【修復腎移植裁判、証言2:ペン学説の正否】=拡散希望
(訂正:前回光畑先生の肩書きを「副院長」としたのは誤りでしたので訂正します。)
3/18松山地裁での証言を続ける。今回は「がんの臓器を移植するとがんが転移する」と主張した日本移植学会幹部が依拠した「イスラエル・ペンの学説」の正否がテーマだ。移植学会の幹部は「がんがあった臓器を移植したらがんが移るから危険だ」という理由で病腎移植を否定し、メディアがそれに乗せられて「万波バッシング」を大々的に行ったので、1970~90年代に支配的だった「ペン学説」の検討は裁判に欠かせない。
弁護人1:「癌の転移についてお尋ねします。ドナー臓器の癌が移植すると高率にレシピエントに移るというイスラエル・ペンの学説は現段階では崩壊したのでしょうか」
難波:「崩壊という用語は、学説の盛衰を指す科学の用語としては、あまり妥当ではありません。もう誰も信じていないということです。ある時期に主流であった説も、時と共にみなが信用しなくなって消えて行くので、ある日ガタッと崩れるというものではないんです。
大島先生のような古い論文しか読んでおられない方は、2006年の時点でまだそういう学説を信用しておられたと、でも欧米はどんどん先に行っていたから、誰もそういうことを信じていなかった。それだけの違いでしょう」
弁護人1:「ペンのした解析は、具体的にはどういうものですか」
難波:「イスラエル・ペンは1960年代に南アから移民し、デンバーのコロラド大学にいたユダヤ系の移植外科医で、そこに肝移植で鳴らしたスターヅルという移植外科の教授がいました。ペンは臓器移植患者に癌ができることが多いのに気づいて、1960年代の末にデンバー移植腫瘍登録というのを始めました。80年代にスターズルがピッツバーグ大学に移ったとき、ペンはシンシナチ大学に教授として移りました。それと共に移植腫瘍登録センターもシンシナチに移りました。
ただ、このシステムには欠陥があって臓器移植の全例を登録するのではなく、主治医の任意登録制なんです。強制力がない。自分の臓器移植患者に癌が発生したり、あるいはドナーに癌が見つかったりした場合に、任意に登録するシステムです。
ですから分子ははっきりしているが、分母がわからない登録制度です。」
弁護人1:「癌を持っていたドナーからの移植事例を任意登録したということですか」
難波:「それだけでなく、いろんな例が入っているのです。がん患者の臓器を移植したらレシピエントに癌が出てきたという症例、ドナーの癌ははっきりしないが、レシピエントに癌が出たという事例、いろいろな例が入っています。
それと小さな癌に気づかないでそのまま移植して、癌が大きくならなかった例は、登録されていません」
弁護人1:「それを基にした説が、どのようにして信じられなくなったのですか」
難波:「説明すると長くなるんですが、1960年代には免疫抑制剤が臓器の急性拒絶反応に関わる液性免疫と慢性拒絶反応に関わる細胞性免疫の両方を抑制するものが主体だったので、確かに臓器を移植された患者にがんが出ることが多かった。がん細胞を殺すのは細胞性免疫の方ですから。
ところが1980年代になると免疫抑制剤の改良が進み、液性免疫だけを抑える薬が出てきました。また80年代になるまで、ドナーからがんが移ったのか、それともレシピエントに新しくできたのかを、科学的に区別する方法がなかったのです。1980年代になって、DNA鑑定が発達してドナーのDNAとレシピエントのDNAを区別できるようになった。これを調べると、出てきたがん細胞がドナー由来かレシピエント由来かわかるようになった。これが普及したのが90年代です。
そうするとペンが以前に<癌の持ち込み>と言っていたものに2種類あって、例えば小腸移植で好発する悪性リンパ腫はドナーのリンパ球ががん化したもの、心臓移植に好発する悪性リンパ腫はレシピエントのリンパ球ががん化したもの、とケースバイケースで、ペンのいうように<ドナーからの一方的持ち込み>ではないことが分かって来て、だんだん崩れてきたんです。
ペン自身も晩年には自説の間違いに気づいていたようですが撤回はしなかった。1999年に彼が死去したので、後任のブエル教授は、小径腎がんは切除後に移植しても再発しないというデータを発表できるようになりました。
