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阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【三題噺:旧石器・STAP・従軍慰安婦】難波先生より

2014-09-01 15:04:19 | 難波紘二先生
【三題噺:旧石器・STAP・従軍慰安婦】
 とんでもない「三題噺」だが、藤村旧石器捏造、小保方STAP捏造、朝日「慰安婦報道」に共通しているものは何か? 答えは「盲信」である。

 「旧石器遺跡捏造」事件は、1972年11月に「宮城県考古展」に刺激された藤村新一が、岩宿の発見者相澤忠洋のようになりたいと、切り通しの古い地層に縄文石器を埋めて掘らせるところから始まった。
1974年3月に発生したユリ・ゲラーの「超能力」によるスプーン曲げは、「朝日」「毎日」「読売」など週刊誌の検証によりカラクリが暴かれ、同年秋には下火になったが、藤村の手品はなんと以後2000/11に「毎日」の報道により捏造が暴かれるまで、28年もかかっている。
 この間、考古学者たちに騙され続けたアマチュアの考古学ファンはただあきれ、学会による不十分な検証調査報告にも失望し、考古学を見捨ててしまった。行政発掘の依頼も激減し、大学考古学教室は志望学生も激減しピンチな状況にある。

 8/27、STAP細胞の再現実験に取り組んでいる理研CDBの丹羽仁史PL(プロジェクト・リーダー)が記者会見して中間報告を行った。22回実験したが、STAP細胞を再現できなかったという。これまで、直近の香港の研究者による追試を含めて、少なくとも13施設での追試がすべて失敗しているから、別に驚かない。
 最初からない細胞だから、実験回数を重ねれば成功するというものではない。
<マウスの脾臓(ひぞう)から取り出した 細胞を、酸性の溶液に浸して7日間観察したところ、普段 は見られない細胞の塊のようなものが現れた。これを詳しく解析して、万能性を示す特定の遺伝子が発 現しているかどうかを調べた。小保方氏らが遺伝子発現の 根拠とした「目印代わりの緑色蛍光たんぱく質が光った」 という現象について詳細に検証したところ、緑色の発光は 遺伝子由来のものとは言い切れず、細胞が死ぬ際に起きる「自家蛍光」の特徴を備えていたという。>(「毎日」
http://mainichi.jp/select/news/20140827k0000e040259000c.html
 私はこの記事を読んで、丹羽は意図的に結論を先送りしていると思った。
 緑色蛍光が胚細胞遺伝子の活性化によるものでなく、「細胞死」による自家蛍光によるものだということは、これまでの追試実験者が一様に指摘している。特に最後の追試者である香港の研究者がそこを強調している。
 生きた細胞はメチレンブルーやトリパンブルーなどの色素を細胞内に取り入れないという能力がある。しかし細胞のイキが悪くなると色素を細胞膜の外に排出できなくなり、あるいは死んでしまうと、色素は細胞質内に侵入し、たちまち細胞を青く染める。
 従って、丹羽が緑色蛍光を発した細胞の性質を突き止めようと思えば、蛍光顕微鏡で細胞を撮影した後、細胞浮遊液にトリパンブルー溶液を一滴垂らせばすむことである。もし死に瀕した(アポトーシスに陥りつつある)細胞であれば、青く染まる。健常な幹細胞であれば、まったく染まらない。簡単なことだ。結論はすぐ出る。実際には青く染まることを確認しているが、理研内部の圧力により公表できないのではないか。
 細胞培養の専門家が、こんな初歩的なことを知らないでいるとは私にはとても思えない。
 いずれにせよ、「STAP事件」は、バカンティ教授の妄説を鵜呑みにした、生物学の基礎学力がない小保方という第二の藤村新一を、欲と無知のためにすっかり信じ込んだ早稲田、東京女子医大、理研の「科学者」たちに全面的な責任がある。

