MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2044 メタバースはユートピアか

2021年12月19日 | 社会・経済


 世界経済を動かすGAFAMの一翼を担うFacebookが今年の10月に社名を「Meta」に変更したことで、一躍、DXのキーワードの一つとして脚光を浴びるようになった「metaverse」という言葉。メタバース(metaverse)とは、英語の「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語で、もともとはSF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した作品『スノウ・クラッシュ』に登場する、架空の仮想空間サービスに付けられた名前だということです。

 オンラインに構築された3DCGの仮想空間に世界中の人々が思い思いのアバターで参加し、それをもう一つの「現実」として新たな生活を送る。そうした仮想空間のアイデアは、これまでさまざまなSF文学や「マトリックス」「トータル・リコール」のような映画、「サマーウォーズ」「ソードアート・オンライン」などのアニメなどでも描かれてきました。身近なところでは、人気の「集まれ、どうぶつの森」や参加型のバトルネットゲームなどもそうしたカテゴリーの一つと言えるかもしれません。

 日常生活ではパッとしない主人公が、現実を離れバーチャルスペースで活躍する。普段はどれだけ虐げられていても、バーチャルの世界で仲間を見つけ冒険を繰り広げ自己実現を図る物語は人の心に心地よいもの。時には麻薬のように心をむしばみ、全財産をつぎ込んだり、犯罪に手を染めたりする人が現れてもおかしくはありません。

 実際、旧Facebookのような世界企業が、莫大な資金と技術をつぎ込んで(本気で)そうした世界を構築したら、(現実社会との交錯の中で)良くも悪くも世の中は大きく変わっていくことでしょう。これから先、Facebookによって一代を成したザッカーバーグ率いるMetaによって、metaverseと人間社会はどこへ行くのか。11月26日の情報サイト「Newsweek日本版」に、Center for the Study of Digital Lifeフェローでベルリン在住の武邑光裕氏が「メタバースはインターネットのユートピアなのか、現実の悪夢なのか?」と題する興味深い論考を寄せています。

 今やメタバースという言葉は、2021年のバズワードとなっている。しかし、正直なところその意味を本当に理解している人は少ない。その理由は、メタバースを特定するのが難しいからだと武邑氏はこの論考に綴っています。現実社会においても、ある意味では、デジタルな生活が物理的な生活に追いついてきている。それは、2次元から3次元環境への「脱却」を意味しているのかもしれないと氏はしています。人、場所、モノは、物理的な世界にあるだけでなく、VR環境や合成環境にある場合もある。ただし、メタバースはまだ黎明期にあるというのが氏の認識です。

 しかし、誰もがメタバースの幸福感を共有しているわけではない。拡張現実の要素で現実を補強するというザッカーバーグのメタバース計画には、世界中から多くの批判の声が上がっていると氏は言います。実際に、何人かの専門家がビジネス・インサイダー誌などにメタの計画に対する懸念を表明している。なかでも皆が恐れているのは、これまで知られていたソーシャルメディア・プラットフォームの悪影響が、メタバースにそのまま移ってしまうことだということです。

 すべてのソーシャルメディア・ユーザーのニュースフィードが各人の好みによって異なるという現象は、将来的には追加のデジタル要素を通じて現実世界にも影響を与え、(メタバースの管理者や広告主などによって)ユーザーは大幅にコントロールされる可能性があると氏は指摘しています。メタバースは、各人のために「調整された現実」を提供することができ、広告主とサードパーティは、誰かのVR世界に彼らに固有の広告とオーバーレイを注入することができる。リアルとバーチャルの境界が破壊され、広告主やサードパーティによって個別にパーソナライズされた世界(観)が、政治的分断をさらに悪化させる可能性があるということです。

 何が現実で何がそうでないかについて、私たちがどのように合意するかについても、社会に重大な問題を引き起こす可能性があると武邑氏はこの論考に記しています。

 (Facebookをはじめとした)ソーシャルメディアは、すでに企業が私たちから収集した膨大なデータに基づき、(ターゲットを絞ったニュースフィードや広告を通じて)サードパーティが私たちの生活を仲介することを許可している。アルゴリズムはエコーチェンバー内のコンテンツをターゲットにすることができるため、(多くの人が)他の人と同じものを見ているに違いないと誰もが誤解してしまうと氏はしています。

 そして、そうした感覚はVR世界ではさらに増幅されることになる。VR世界では、サードパーティが各人の家、路上、職場で目にする情報を個別に指示できる。それによって、誤った情報と分断を特定することがより困難になると専門家の多くが考えているということです。広告主は、特定のメッセージを現実(リアルの世界)に注入するために、各人のVR世界内のフィルターにお金を払う。そして、それはメタバース内に設置される伝統的なバナーだけではなく、(例えば)特定のブランドの清涼飲料の缶を持つアバターによる偏在的な製品広告の配置となるというのが氏の認識です。

 このため、専門家は、メタバースが人々にとって健康に機能するためには、ソーシャルメディアが必要とするのと同じか、さらに重要な規制が必要となることについて既に意見が一致していると氏は言います。結果、完全にボーダレスなVR世界を誰が統治し誰が執行するのか。そこには、リアルな社会と連携した(民主的な)新たな合意と、(規律のとれた)ガバナンスのシステムが求められると考える武邑氏の指摘を私も大変興味深く読んだところです。



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