2004年、ミラノのペドッティらは腎移植後に生じたがん17例のDNAを検査し、16例がレシピエント由来、1例は決定不能だったと報告しています。つまり明らかにドナー由来のものは見つからなかったということです。
それから<脳腫瘍は転移しない>というペンの説も間違いだとわかりました。日本の「臓器移植ガイドライン」にも脳腫瘍の場合は例外としてドナーになれる、と書いてあります。しかし事実は違います。脳腫瘍による脳圧亢進をやわらげるために、脳室と腹腔をビニールの排液管でつないで、液を腹腔に抜く手術があります。そうすると患者は延命できますが、しばしば脳腫瘍が腹腔に出て来ます。管を通ってがん細胞が移動するからです。脳にはリンパ管がありませんから、リンパ行性の転移はしないのです。それを<脳腫瘍は転移しない>と誤解していたことが証明されました」
弁護人1:「話を腎臓のほうに戻しますが、ボイスという人が移植された腎臓にできた腎細胞がんのDNAを調べたという研究がありますか」
難波:「はいあります。2009年にスペインから報告された論文です」
弁護人1:「どのような研究結果ですか」
難波:「非常に面白い研究結果で、腎臓を移植して14年間フォローしていたら、移植腎からがんが出てきた。今までは移植腎から出てきたのだからドナーの細胞ががん化した、と考えるのが普通でした。ところがこの癌を切除するときに、がんでない部分も一部取りますが、がんの部分と正常な部分、その両方のDNAを調べたら、どちらもレシピエントのものだったという報告です。
これが意味することは明白です。移植された腎臓は、10年くらいはドナーの細胞で成り立っているが、やがて骨髄から来た幹細胞により置換され、レシピエントの腎細胞に変わり、肉眼的なかたちだけが、移植した腎臓のかたちを保っている。そこに腎細胞の癌化が起これば、それは当然、レシピエントのDNAを持ったがんになります。
とんでもない発見です。将来の移植医療を変える発見だと思います」
弁護人1:「それからもっと早い段階で、ブエルという人の研究で、ペンの登録の中で小径腎がんでは再発例がないという報告もありましたか」
難波:「ありました。2005年の論文ですね。ブエルはイスラエル・ペンの後任教授です。ペンの移植癌登録は彼がすべて引き継ぎました。そのデータベースから、小径腎がんを切除後に腎移植した14例を見つけ、全例再発がないという事実を報告しました」
弁護人1:「欧米ではそういう研究、あるいは医学的認識の変化を踏まえて、がんの患者さんもドナーになってもらってはどうか、という動きが出ているのですか」
難波:「はいそうです。マージナルドナー(境界線上のドナー)あるいはエクステンド・ドナー(拡大ドナー)という考え方がそうです。まったく正常とはいえない臓器でも、利用できるのではないかという考え方です。小径腎がんを用いた修復腎移植はこれに入ります。日本でも肝移植では、アミロイドーシスいう病気の肝臓を用いたドミノ移植が行われていす」
弁護人1:「UNOS、全米臓器共有ネットワークという組織がありますね」
難波:「はいあります。日本の臓器移植ネットワークと違い、ドナーを増やすのに積極的です」
弁護人1:「ここにカウフマンという方がいて、マージナルドナーという考え方を提唱しているのですか」
難波:「カウフマンさんは、バージニア州のリッチモンドにあるUNOS本部のドクターです」
弁護人1:「要約するとどんなことを言っておられるのでしょうか」
難波:「カウフマンさんは、何とか移植に使える腎臓を増やしたい。死体腎だけではとても足りないから、まったく健康とはいえなけれども、そのすぐ外縁にあるドナー腎臓を利用しようという主張です。マージナルドナーの腎臓には、高血圧、動脈瘤、肝炎、糖尿病、それに小径腎がんの腎臓も入っています。そういうものも積極的に利用しようという意見です」
弁護人1:「腎がんもその中には入っていると」
難波「はい、2002年のカウフマン論文によると約3万5,000例の臓器移植のうち、ドナー由来のがんはたった0.043パーセントだそうです。約2,000例の移植に1例というレベルです」
弁護人1:「移植を待っている間に、症状が悪化して移植待ち患者が死んでしまうというリスクと比べ合わせて、危険率は低いからドナーを拡げるべきだ、と言っているわけですか」