 8/5-6と2回にわたり行われた「朝日」の「従軍慰安婦」過去記事の取り消しと釈明に関する、雑誌、他紙の反響は、上記二つの科学事件と異なり、国際政治に影響を与える事件であるために、きわめて大きい。
 あれ以来、コンビニの新聞スタンドの「朝日」の売れ行きを定点観測しているが、めっきり売れ残りが多くなった。「歴史戦」という連載記事により、この間「朝日」の過去記事の誤りを追求して、「朝日」を追い込んだ「産経」はよく売れている。
 8/27までの「朝日」「取り消し記事」とそれに対する他のメディアの反論記事を取り上げる。

 まず「朝日」の検証記事。
 問題は二つある。
① 吉田清治問題:
 太平洋戦争中に「労務報国会下関支部動員部長」として、朝鮮済州島などから「女子挺身隊」の名目で慰安婦強制連行(慰安婦狩り)を行ったと、日本全国を「懺悔」してまわり、著書『私の戦争犯罪:朝鮮人強制連行』(三一書房, 1983/7)でも述べた人物。
  「朝日」は1982/9/1に吉田が大阪での市民集会で行った講演の要旨を、9/2付け大阪版で報道したのを皮切りに、吉田証言を1997/3/31記事まで16回報道した。
 畑郁彦の調査(『慰安婦と戦場の性』, 新潮社, 1999/6)によると、吉田は「詐話師」で、原話は1963年「週刊朝日」公募記事「私の八月十五日」に応募し佳作となった、下関での労務調達風景を書いたもので、以後『朝鮮人慰安婦と日本人』(新人物往来社, 1977)、1982/6大阪府立ピロティホールでの講演、第二作『私の戦争犯罪』(1983)と内容が次第に膨らませられ、過激・残酷なものへと変わって行ったという。
 秦は1992/3済州島の現地調査を行い、吉田が『私の戦争犯罪』に書いている慰安婦狩りについて、裏付け証言が得られないことを確認している。秦は吉田が「二十年かけてテーマを少しずつふくらませ、済州島の慰安婦狩りまでエスカレートさせていった」と書いている(上掲書,p.235)。

② 上村隆記事問題:
 1991/8/11「朝日」(大阪版)社会面トップの記事
 <【ソウル10日=植村隆】日中戦争や第2次世界大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦のうち1人がソウル市内に生存していることがわかり、「韓国挺身隊問題対策協議会」(尹貞玉・共同代表、16団体約30万人)が聞き取り調査を始めた。同協議会は10日、女性の話を録音したテープを朝日新聞記者に公開した。テープのなかで女性は「思い出すと今でも身の毛がよだつ」と語っている。体験をひた隠しにしてきた彼女らの重い口が、戦後半世紀近くたって、やっと開き始めた。
 尹代表らによると、この女性は六十八歳で、ソウル市内に一人で住んでいる。(中略)
 女性の話によると、中国東北部で生まれ、十七歳の時、だまされて慰安婦にされた。二、三百人の部隊がいる中国南部の慰安所に連れて行かれた。慰安所は民家を使っていた。五人の朝鮮人女性がおり、一人に一室が与えられた。女性は「春子」(仮名)と日本名を付けられた。一番年上の女性が日本語を話し、将校の相手をしていた。残りの四人が一般の兵士二、三百人を受け持ち、毎日三、四人の相手をさせられたという。(後略)>
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%8D%E6%9D%91%E9%9A%86

 この記事は、導入部(リード)の記事と本文の尹貞玉・挺対協代表の話、元慰安婦(金学順)によるテープ談話との間に食い違いが認められる。
 「女子挺身隊」、「戦場に連行された」、「従軍慰安婦」という言葉は元慰安婦の話には出てこない。「騙されて慰安婦にされた」とあるが、騙したのは金学順の義父である。金学順は母子家庭であり、義父というのは妓楼の経営者でキーセンにするため、金学順を買い取り芸妓所に行かせた。この義父が騙して学順を慰安婦に売ったのである。
 記事のリードは、論文でいうと「要約」にあたり、記事本文から抽出された情報の要約でなくてはならない。しかし、植村リード文には <日中戦争や第2次世界大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦のうち1人がソウル市内に生存していることがわかり> という、金学順証言にない文言がふくまれている。
 これは上記「吉田清治証言」を信用して、1982/9以来「朝日」が展開してきた「従軍慰安婦キャンペーン」の正当性を実証する1例として、本事例が扱われていることを意味している。

