12・7・6
書き写すということー3―
幸田露伴の「五重塔」は丸ごと書き写す、という作業を通じて
読み解きたいテーマがありました。
途轍もない思いをどうして抱いたか、
五〇分の一の雛形を作るということはどういうことなのか・・・の二点です。
最初の十兵衛の抱いた思い、は朗円上人の徳に絆されたのだろう、と推測しました。
朗円上人を慕って集まる学僧のために感応寺がもう少し広ければ・・・、
朗円上人がふと漏らした言葉がもとで寄金が集まり、感応寺を建立、
なお余った金で五重塔を建立することになった。
朗円上人の徳を慕って人々は競って寄金を差し出す。
徳とは何ぞや・・・という問題がありますが、徳とは人を動かす力、生命力を喚起する力だと思います。
五〇分の一の雛形を作るということと天風師の教えは・・・
当然請け負うはずの川越の源太が十兵衛に対して少しずつ引いてゆくのです。
ついに全面撤退、十兵衛が請け負うことになる。
天風師の「なりたい姿をありありと描け!」と云う教えは
ウルトラシーの妙手が授かるように想像していました。
十兵衛は五〇分の1の雛形を作ったこと、と
朗円上人にお願いに上がっただけが積極的に行動しただけ、
後はひたすら自分の思いを曲げてまで実現しようとしない、自分の思いに妥協しない。すると
川越の源太の方が動く、少しずつ譲りながら動く、少しずつ後退する。
十兵衛は源太を押し込むような動作は全くとっていない。
源太が引き下がっている。
十兵衛には相手を威圧する貫禄も威厳もない。
「五重塔」は幸田露伴の創作です、露伴は何かを読者に伝えようとしている。
敢えて腕は確かだが世間的なことには疎い、のっそり十兵衛を登場させている。
大切なのは思いの強さ、さらに言えば私利私欲を払しょくした尊い思いでしょう。