MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯1366 技術革新が社会にもたらすもの

2019年05月23日 | 社会・経済


 内閣府が発表した平成29年度の政府の年次経済財政報告「技術革新と働き方改革がもたらす新たな成長」では、技術革新が日本の経済社会や国民生活に与えるプラスの影響を俯瞰的に整理しています。

 その中心にあるのは、(もちろん)技術革新によって新しい財やサービスが生まれる可能性を示唆するものです。

 IoTやAIなどの新規技術により、(1)大量生産・画一的サービスから個々にカスタマイズされた製品・サービスの提供が可能になったり、(2)既に存在している資源や資産の効率的な活用が可能になったり、(3)従来人間によって行われていた労働の補助・代替などが可能になったりする。

 供給サイドで生産の効率性が飛躍的に向上するばかりでなく、消費者サイドも既存の財・サービスを今までよりも低価格で好きな時に適量購入できるようになり、潜在的に欲していた新しい財・サービスの享受も期待できるようになると報告書は説明しています。

 デジタル経済の普及によって新たな財・サービスの提供や価格の低下が起きれば、新たな需要が喚起される。実際、財やサービスの価格が低下することで、インターネットを経由した消費支出が目に見える形で拡大しているということです。

 インターネットでのBtoC(Business to Consumer)市場の規模は、現在、財が8.0兆円、サービスが5.4兆円、ゲームや音楽配信等のデジタル・コンテンツが1.8兆円となっており、ネットを通じた中古品のリユース市場についても1兆円規模に達している。

 また、コミュニケーション型・育児向け見守り型・介護向け見守り型のサービスロボットや、ICTの活用により住宅内の省エネや見守り・防犯等を可能とするスマートホームなど、多様な分野で新たな需要創造が期待されていると報告書は記しています。

 さらに、デジタル経済の発展に伴い、インターネットを通じた個人間での取引が増加したり無料のサービス提供が登場したりするなど、これまでの消費のあり方が変化し経済価値の測定が困難な財やサービスも出現しつつある。

 例えば、個人が保有する活用可能な資産をネット上のマッチング・プラットフォームを介して他の個人も利用可能とする「シェアリングエコノミー」や広告収入をベースとした無料情報(検索)サービスなど、付加価値の定量的な把握が難しい新しいビジネスモデルが急速に拡大しているということです。

 さて、その一方で、AIの発達やIoTの普及によって人々の仕事が奪われるのではないかという議論がここのところ盛んに行われてきているのも事実です。

 AIが単独で自律的な労働を担えるようになれば業務効率や生産性の向上が見込まれるが、これまで人が携わってきた業務の人からAIへの代替が進み、労働集約型産業などにおいても労務機会が奪われる可能性がある。産業内の利益構造の転換が進む一方で、AIとの競争にさらされた労働者の賃金のさらなる低下や失業などが進む懸念があるという指摘です。

 もっとも、技術革新に伴ってそれに関連する雇用が失われるのは「時代の常」で、今に始まったことではないという見解もしばしば耳にします。例えば、自動車の発明により、馬車の御者などの雇用は失われたが、新たに自動車の製造や運転手などの雇用が産まれた。これは技術の進展に一般的な問題であり、AIだけを特別視するのは冷静さを欠いているというものです。

 産業革命を考えても、技術の発展を無理やり止めるのは不可能です。なので、必要なのは「失われる雇用」よりも「新たな雇用」をどう創出するかを考えていくことだということでしょう。

 例えば、新技術によって産業分野や雇用が失われるというのは、需要の量を固定的なものと捉える間違った認識によるものだという意見があります。

 現実社会では、生産性が向上することによって企業活動は間違いなく活性化する。そこで生まれたマネーが新たに市場につぎ込まれ、経済はより循環することになる。そして、これが新たな仕事を創り出すという(いわゆる)「Multiplier effect(乗数効果)」の考え方に基づくものです。

 一時期、(表計算ソフトの)エクセルが普及したら会計士が要らなくなるといわれた時代がありましたが、オフィスから算盤や電卓を無くしたエクセルによって生まれた雇用がもっとずっと大きなものであったことは今さら指摘するまでもありません。

 AIやロボットでも同様のことが当てはまり、現在の私たちの仕事を担ってくれる代わりに、彼らの高品質な仕事を支えるための新しい雇用を労働市場に求めるというものです。

 AIをはじめとしたテクノロジーは、より快適で効率的(で安価な)な生活を求める需要者に合わせて財やサービスを丁寧にカスタマイズし提供することを可能にするとされています。

 しかし、それを実現させるためには、(そこに)「人の感覚や知識」を介在させる必要があるのも事実です。AIなどのテクノロージーは、それ(=人間の介在)がなければ最も効率的に機能を発揮することができないという側面を持つと言い換えることもできるでしょう。

 例えば、AIの活用によってクリニックの医師たちは膨大な症例をすべて頭に詰め込む必要性から解放され、地域の患者一人ひとりと時間をかけて向き合えるようになる。学校の教師はAIの支援を受け、子供たちひとりひとりの能力と課題を見極めながら最も効果的な指導をすることができる。

 AIなどのテクノロジーは、専門家が介在することで初めて、消費者のニーズに合ったより丁寧で付加価値の高い財やサービスの提供を可能にするということです。

 遠い未来のような(他人事のような)言い方をしてきましたが、AIやIoTなどの新技術によるデジタル革命は、もう10年と先の話ではありません。

 その間に、労働市場からなくなる仕事は当然にあるでしょう。例え職業自体ははなくならなくても、仕事の仕方を変えていく必要に迫られる仕事も多いかもしれません。

 いずれにしても、こうした状況に直面しながら仕事に向き合っていかなければならないことを、私たちはしっかり胸に刻んでおいた方がよさそうです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