 この記事と執筆者については以下の2点に、問題が指摘されてきた。
 ②-1:記事にある匿名の元慰安婦(金学順)は、1990/11に設立された「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)が、対日賠償請求裁判を起こす上で「必要な被害者」探しの過程で、1991/8/14に名乗り出て、記者会見したものである。翌8/15の「ハンギョレ新聞」は「キーセン出身で養父と共に北京に行き、日本軍の慰安婦となった」と報じている。金学順の証言内容には1991/8から死亡した1997/12までに「ゆらぎ」があるが、<「女子挺身隊」の名で戦場に連行された>という証言はどこにもない。(『慰安婦と戦場の性』,p.181)
 また記事からは「植村記者は挺対協が録音した元慰安婦の証言テープを渡されたか、その再生音を聞かされただけで、元慰安婦から直接に話を聞いていない」と判断される。つまり証言内容とテープの信頼性については、挺対協に対する信頼性で代替したというわけである。
 ちなみにこの記事は、「朝日」検証記事が認めているように、「韓国メディアよりも早く報じられた」。理由は遺族会と挺対協が金学順を匿名のままかくまっていたからで、8/14に北海道新聞ソウル特派員が単独会見に成功し、実名「金学順」を報じ、ついで翌15日、韓国主要全国紙がやっと大きく報じた。
 つまり遺族会・挺対協はニュースのインパクトを強めるために、「日本発」の報道という広報戦略をとっていたと思われる。

 ②-2:この記事を書いた植村隆は、1958年高知県生、早稲田大政経学部卒、1982年朝日新聞社入社、当時「朝日」大阪本社社会部の記者で、「8/5朝日検証記事」によると「8月の記事が掲載される約半年前<太平洋戦争犠牲者遺族会>(遺族会)の幹部梁順任氏の娘と結婚した」、つまり梁順任は植村記者の義母である。
 「挺対協」は女子挺身隊=従軍慰安婦と思い込んだ韓国の左派クリスチャン系知識人が指導する、慰安婦保障問題に特化した団体であるのに対して、「遺族会」は<戦時中に徴兵、徴用などをされた被害者や遺族らで作る団体>(「朝日検証記事」)で、両者が別組織であるのは事実だが、互いに協力関係にあり、事実、1991/12/6には元慰安婦3名を含む遺族会のメンバー32名(梁順任を含む)が賠償を求めて下関地裁に提訴している。
 この時期、遺族会も挺対協も提訴の準備を進めていた。これら2団体の立場から見ると、日本の裁判所への提訴を前にして、日本の大メディアに「慰安婦問題」(彼らの視点からすると「強制連行された従軍慰安婦」問題)を正しく報じてもらいたい、と思ったことは容易に想像できる。
 また韓国内の世論操作にとって、日本の大メディアがスクープして韓国メディアがそれに追従する、というかたちがより好ましいのはいうまでもない。
 ところが大阪社会部の植村記者がこの件でわざわざソウルまで出かけて、慰安婦本人に会うのでなく、挺対協が用意したテープを聴かされた、という事実の必然性が「朝日検証記事」からは見えてこない。
 <取材経緯について、植村氏は「挺対協から元慰安婦の証言のことを聞いた、当時のソウル支局長からの連絡で韓国に向かった。義母からの情報提供はなかった」と話す。>(8/5「朝日検証記事」)
 「朝日検証記事」に欠落しているのは、この植村弁明のウラ取りである。
 挺対協が元慰安婦証言を朝日のソウル支局長に売り込みに来た。これは「世界的特ダネ」である。
 普通ならソウル支局で取材して、支局長の手柄にする。そうならなかったのは、初めから「大阪の植村記者になら聞かせてあげる」という条件がついたいたのではないか?という疑問が生じる。
 「義母からの情報提供はなかった」というが、植村記者は8月10日にテープを聴き、日本に記事を送稿したあと、8月12日に帰国している。その間、義母の家を訪問したり、宿泊したりすることはなかったのであろうか?妻から実家に当然電話があっただろうし、植村記者がソウル滞在中に一度も義母と接触しなかったという説明は納得がいかない。親族や知人のコネを徹底的に利用する文化を持つ韓国社会を考えると、義母が娘の婿を利用しなかったとする説明の方が不自然である。

