MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2490 国債は誰が持っているのか?

2023年11月04日 | 社会・経済

 財政赤字が問題視されて久しい日本。その背景として第一に挙げられるのが、人口構成の高齢化による社会保障費の増加にあることは論を待ちません。2023年度の政府予算(一般会計ベース)においても社会保障関係費は36.9兆円と全体の約三分の一(32.3%)を占める最大の歳出項目であり、過去10年間で7.7兆円の増加を見ています。

 しかし、これから先は少し状況が変わるかもしれない。大和総研のシニアエコノミストである末吉孝行氏は、9月22日に公表された同研究所のレポートに、「今後は社会保障関係費よりも国債費の方が増えそうだ」と記しています。

 内閣府が7月25日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(ベースラインケース)では、2023~32年度にかけての歳出の変化幅(試算)を示している。これによると、「社会保障関係費」は高齢化の進行で医療・介護・年金等に関する経費が膨らみ、2023~32年度までの間に4.5兆円増加すると氏はしています。

 「地方交付税等」は制度上税収に連動するため、経済成長によって税収が増え交付税等も2.4兆円増加。その他、物価上昇と政策要因(防衛力強化や国土強靭化など)により0.8兆円増加の増加が見込まれるということです。

 そして問題となるのが前述の「国債費」。試算によれば、今後10年間の増加幅が4.9兆円と歳出項目のうちで最も大きくなるとのこと。内訳を見ると利払いが1.9兆円増加し、債務償還費が3.0兆円増加する見込みだと氏は説明しています。

 内閣府試算の通りであれば、国債費の増加幅は社会保障関係費のそれを上回り、今後の歳出を圧迫する大きな要因ともなりかねない。政府として今後力を入れていくべき少子化対策や、気候変動対策などの重要政策の足枷ともなりかねないということです。

 金融政策として低金利が続いてきた(意図的に続けられてきた)ことにより、これまであまり意識されてこなかった膨大な政府債務の存在とそれに伴うデメリットが、ここにきていよいよ顕在化してくるということでしょうか。財政の硬直化を招く国債費の急増を避けるためにも、国債を利用した経済対策などの政治的なバラマキは、厳に慎んでもらいたいところです。

 さて、2023年6月末時点で約1090兆2785億円とされる国債残高。同時点の国民の個人金融資産額は2114兆8575億円、うち現金・預貯金が約1117兆円ということですので、日本国民の全ての貯金とほぼ同じ額が(既に)国債として借り入れられていると思えばその規模感も分かろうというものです。

 今後、市場金利が上がれば庶民の口座にも(少しは)余裕ができるかもしれませんが、その分政府の負担は大きくなって結局税で徴収され、(いわゆる)「行って来い」の状況になることも覚悟する必要があるということでしょう。

 それでは、政府がこうして大量発行してきた国債は現在、一体どこの誰が持っているのか。金融アナリストの久保田博幸氏が、日本銀行が公表した「資金循環統計(速報)(2023年第2四半期)」に基づき、6月末時点の日本国債の保有者と保有割合を推計しています。(9月21日Yahoo news)

 これによれば、6月末時点の国債残高1090兆2785億円の保有内訳は、日本銀行が580兆4902億円で全体の過半(53.2%)を保有しているほか、公的基金である保険・年金基金が239兆1067億円で約2割(21.9%)を保有。その他、預金取扱機関(銀行)が88兆3490億円(8.1%)、海外資本79兆5260億円(7.3%)、公的年金48兆7954億円(4.5%)、家計13兆0083億円(1.2%)、その他41兆0029億円(3.8%)と続いているということです。

 なお、短期債を含めた国債全体の数字でみると6月末の残高は約1240兆円。このうち日銀が約584兆円で47.1%のシェアを占め、海外勢の残高は約181兆円と短期債を含めると国債全体の14.6%のシェアとされています。

 結局のところ、日銀にバンバンとお札を刷らせ、その半分は「政府の負債」という形で日銀の帳簿に書き込んであるだけ。金利が上がって見た目の数字は膨らんでも、はなから返すつもりがなければ懐は痛まないということでもあるのでしょう。

 とはいえ、こうして続けられてきた「異次元の金融緩和」もいよいよ潮時。消費者物価の高騰が続く中、出口戦略の議論も避けては通れません。政府からのプレッシャーは依然強いのでしょうが、日銀の植田和男総裁には是非、適切な時期での判断をお願いしたいと考えるところです。



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