もっとも新しい令和2年(2020年)の国勢調査の結果から、「共働き世帯」の方が「専業主婦世帯」よりも子どもの数が多い、という驚くべき分析結果が明らかになったと、ニッセイ基礎研究所人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子氏は同研究所サイトでレポートしています。(『「専業主婦世帯は子どもが多い」という誤解―アンコンシャス・バイアスが招く止まらぬ少子化』2023.8.28)
2020年の統計を詳細に見ていくと、夫が就業する1907万世帯のうち共働き世帯は約7割の1321万世帯で、残りの3割が専業主婦世帯とのこと。このうち「子なし世帯」の割合は、共働き世帯で34%だった一方で専業主婦世帯では39%と、専業主婦世帯の方が5ポイントも高いことがわかると天野氏はこのレポートに記しています。
さらに細かく見ていくと、1子世帯(子どもがひとりっ子の世帯)は共働き世帯が31%で専業主婦世帯は39%と専業主婦世帯の方が8ポイントも高くなっている。一方、子供が二人以上いる世帯は共働き世帯が69%と約7割を占める中、専業主婦世帯では約6割(61%)に過ぎず、つまり、専業主婦世帯の方が子なし世帯や1子世帯の割合が高く、共働き世帯の方が2子以上の世帯の割合が高いというのが統計が示す現実だということです。
この分析結果から判るのは、「女性が社会進出すると少子化が加速する」「専業主婦世帯を応援した方が子供が増える」と言った常識は、統計的に見て大きな誤解であるということ。分析結果に対し、研究者やメディアなどから問い合わせが絶えないのも、「専業主婦世帯の方が子どもが多いはずだ」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)があるからだというのが天野氏の見解です。
今から40年前の1980年代は、専業主婦世帯が64%~54%と多数派を占めていた。そして、この時代に20歳代だった夫婦は現在60歳代。また、育児休業法(現在の育児介護休業法)が施行されたのは1992年で、当時20歳代だった夫婦は、現在50歳代になっているはずだと氏は言います。
つまり、現在50歳代以上の夫婦が若い頃は、主に夫だけが働いていて当たり前の環境下にあった世代。言い方を変えるならば、男性の経済力に頼れない女性は暮らしていくのが非常に厳しい時代だったというのが氏の認識です。
しかし時代は変わり、2012年以降、共働き世帯が6割を超え、2018年以降は7割をも超過し、専業主婦世帯割合との差を拡大し続けている。そうした中、中高年世代の若かりし頃の夫婦の「普通」がもはや「少数派」になっていることに気が付かず、こうした結果が驚きをもって受け止められる状況には、未婚化を進める原因ともなりかねないリスクを感じずにはいられないと氏は話しています。
経済的にも安定する中、夫婦力を合わせ子育てに勤しむ若い共働き世帯が社会の中心となりつつある現実。特に政策形成を担当する人たちは、世の中は既に「そういうふうになっている」ということをきちんと理解する必要があるということでしょう。
時代は私たちの気づかないところで大きく変化している。中高年世代である筆者自らも含めて、すべての中高年読者に、今一度時代の変化を統計的に把握した上で議論ができているか注意喚起したいと綴る天野氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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