 なお2011/5/9「産経」はソウル支局黒田勝弘記者の記事で、
 <【ソウル=黒田勝弘】ソウル市警察当局はこのほど、 日本統治時代の戦時動員被害者に対し、日本政府などから 補償金を受け取ってやるといって弁護士費用などの名目で会費15億ウォン(約1億2千万円)をだまし取っていた 団体幹部など39人を、詐欺の疑いで摘発したと発表した。被害者は3万人に上る。
 摘発されたのは「太平洋戦争犠牲者遺族会」「民間請求権訴訟団」など対日要求や反日集会・デモを展開してきた団体。古くからの活動家で日本でも知られる 梁順任・遺族会会長(67)にも 容疑が向けられており、 対日補償要求運動にブレーキがかかりそうだ。> と報じている。
 続報は以下にある。
 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/08/29/2014082903558.html
(韓国は言葉の厳密な意味で「法治国家」ではない。梁順任会長を詐欺罪で有罪としたら、対日外交交渉でどれだけ韓国が不利になるかを裁判官もよく承知している。それが「情治国家」と呼ばれるゆえんだ。)

 「朝日」は朝日批判キャンペーンを始めた「週刊文春」と「週刊新潮」の広告掲載拒否をしたそうだ。両誌とも毎週木曜日発売(地方は金曜日)で、新聞広告は全国紙なら木曜日に掲載される。しかしそれにしても「広告掲載拒否」とは…
  <「一番恐れているのは不買運動です」朝日幹部苦渋の告白>(週刊文春)
  <長年の読者が見限り始めて部数がドーン!>(週刊新潮)
 こういう見出しが朝日幹部の神経に障るのであろうか?
 しかし他のメディアは「朝日が広告拒否」という反応をまたニュースにして煽るから、逆効果だと思うが…
 むしろ「朝日が広告拒否をした」ということで、かえって週刊誌が売れるのではないか。
 http://www.j-cast.com/2014/08/28214336.html
 「君の意見には反対だ。だが君の意見を表明させない奴がいたら、命がけでそれを阻止する」
 という、トマス・ペインだったかの、言葉が言論の自由の根本をよく表していると思う。「朝日」も「言論の自由の守護者」という建前を貫いたらどうか。

 で、冒頭の三題噺だが、「旧石器遺跡捏造事件」は「層位は型式に優先する」という信念をもつ東北大考古学教授芹沢長介に指導された一群の人々が、藤村新一により次々と何万年も前の地層に埋められる縄文石器をなんら疑うことなく、旧石器として受け入れたところに発生した。
 「STAP細胞事件」は、バカンティ教授の妄想に感染した小保方という、生物学の基礎ができていない研究者を色と欲に目がくらんだ「優秀な頭脳たち」が、「簡単な刺激による体細胞の幹細胞への変換」というストーリーをすっかり信じ込んだところに最大の問題がある。