難波:「はいそうです。リスクとベネフィットをバランスに掛けて、よりベネフィットつまり利益が大きければ、そっちを採用したらよいという考え方は、プラグマティズムの考え方で、米国や英国では普通の考え方ですね」
弁護人1:「米英を例に取られましたが、欧米という範囲でいうとどうなんでしょうか。リスクとベネフィットを勘案して判断するという考え方は、多数派といってよいのですか」
難波:「もともと慣習法系のイギリスやアメリカと大陸法系のドイツやフランスでは、ちょっとは考えが違ったのでしょうが、だんだんドイツ法もプラグマティズムの方向にいま変わりつつあると思います。観念論的な色彩が薄れ、よりプラクティカルなものに変わりつつあります。
臓器移植の世界は、米英がリードし国際的な委員会などを牛耳っていますから、多数派というよりも支配的といった方がよいかも知れません」
弁護人1:「日本の移植学会はいわゆるアムステルダム報告というものを根拠にして、ドナーの予後を問題にしておられるようですが」
難波:「2005年のアムステルダム報告の起草委員長はハーバード大のデルモニコ教授です。2011年、アルゼンチンでの国際臓器提供学会が日本の修復腎移植論文を表彰した時、彼は全体を統括する世界移植学会の会長でした。修復腎移植がアムステルダム報告に違反していたのなら、そんなことはありえません。この報告は修復腎移植を禁止していないのです。日本の移植学会は論文を誤読しています。
どうも日本の移植学会は、修復腎移植を禁止しようとするあまり、牽強付会といいますか、自分の論理に合わせて強引に論文やデータを解釈する傾向が目立つようです。
先ほどのカウフマン論文のケースでも、危険率は0.043パーセントなのに、前の理事長の寺岡先生がお書きになった論文では、同じ論文の引用なのに、がんの持ち込み危険率が4.3パーセントになっています。数字が100倍になっている。もうびっくりします。カウフマンは危険率が低いという主張をする根拠として、その数値を出しているのだから。論文の文脈を無視して数値を改ざんするなんて、私には信じられません。
ひょっとすると、移植学会幹部は他の数値も改ざんしているのではないか、という疑問を持ちます」(続く)
次回は海外における修復腎移植の評価と日本の移植医療とその主体である移植学会に対する評価について述べる予定だ。
7/1(火)午前10時から松山地裁で最終公判が行われます。民事ですから関心の高さは判決に影響を与えます。皆さん大挙して傍聴に行きましょう。私も前日から泊まりがけで行く予定です。
さて最終公判までにはこの証言も終えないといけないな。
(訂正:前回光畑先生の肩書きを「副院長」としたのは誤りでしたので訂正します。)
3/18松山地裁での証言を続ける。今回は「がんの臓器を移植するとがんが転移する」と主張した日本移植学会幹部が依拠した「イスラエル・ペンの学説」の正否がテーマだ。移植学会の幹部は「がんがあった臓器を移植したらがんが移るから危険だ」という理由で病腎移植を否定し、メディアがそれに乗せられて「万波バッシング」を大々的に行ったので、1970~90年代に支配的だった「ペン学説」の検討は裁判に欠かせない。
弁護人1:「癌の転移についてお尋ねします。ドナー臓器の癌が移植すると高率にレシピエントに移るというイスラエル・ペンの学説は現段階では崩壊したのでしょうか」
難波:「崩壊という用語は、学説の盛衰を指す科学の用語としては、あまり妥当ではありません。もう誰も信じていないということです。ある時期に主流であった説も、時と共にみなが信用しなくなって消えて行くので、ある日ガタッと崩れるというものではないんです。
大島先生のような古い論文しか読んでおられない方は、2006年の時点でまだそういう学説を信用しておられたと、でも欧米はどんどん先に行っていたから、誰もそういうことを信じていなかった。それだけの違いでしょう」
弁護人1:「ペンのした解析は、具体的にはどういうものですか」
