MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2234 対策は自治体に丸投げ

2022年08月22日 | 政治

 三権分立とは、言うまでもなく、国会、内閣、裁判所の三つの独立した機関が相互に抑制し合い、バランスを保つことにより権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障するための仕組みです。

 日本国憲法第41条には「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」とあり、国民から選挙で選出された国家議員で構成される国会のみが立法権を有すると解釈されています。

 その「唯一」の意味は、①国会の立法は、原則すべて国会により行われること(国会中心立法の原則)と、②立法手続きに、国会以外の機関が参加することはできないこと(国会単独立法の原則)。つまり、国会議員によって発議・提出された法律案が国会において審議され、国会において可決されることで法律として施行されるというのが「本来の形」だということです。

 一方、例えば2013年から今年の6月までに整理つぃた906の法律のうち国会議員によって提案され成立した(議員立法による)法律は208本(23%)に過ぎず、その他全体の約4分の3の法律が政府(行政府)によるものであることはよく知られているところです。

 つまり、国民から選出された国会議員の仕事の多くが、「法律を作ること」ではなく、(言葉は悪いですが)政府の作った法案を認めるための手続きとして費やされているのが現状と言っても過言ではないでしょう。

 しかし、そうした中でも議員立法は、政府(行政府)が対応しきれないような新しい社会問題に光を当て、有権者に近い政治家の生の感覚を生かすことで、「国会=政治」の存在感を示す良い機会と受け止められているようです。

 近年では「自殺対策基本法」や「スポーツ基本法」「DV防止法」など、(各省庁の担当者からはなかなか出てこないような)国としての大きな方針や理念を法律がうたい、政府や自治体に対策を求める建付けのものが(議員立法により)数多く成立しています。

 こうした動き自体は歓迎すべきことだとは思いますが、一方で、このような議員立法が増えている現状に対しては、理念の実現可能性の観点から問題点を指摘する向きも多いようです。

 議員立法の多くは(提案議員の「思い」によって提案されるものが多いため)予算の裏付けがなく、「政策」としての実行力に乏しい。法律には問題解決に向けた方針が示されているものの、(結局)具体的な施策は省庁や自治体任せ。最終的な「落としどころ」として、それぞれの自治体に事業計画の策定を求め、省庁が認めれば「多少の補助金を出しましょう」というあたりに落ち着くことが多いように感じます。

 そうした中、若手国会議員らの活躍によって増加傾向にある議員立法の在り方について、全国知事会などが国会に対し「改善を求める要望」を行ったと、7月25日の共同通信が伝えています。

 議員立法には、(先にも述べたように)自治体に行政計画の作成を義務付ける内容が多い。そこで、政府はこの6月に「計画は原則増やさない」とする規制を決めたものの、この方針は(三権分立で)立法府には及ばない。このため、多くの自治体には「事務負担の増加が避けられない」との危機感が高まっていると記事は指摘しています。

 内閣府によると、自治体に計画策定の義務や努力義務などを課す法律・条項数は2020年12月時点で505条項に上り、10年前の約1.5倍に増えている。その内訳は、政府が提出した法律の条項数が385で、24%に当たる120は議員立法が規定するものだったということです。

 最近の例では、例えば「子ども読書活動推進計画」や「外国人の日本語習得を推進する基本方針」さらには「困窮女性への支援計画」など。自治体が個別に計画を策定することとされている法律は、今後も増える見通しだと記事はしています。

 さらに、こうした計画には「数値目標」や「実施事業」などを盛り込むのが一般的で、関連データの収集や審議会の運営なども必要となることから、職員が少ない小規模自治体の業務を大きく圧迫しているということです。

 今回の全国知事会の要望は、はこうした自治体の声を代弁し、国会と政府に対し計画策定を義務付ける新たな法令や通知を作らないよう求めるもの。議員立法による義務付けの抑制に向け、国会提出前に地方の意見を聞く機会を設けるよう求めているとされています。

 さて、基本的人権にかかわるような大きな内容から、細かくは子供の読書まで。法律で「あれをやれ」「これをやれ」と(大枠を)示すだけ示しておいて、具体的な施策や財源、人手は自治体に「丸投げ」では、都道府県や市町村もたまったものではないでしょう。

 「〇〇対策基本法」といえば見栄えは良いのですが、その実、内容はいわゆる「問題提起」や「宣言」に過ぎず、条文を読む限り、具体的な対策や財源は自治体に委ねる内容に過ぎないのはよくあることです。

 また、各地域ごとに(ある意味「付け焼刃」で)「計画」や「方針」を作ったからと言って、本当に問題解決に寄与できるかどうかは分かりません。

 「唯一の立法機関」である国会で国民の代表が審議するのであれば、自治体の「やったふり」や「議会対策」にならないよう、もっと丁寧で実効性のあるものにしてほしいと感じているのは私だけではないはずです。

 



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