 「従軍慰安婦問題」に関しては、「朝日」大阪社会部は1982/6に吉田清治の大阪講演を紙面で取り上げて以来、キャンペーンを展開していた。済州島で多数の「慰安婦狩り」をしたという吉田証言がまったくのフィクションであったのだから、これは「妄想」にしか過ぎないが、1991/8/10記事の執筆時に植村記者がそれを「真実」だと考えていたことは疑えないだろう。
 「旧石器遺跡捏造」でも「STAP細胞」でも、疑義を指摘する声は早くからあったが、いずれも初期はそれらを無視し、対応が遅れることで致命的な結果がもたらされた。
 旧石器考古学の分野で藤村遺跡をもとにして書かれた論文、書物、授与された学位は約30年間に、おびただしい数に上る。本来はそれらをすべて撤回し、「学術的に無効」というラベルを貼らなければいけないが、該当者に与える損害の大きさを考え、考古学会はそれをしなかった。結果として考古学そのものへの信用失墜が起こり、社会の関心が失われた。
 STAP細胞についても、2月の初め、ネットでネイチャー論文における文章・写真の盗用や改ざん、PCRデータの疑惑がネットで指摘された段階で迅速に「外部調査委員会」を組織し、徹底的な調査を行い、論文の撤回、関係者の処罰を行っていれば、理研の信用がここまで失墜することはなかったであろう。

 秦郁彦は吉田証言に対する「朝日」の態度を「検証なしに頭から信じ込んでいた」と表している(『慰安婦と戦場の性』,p.240)。「検証なしに頭から信じ込む」ものの軽いのが「思い込み」であり、重症なのが「妄想」である。「妄想(delusion)」の特徴は体系的で、感情による基盤があり、事実によって簡単には矯正できない点にある。
 朝日」は、1992/3の秦による済州島現地調査が吉田証言のいう「慰安婦狩り」の事実は存在しないことを明らかにした後、1997/3/31にこの問題の特集を組み、「吉田証言の真偽は確認できない」と報じた。この時「朝日」は済州島の現地調査をせず、「慰安婦問題」がこじれにこじれた今年4~5月になって、はじめて現地調査を行い、当時を知る老人約40名から話を聞き、吉田証言を裏付ける証言がひとつもないことを確認した(「朝日検証報道」8/5記事)。これが今回、「裏付け得られず虚偽と判断」した根拠である。
 つまり「朝日」は、1982/6に吉田清治を記事に取り上げて以来、2014/4まで32年間、一度も済州島の現地調査をすることなく、1997/3以来「吉田証言の真偽は確認できない」という理由で、吉田を取り上げないですまそうとしてきた。それが「産経」などの追求により追い込まれて、今回の「慰安婦問題を考える」特集になった。
 吉田と「朝日」の妄想は「関係妄想」であり、そのうちの「加害妄想」にあたる。「朝日」が1997年の段階で、済州島を現地調査し、吉田証言に裏付けが一切ないことを知り「虚偽と判断」していたら、事態は「朝日」にとってここまで悪化していないだろう。「朝日」が「真偽は確認できない」とする対症療法で、病状をここまで致命的に悪化させてしまったのは残念だ。

 8/28「朝日」は「慰安婦問題 核心は変わらず」という無署名論評を掲載、軍慰安婦について「強制連行」はなかったが「強制性」はあったとする8/5-6の立場を維持することを再度強調している。
 http://www.asahi.com/articles/ASG8W4CPWG8WUTIL01N.html?iref=comtop_pickup_03

 しかしこの論評では肝心の証言者がすべて匿名になっており、論述自体の信憑性が疑われる。
 英語読者向けの「英語版」の発表は8/5-6記事については8/22 Asahi Digitalで、8/28論評は8/29に英語版が発表されている。8/29「産経」は一面トップで8、/28朝日特集記事を「朝日また論点のすり替え」と厳しく非難している。
 http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140829/plc14082904000002-n1.htm

