【北杜夫の死因】昨年秋84歳で死去した作家の北杜夫の死因について、入院先の東京医療センター(旧国立東京第二病院)が「腸閉塞でなく、窒息の可能性が高い」と遺族に謝罪したとスポーツ紙が報じている。これも「産経」の系列紙。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/09/10/kiji/K20120910004089030.html
娘の斎藤由香に取材しているが、どうも担当医が「病理解剖をしないように」誘導したらしい。けしからん話だ。
救急車で搬送され、入院して間もなく救急部の病床で死亡しているのだから広義の「不審死」にあたる。厳しく言えば「届け出」義務さえある。
腸閉塞と窒息では、死因が全く異なり死亡診断書の記載内容も異なる。虚偽記載をしたことになろう。
遺族が病理解剖して死因を明らかにしてほしいと望んでいるのに、「解剖は残酷だ」とか「時間がかかる」とか説明したらしい。
最近、病理解剖(剖検)の数が急減して、全死亡の1%代に落ち込んできた。
新潟の病理医岡崎先生から、最近寄せられた随筆風の論文によると、
<改定「死亡診断書」を使って15年たつが、日本の死因統計は未だ国際社会で信頼されていないという。精度が問われているのである。…これまでの死亡診断書の7割に何らかの改善すべき問題があるとわかった。作業は継続中だが、日本の死亡診断書全体(114万余、2010年)の8割が病院医師によって書かれている現状>
だという。
厳密には「担当医が死亡診断書を書いている」ということだ。そういう診断書は自分のミスをごまかすようなものになるに決まっている。
そういう死亡診断書を集積しても、厚労省の死因統計が国際的に信用されないのは当たり前である。
かねてから病理解剖数の落ち込みの背景には、画像診断の進歩だけでなく、診療ミスを発見されるのを恐れる臨床医側の動機があると思っていたが、今回の東京医療センターの事例ははしなくもそれを物語るといえよう。
日本では火葬が普及していて99%を占める。しかも死後24時間を過ぎると火葬可能である。北朝鮮の火葬温度は低くて、日本の法医学者は「横田めぐみさんの火葬骨」からDNAを抽出して、にせ物であることを証明できた。フランスでは土葬が主体だから、歌手イヴ・モンタンの死後、「隠し子」が出現して遺産請求した際、墓を暴いて骨髄を採取し、DNA鑑定を行うことができた。
火葬が主体で、しかも焼成温度が800℃を超す日本の火葬法では、灰しか残らない。火葬後の医科学的検索は不可能である。
日本の死亡診断書の構造は、3段構成になっていて、1)直接死因(e.g. 心不全/呼吸不全など)、2)その原因(e.g.がんの肺転移)、3)基礎疾患(e.g.下行結腸乳頭状腺がん)などと書くことになっている。
岡崎先生が指摘するとおり、日本の死亡診断書はこの3)の部分が不正確なので、国際死因統計で信頼されないのである。
その背景には、医療記録の電子化が遅れていることと、患者の受診医療機関がバラバラで、医療記録の名寄せができない(国民背番号制がないため)というシステムの不備がある。3)の部分は名寄せが出来るようになれば、改善できるだろうが、1), 2)の部分は「死周期」のイベントなので、病理解剖をしないと確定できない。
かつてアフリカのガーナに調査に行ったら、死亡者の全例解剖が行われていた。2008年の統計で人口2,400万人、死亡率(人口1,000人当たり)9.3である。広い剖検室の側壁は死体冷凍棚になっていて、解剖を待つ遺体がびっしり詰まっていた。ガーナの死亡統計が日本より精度が高いのは言うまでもない。
日本の病理解剖は大学ですら年に10体程度しかなく、「研究」として行われていた時代にやり方が固定してしまった。もう研究の意味はなく、診療のチェック、正確な死因動態の解明が主目的になっている。生活保護、原爆医療など全額国費での医療に浴して死亡した患者の場合、遺体を解剖することを法律で義務づけたらよい。それを受給の条件にするべきだろう。
