっては、先にも述べた「惚れた、腫れた」というような不確かなものではなく、しっかりとしたパートナーシップを志向するべきだし、そういう「結婚観」がもっと浸透したほうが不幸な結婚が減るのではないか。
離婚の増大やそれに伴う子供の貧困化、そして未婚化が進む日本の現状を踏まえれば、もしかしたら結婚に必要なのは「恋愛感情」ではなく「信頼関係」なのではないかとする氏の指摘は、現代の若者を「幸福」に導く示唆に富んだ視点なのかもしれないと、私も改めて考えたところです。
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