 「慰安婦問題 核心は変わらず」という「朝日」の態度は、1993/8/14に発表された「河野談話」の見直しを阻止するためのものである。もし「吉田清治の虚言」についての「朝日」誤報が河野談話に影響を与えたことを認めれば、その誤報記事を撤回した以上、「談話見直し」に反対できなくなる。
 そこで日本政府による元慰安婦の聞き取り調査(梁順任が会長である「遺族会」の事務所で1993/7/26~30まで、合計16名より聞き取り)に主として基づく「強制性」を認めた「河野談話」を、「朝日」は維持しようとしている。
 <【ソウル10日=植村隆】日中戦争や第2次世界大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦のうち1人がソウル市内に生存していることがわかり、「韓国挺身隊問題対策協議会」(尹貞玉・共同代表、16団体約30万人)が聞き取り調査を始めた。>
 この記事のリード文を読めば、植村記者が「女子挺身隊=従軍慰安婦」という韓国挺対協・遺族会の誤解と「強制連行」という吉田の作り話を信じていたことによる誤報であることは明白だ。
 今のところ「朝日」の防衛ラインは、吉田清治関係の記事の撤回、植村記事に関しては「悪意がなかった」として撤回せずというところに置かれている。しかし攻める方は、植村記者の義母が遺族会の会長であり、河野談話の元となった「慰安婦聞き取り調査」で大きな役割を果たしたことを問題にするであろう。

 「日本ABC部数2013/4」によると「朝日」760万部、「産経」167万部だが、9/4「週刊新潮」「週刊文春」によると、「朝日」の現在の販売部数は約726万部、8/5-6特集記事の掲載以後、長年の愛読者から購読中止の申し出が相次いでおり、「700万部割れは時間の問題」という。
 この問題に関しては国連「人種差別撤廃」委員会が8/29「慰安婦への人権侵害と責任者の調査」を日本政府に勧告する「最終見解」をまとめたと報じられている。
 http://sankei.jp.msn.com/world/news/140829/erp14082923170015-n1.htm
 この勧告が「人道に反する罪」を問うているのなら時効がないから、当然だと思うが、いわゆる慰安婦の圧倒的多数は日本人であったことがきちんと理解されていないと思う。
 強制連行―人種差別―朝鮮人という図式があって、慰安婦=朝鮮人=人種差別による「売春婦」呼ばわりによる侮辱、というステレオタイプが成立しているようだ。しかし感情的にならず、証拠を示しての議論を積み重ねる必要があろう。
 これで「朝日は売国奴だ」とする若者や一部の評論家の声が、ますます高まることは間違いないだろう。

 「朝日」はこの問題以外にも、福島第一原発の故吉田昌郎所長から政府の「事故調査・検証委員会」が事故当時の事情を聴いた「吉田調書」の内容をいち早く入手し、「吉田所長の命令に違反して多くの職員がF2に逃げた」という内容のスクープを5/20の紙面で行った、という問題がある。これは世界中に報道され、事故当時F1を破滅から救うため英雄的活動を行ったとされる「フクシマ・フィフティーズ」への評価は失墜した。
 これについては8/18「産経」は、「吉田調書」を入手したことを明らかにし、吉田昌郎証言に「所長命令に違反した職員がF2に逃げた」という事実はないことを指摘した。その後政府は当初、非公開扱いとしていた「吉田調書」の公開を決めた。このため8/30~31にかけて、読売、毎日、共同などが「吉田調書」内容について報じているが、いずれも「産経」8/18報道を裏付けるもので、「朝日」5/20報道とは食い違っている。

