12.7.30
偶然のラッキー?
バブルの終わりごろのこと、インチキな不動産の商売で多少あぶく銭を稼いでいた。
「いくらでもいい!早く処分したい…」
築3年、駅から12分、3LDKの2階建木造住宅。物件的には悪くない。
障害のある姉弟二人が相次いで不自然な死にかたをした、
母親名義で母は高齢、末期がんを患っている。
相続すると煩わしいことがあるらしかった。
バブルで多少のあぶく銭を稼いでいた、
と云っても家を買えるほどの金ではない。倒産した事情があってブラックリスト、
「いくらでもいい!早く処分したい…」
魅力的な言葉、魅力的な物件だった。
不自然な死にかたなんてどうでもよかった。
家内には話したが、娘には後で話せばいい、それよりなにより、
家を買えそうなチャンスが偶然めぐってきた、
このチャンスをモノにするしかない、と思った。
家内と娘を連れてこの物件をみせると、
途端に娘の表情が強張った。
「お父さんがダメになっちゃう!」
娘に勘がはたらいたらしい。
千載一遇のチャンス、家内にも娘にも喜んでもらえる、と思っていた。
その夜、私は相当落ち込んでいたらしい。
娘は意外なことをいう。
「お父さんが家を買う気になったのだから、間もなく家は買えるわね…」
「買う気になったって買える訳ないじゃないか!」と内心思った。