コロナ禍で苦しむ中小企業を資金面で支えた無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が今夏から本格化することを踏まえ、業績が戻らない中小企業の倒産が急増する恐れがあると6月11日の読売新聞が報じています(「ゼロゼロ返済 中小不安」2023.6.11)。
ここで言う「ゼロゼロ融資」とは、2020年に始まったコロナ禍で売り上げが減った企業を対象に金融機関が実質無利子・無担保で融資を行う制度のこと。利払いは都道府県が3年間負担。元本の返済は最大5年間猶予されるうえ、返済できなくなった場合にも、各地の信用保証協会が肩代わりするという優遇ぶりです。
コロナによる経済対策の柱の一つとして国の資金が投入されるため融資条件はかなり甘く、しかもお金を借りる企業にとってはノーリスクということで、(例えば資金繰りが苦しいのがコロナの影響でなくても、また資金繰り事態はそれほど厳しくなくても)多くの中小零細企業がこの制度を利用しました。結果、融資実績は約234万件に及び、融資総額は実に(国の税収の3分の2以上となる)42兆円にも上っています。
もちろん、(万が一融資が焦げ付いた場合の)信用保証協会による保証は政府の財源を裏付けとしているため、実質的には国民負担となることは明らかです。サラリーマンは蚊帳の外に置かれたコロナ下での大盤振る舞いのあおりを食うのが、(結局のところ)コロナ禍の下でも真面目に納税し続けてきた人たちだというのは皮肉と言えば皮肉です。
記事によれば、昨年9月に受付が終了したゼロゼロ融資の多くが返済猶予期間を3年間としていたため、いよいよ今年7月頃から返済が本格化する見通しとのこと。東京商工リサーチが2022年度の全国の企業倒産(負債額1000万円以上)を分析したところ、ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産は541件に上り前年度(150件)の3.6倍に及んでいるということです。
そうした中、同社(←東京商工リサーチ社)が昨年12月に全国約5000社を対象に行った意識調査では、約半数がゼロゼロ融資を利用し、うち25.8%が「返済に懸念がある」と答えたとのこと。今後、返済が本格化すれば、資金繰りに窮する企業がさらに増えるとの危機感を抱く関係者も多いとされています。
もとより、ゼロゼロ融資を受けた企業が倒産した場合、返済不能になった融資金の一部は、最終的に国や都道府県が税金で穴埋めすることになる。そこで、中小企業庁は今年1月、(返済負担を軽減するため)元本返済を最長5年間猶予する新たな借り換え保証制度を開始したと記事は伝えています。
また、記事によれば、融資を実施した金融機関による融資先への支援強化も始まっているとのこと。東京や神奈川などの約1万社に計約3378億円のゼロゼロ融資を実行した城南信用金庫(東京都品川区)では、全国の信金や企業、大学、自治体が参加するネットワークを通じて企業のマッチングを行い、新規事業や販路拡大を後押しする取り組みを始めているということです。
記事は最後に「ゼロゼロ融資はノーリスクで借りられるため、コロナ禍以前から経営難だった企業を延命させた側面もあった」という、神戸大学経済経営研究所の家森信善教授の意見を伝えています。
どさくさ紛れの観もあった急遽のゼロゼロ融資によって、本来市場から退出すべきであった企業の命脈が繋がれた。政治的な配慮によって作られた不健全な融資制度が生産性の低い企業を延命させ、結果として日本経済の産業構造の転換の足を引っ張っているということでしょうか。
借りたお金は返すのが当たり前。ただそれだけのことなのですが、政府が行った大盤振る舞いに飛びついた人が200万人以上いるわけですから、この先様々なところで傷つく人たちを生むかもしれません。それを「自業自得」と言ってしまえばそれまでですが、目の前に無利子無担保のお金を積まれれば、(当座の資金として)借りない方がおかしいという向きもあるでしょう。
実際、ゼロゼロ融資で一息ついて、次のステップを踏みだすことができたという中小企業のオーナーさんもきっと多いはず。また、融資を行った金融機関にも融資に踏み切った責任があるのですから、目の前で倒れていくお得意さんを、(自己責任だと)座して見ていてよい筈がありません。
とにもかくにも、(返済期限の到来で)事業を継続するのかそれとも撤退を図るのかを迫られる経営者たちが増えるのは事実です。そうした状況を踏まえ、金融機関はぜひ、意欲ある経営者と一緒になって事業の立て直しを図る『伴走型支援』を充実させてほしいと望む記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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