 ここで起こったことも、基本的には「旧石器遺跡捏造」で起こったことと同じである。藤村新一の手で、次々と10万年単位で古い地層から旧石器が発掘されたという報道に疑惑を感じた研究者たちが、「石器を見せて欲しい」と申し込んでも、鎌田俊昭、岡村道男などの研究者たちは口実を設けてはその公開を拒否してきた。これが「毎日」が石器を埋めている現場の証拠写真の撮影に成功するまで、30年近く捏造が続いた理由である。
 「慰安婦第1号」の発見も、「吉田調書」の入手も、「朝日」のスクープであった。それ自体は「朝日」の大きな手柄である。
 問題は「検証可能」なかたちで、それがスクープとして報道されなかったことである。「朝日」が情報を独占していて、他社にそれを公開しない場合は、藤村石器と同じで他社は否定も肯定もできない。ただそこまで資料批判にこだわらない多くの「朝日」読者は、記事をそのまま信じるだろう。
 「沖縄核密約」の存在に関する「毎日」西山記者のスクープはそれ自体ではすばらしかったが、外務省から機密文書写しを入手する際に使われた方法は「公序良俗」に反するものだった。
 「慰安婦」に関する植村記者のスクープも情報入手に関しては類似の疑惑がある。「吉田調書」の入手法も明らかにされていないが、それは明らかにするとまずい事情があるのかもしれない。
 「朝日」は戦後二つの重大な誤報/捏造事件を引き起こしている。
 第1は、1950/9/27の地下共産党幹部伊藤律との単独会見報道である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E8%97%A4%E5%BE%8B%E4%BC%9A%E8%A6%8B%E5%A0%B1%E9%81%93%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 この事件では、<担当記者は退社、神戸支局長は依願退社、大阪本社編集局長は解任>となった。<担当記者は捏造の動機について特ダネを書こうという功名心からと述べた>とされている。
 第2は1989/4/20の「沖縄珊瑚礁事件」である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E%E7%8F%8A%E7%91%9A%E8%A8%98%E4%BA%8B%E6%8D%8F%E9%80%A0%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 この事件では<これに対して朝日新聞は5月16日の朝刊で「撮影効果をあげるため、うっすらと残っていた部分をストロボの柄でこすった」とし、行き過ぎた報道があった点に関して謝罪記事を掲載した。
 しかし、その後の継続的な調査を経て「カメラマンが無傷の状態であったサンゴに文字を刻み付けた」との判断を発表し、ようやく虚偽報道であったことを認め、5月20日の朝刊で再び謝罪した。>という二度の謝罪を経て、<5月19日付で珊瑚に傷をつけた東京本社写真部員・本田嘉郎は退社(懲戒解雇)処分、東京本社編集局長・同写真部長は更迭、同行していた西部本社[2]写真部員は停職三カ月、そして当時の一柳東一郎社長が引責辞任>という処分を行っている。

 今回の事件は、「慰安婦問題」、「吉田調書問題」ともに、現在進行中だが、記事そのものが捏造であった過去の例と異なり、「一新聞社にきわめて重要な情報がわたり、その情報独占がかなり長期間見込める」(つまり他社による検証ができない)という状況下で発生している。この場合、政府が調書を公開し、朝日記事の確度を他のメディアに検証させるのは、混乱を速やかに収束させるのに必要な措置だといえよう。
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17 コメント

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難波先生、大丈夫ですか (脳天壊了)
2014-09-01 21:47:52
STAP問題、藤村石器偽造問題と従軍慰安婦問題はまるきり違う問題ではないですか。
前2者は頭から尻尾まで嘘で練り固めた問題でしょうが、従軍慰安婦は全体として否定できない歴史的事実は含まれており、ただ済州島に関しては吉田某の言論にまどわされた。その点を今回(本当はもっと早くやるべきだったし、騙され方もお粗末)否定したということでしょう。従軍慰安婦が何らかのやり方で作られたことが否定されるとは思えません。済州島が怪しいなら問題全部が怪しいというのは理屈に合いません。朝日が立派な新聞だとは思えなくなってきましたが、朝日や毎日、地方紙を非難することは自分の首を絞めることになるような気がします。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-09-02 09:29:40
朝日新聞の報道の真偽とは関係なく、福島第一原発事故では当時所長であった吉田氏の責任は極めて重く、氏の証言の捏造云々以前に、それが真実かどうか、自分に都合の良い証言をしている可能性も有る。
朝日新聞の誤った報道のあり方は責められるべきでも、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的な発想は危険だと思う。
返信する
興味深い切り口ですね (もももちゃん)
2014-09-02 11:09:57
新規のご投稿の有無を時折りチェックしては、興味深く拝見しております。有難うございます。初めてで、おそらく最後の経験になりますが、お礼と感想を申し上げたくて投稿しました。

藤村旧石器捏造、小保方STAP捏造、朝日「慰安婦報道」に共通しているものは何か?