病理解剖はぜひ受けるべきだ。火葬にしてしまえば、何も残らないが、病理解剖では解剖記録(書類、写真、サンプル)が残る。もし訴訟になれば9割方遺族に有利な証拠となる。費用は病院負担だ。若い病理医を育てることにもなる。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/09/10/kiji/K20120910004089030.html
娘の斎藤由香に取材しているが、どうも担当医が「病理解剖をしないように」誘導したらしい。けしからん話だ。
救急車で搬送され、入院して間もなく救急部の病床で死亡しているのだから広義の「不審死」にあたる。厳しく言えば「届け出」義務さえある。
腸閉塞と窒息では、死因が全く異なり死亡診断書の記載内容も異なる。虚偽記載をしたことになろう。
遺族が病理解剖して死因を明らかにしてほしいと望んでいるのに、「解剖は残酷だ」とか「時間がかかる」とか説明したらしい。
最近、病理解剖(剖検)の数が急減して、全死亡の1%代に落ち込んできた。
新潟の病理医岡崎先生から、最近寄せられた随筆風の論文によると、
<改定「死亡診断書」を使って15年たつが、日本の死因統計は未だ国際社会で信頼されていないという。精度が問われているのである。…これまでの死亡診断書の7割に何らかの改善すべき問題があるとわかった。作業は継続中だが、日本の死亡診断書全体(114万余、2010年)の8割が病院医師によって書かれている現状>
だという。
厳密には「担当医が死亡診断書を書いている」ということだ。そういう診断書は自分のミスをごまかすようなものになるに決まっている。
そういう死亡診断書を集積しても、厚労省の死因統計が国際的に信用されないのは当たり前である。
かねてから病理解剖数の落ち込みの背景には、画像診断の進歩だけでなく、診療ミスを発見されるのを恐れる臨床医側の動機があると思っていたが、今回の東京医療センターの事例ははしなくもそれを物語るといえよう。
日本では火葬が普及していて99%を占める。しかも死後24時間を過ぎると火葬可能である。北朝鮮の火葬温度は低くて、日本の法医学者は「横田めぐみさんの火葬骨」からDNAを抽出して、にせ物であることを証明できた。フランスでは土葬が主体だから、歌手イヴ・モンタンの死後、「隠し子」が出現して遺産請求した際、墓を暴いて骨髄を採取し、DNA鑑定を行うことができた。
火葬が主体で、しかも焼成温度が800℃を超す日本の火葬法では、灰しか残らない。火葬後の医科学的検索は不可能である。
日本の死亡診断書の構造は、3段構成になっていて、1)直接死因(e.g. 心不全/呼吸不全など)、2)その原因(e.g.がんの肺転移)、3)基礎疾患(e.g.下行結腸乳頭状腺がん)などと書くことになっている。
岡崎先生が指摘するとおり、日本の死亡診断書はこの3)の部分が不正確なので、国際死因統計で信頼されないのである。
その背景には、医療記録の電子化が遅れていることと、患者の受診医療機関がバラバラで、医療記録の名寄せができない(国民背番号制がないため)というシステムの不備がある。3)の部分は名寄せが出来るようになれば、改善できるだろうが、1), 2)の部分は「死周期」のイベントなので、病理解剖をしないと確定できない。
かつてアフリカのガーナに調査に行ったら、死亡者の全例解剖が行われていた。2008年の統計で人口2,400万人、死亡率(人口1,000人当たり)9.3である。広い剖検室の側壁は死体冷凍棚になっていて、解剖を待つ遺体がびっしり詰まっていた。ガーナの死亡統計が日本より精度が高いのは言うまでもない。
日本の病理解剖は大学ですら年に10体程度しかなく、「研究」として行われていた時代にやり方が固定してしまった。もう研究の意味はなく、診療のチェック、正確な死因動態の解明が主目的になっている。生活保護、原爆医療など全額国費での医療に浴して死亡した患者の場合、遺体を解剖することを法律で義務づけたらよい。それを受給の条件にするべきだろう。
病理解剖はぜひ受けるべきだ。火葬にしてしまえば、何も残らないが、病理解剖では解剖記録(書類、写真、サンプル)が残る。もし訴訟になれば9割方遺族に有利な証拠となる。費用は病院負担だ。若い病理医を育てることにもなる。