難波:「イスラエル・ペンは1960年代に南アから移民し、デンバーのコロラド大学にいたユダヤ系の移植外科医で、そこに肝移植で鳴らしたスターヅルという移植外科の教授がいました。ペンは臓器移植患者に癌ができることが多いのに気づいて、1960年代の末にデンバー移植腫瘍登録というのを始めました。80年代にスターズルがピッツバーグ大学に移ったとき、ペンはシンシナチ大学に教授として移りました。それと共に移植腫瘍登録センターもシンシナチに移りました。
ただ、このシステムには欠陥があって臓器移植の全例を登録するのではなく、主治医の任意登録制なんです。強制力がない。自分の臓器移植患者に癌が発生したり、あるいはドナーに癌が見つかったりした場合に、任意に登録するシステムです。
ですから分子ははっきりしているが、分母がわからない登録制度です。」
弁護人1:「癌を持っていたドナーからの移植事例を任意登録したということですか」
難波:「それだけでなく、いろんな例が入っているのです。がん患者の臓器を移植したらレシピエントに癌が出てきたという症例、ドナーの癌ははっきりしないが、レシピエントに癌が出たという事例、いろいろな例が入っています。
それと小さな癌に気づかないでそのまま移植して、癌が大きくならなかった例は、登録されていません」
弁護人1:「それを基にした説が、どのようにして信じられなくなったのですか」
難波:「説明すると長くなるんですが、1960年代には免疫抑制剤が臓器の急性拒絶反応に関わる液性免疫と慢性拒絶反応に関わる細胞性免疫の両方を抑制するものが主体だったので、確かに臓器を移植された患者にがんが出ることが多かった。がん細胞を殺すのは細胞性免疫の方ですから。
ところが1980年代になると免疫抑制剤の改良が進み、液性免疫だけを抑える薬が出てきました。また80年代になるまで、ドナーからがんが移ったのか、それともレシピエントに新しくできたのかを、科学的に区別する方法がなかったのです。1980年代になって、DNA鑑定が発達してドナーのDNAとレシピエントのDNAを区別できるようになった。これを調べると、出てきたがん細胞がドナー由来かレシピエント由来かわかるようになった。これが普及したのが90年代です。
そうするとペンが以前に<癌の持ち込み>と言っていたものに2種類あって、例えば小腸移植で好発する悪性リンパ腫はドナーのリンパ球ががん化したもの、心臓移植に好発する悪性リンパ腫はレシピエントのリンパ球ががん化したもの、とケースバイケースで、ペンのいうように<ドナーからの一方的持ち込み>ではないことが分かって来て、だんだん崩れてきたんです。
ペン自身も晩年には自説の間違いに気づいていたようですが撤回はしなかった。1999年に彼が死去したので、後任のブエル教授は、小径腎がんは切除後に移植しても再発しないというデータを発表できるようになりました。
2004年、ミラノのペドッティらは腎移植後に生じたがん17例のDNAを検査し、16例がレシピエント由来、1例は決定不能だったと報告しています。つまり明らかにドナー由来のものは見つからなかったということです。
それから<脳腫瘍は転移しない>というペンの説も間違いだとわかりました。日本の「臓器移植ガイドライン」にも脳腫瘍の場合は例外としてドナーになれる、と書いてあります。しかし事実は違います。脳腫瘍による脳圧亢進をやわらげるために、脳室と腹腔をビニールの排液管でつないで、液を腹腔に抜く手術があります。そうすると患者は延命できますが、しばしば脳腫瘍が腹腔に出て来ます。管を通ってがん細胞が移動するからです。脳にはリンパ管がありませんから、リンパ行性の転移はしないのです。それを<脳腫瘍は転移しない>と誤解していたことが証明されました」
弁護人1:「話を腎臓のほうに戻しますが、ボイスという人が移植された腎臓にできた腎細胞がんのDNAを調べたという研究がありますか」
難波:「はいあります。2009年にスペインから報告された論文です」
弁護人1:「どのような研究結果ですか」
難波:「非常に面白い研究結果で、腎臓を移植して14年間フォローしていたら、移植腎からがんが出てきた。今までは移植腎から出てきたのだからドナーの細胞ががん化した、と考えるのが普通でした。ところがこの癌を切除するときに、がんでない部分も一部取りますが、がんの部分と正常な部分、その両方のDNAを調べたら、どちらもレシピエントのものだったという報告です。