一見して3者はそれぞれにジャンルが異なるようですが、考察の光の当て方でまったく違う姿を見せたり、同じ色合いを見せたりするものなんですね。

所詮は人間のやること。
どのようなジャンルであれ、当事者や関係者の欲望が大衆の中にかならずある賛否両論、その賛にうまく乗っかってしまうと暴走が始まり、いずれは多くのものを破壊し、人の命さえ奪ってしまう。少し乱暴かも知れませんが、先の戦争も大枠では同じ色合いかも知れません。

自然科学であれ、社会科学であれ、日本人は頭の良い人でもなぜか是々非々の科学的考察から逸れて、自分の好みや好みの結論から、採るべき態度を決めてしまう傾向が強いように感じます。とても残念なことですが、その場合の理屈は後付けでどうにでもなる感じです。

光の当て方によっては3者はまったく異なる姿を見せますし、今回のご投稿のように同じ色合いを見せたりもします。私は何事によらず、できるだけ多くの視点、光の当て方を持って考えて生きたいと思います。

とても勉強になりました。
有難うございました。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-09-02 12:03:45
おそらく、難波先生はトリパンブルー染色をご自身の手でされたことがないのではないかと思う。たくさんの光らない細胞の中に蛍光を発する細胞が一部存在する状態で、トリパンブルーを添加し、蛍光を発していた細胞がトリパンブルーに染まるかどうかを観察するのは、不可能ではないが難しい。培地に(通常1:1で、もっと少なくてもいいが)トリパンブルーを添加した後によく混和しなければならないが、蛍光細胞を見失わないように単離しておく、などの作業が必要。
FACSの方が簡便で確実だと思うし、記者会計によると実際にやっているそうだ。

さらにいえば、トリパンブルーは細胞がかなり死んだ状態(膜の不透性を維持できない)になって初めて染まるのに対し、自家蛍光はもう少し早い段階から光り始める。そのため、鑑別診断として適していない。
さらに、蛍光観察は経時的に行えるが、トリパンブルーは細胞にダメージを与えるのでその後培養を続ける事ができない。
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Unknown (Unknown)
2014-09-02 12:04:47
↑記者会計ってなんだ?・・・orz

訂正 記者会計 → 記者会見
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Unknown (メダカとトクサ)
2014-09-02 21:58:23
unknown さんも書かれていますが丹羽氏は自家蛍光かどうか識別するために、追試にあたってFACS で更にチエックし、その結果「マーカーは光っていない」としているようです。
文による報道ではFACS の説明が必要になるので、その部分を取り上げてないようですが、テレビの報道では、緑と赤のダブルチエックとわかりやすく示すことができるので、会見のその部分が結構流されていたように思います。
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Unknown (メダカとトクサ)
2014-09-02 22:33:36
すみません。FACS による選別と赤と緑のフイルターの話はまた別ですね。

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Unknown (Unknown)
2014-09-03 10:59:54
わたしも実験結果は、Unknown (Unknown) 2014-09-02 12:03:45さんの投稿のようになります。
はじめから光っている細胞を酸処理した可能性はないのか?まさかね。
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Unknown (Masa)
2014-09-03 16:48:03
現在までの福島原発に関する報道は殆んど誤報ではないでしょうか?
911でもデタラメでしたね。
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Unknown (Unknown)
2014-09-03 17:54:19
原発事故が民主党政権時に起きたのをいい事に、現政権が責任を民主党におしつけるために吉田調書を利用しようとしているのでしょう。
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