これが意味することは明白です。移植された腎臓は、10年くらいはドナーの細胞で成り立っているが、やがて骨髄から来た幹細胞により置換され、レシピエントの腎細胞に変わり、肉眼的なかたちだけが、移植した腎臓のかたちを保っている。そこに腎細胞の癌化が起これば、それは当然、レシピエントのDNAを持ったがんになります。
とんでもない発見です。将来の移植医療を変える発見だと思います」
弁護人1:「それからもっと早い段階で、ブエルという人の研究で、ペンの登録の中で小径腎がんでは再発例がないという報告もありましたか」
難波:「ありました。2005年の論文ですね。ブエルはイスラエル・ペンの後任教授です。ペンの移植癌登録は彼がすべて引き継ぎました。そのデータベースから、小径腎がんを切除後に腎移植した14例を見つけ、全例再発がないという事実を報告しました」
弁護人1:「欧米ではそういう研究、あるいは医学的認識の変化を踏まえて、がんの患者さんもドナーになってもらってはどうか、という動きが出ているのですか」
難波:「はいそうです。マージナルドナー(境界線上のドナー)あるいはエクステンド・ドナー(拡大ドナー)という考え方がそうです。まったく正常とはいえない臓器でも、利用できるのではないかという考え方です。小径腎がんを用いた修復腎移植はこれに入ります。日本でも肝移植では、アミロイドーシスいう病気の肝臓を用いたドミノ移植が行われていす」
弁護人1:「UNOS、全米臓器共有ネットワークという組織がありますね」
難波:「はいあります。日本の臓器移植ネットワークと違い、ドナーを増やすのに積極的です」
弁護人1:「ここにカウフマンという方がいて、マージナルドナーという考え方を提唱しているのですか」
難波:「カウフマンさんは、バージニア州のリッチモンドにあるUNOS本部のドクターです」
弁護人1:「要約するとどんなことを言っておられるのでしょうか」
難波:「カウフマンさんは、何とか移植に使える腎臓を増やしたい。死体腎だけではとても足りないから、まったく健康とはいえなけれども、そのすぐ外縁にあるドナー腎臓を利用しようという主張です。マージナルドナーの腎臓には、高血圧、動脈瘤、肝炎、糖尿病、それに小径腎がんの腎臓も入っています。そういうものも積極的に利用しようという意見です」
弁護人1:「腎がんもその中には入っていると」
難波「はい、2002年のカウフマン論文によると約3万5,000例の臓器移植のうち、ドナー由来のがんはたった0.043パーセントだそうです。約2,000例の移植に1例というレベルです」
弁護人1:「移植を待っている間に、症状が悪化して移植待ち患者が死んでしまうというリスクと比べ合わせて、危険率は低いからドナーを拡げるべきだ、と言っているわけですか」
難波:「はいそうです。リスクとベネフィットをバランスに掛けて、よりベネフィットつまり利益が大きければ、そっちを採用したらよいという考え方は、プラグマティズムの考え方で、米国や英国では普通の考え方ですね」
弁護人1:「米英を例に取られましたが、欧米という範囲でいうとどうなんでしょうか。リスクとベネフィットを勘案して判断するという考え方は、多数派といってよいのですか」
難波:「もともと慣習法系のイギリスやアメリカと大陸法系のドイツやフランスでは、ちょっとは考えが違ったのでしょうが、だんだんドイツ法もプラグマティズムの方向にいま変わりつつあると思います。観念論的な色彩が薄れ、よりプラクティカルなものに変わりつつあります。
臓器移植の世界は、米英がリードし国際的な委員会などを牛耳っていますから、多数派というよりも支配的といった方がよいかも知れません」
弁護人1:「日本の移植学会はいわゆるアムステルダム報告というものを根拠にして、ドナーの予後を問題にしておられるようですが」
難波:「2005年のアムステルダム報告の起草委員長はハーバード大のデルモニコ教授です。2011年、アルゼンチンでの国際臓器提供学会が日本の修復腎移植論文を表彰した時、彼は全体を統括する世界移植学会の会長でした。修復腎移植がアムステルダム報告に違反していたのなら、そんなことはありえません。この報告は修復腎移植を禁止していないのです。日本の移植学会は論文を誤読しています。
どうも日本の移植学会は、修復腎移植を禁止しようとするあまり、牽強付会といいますか、自分の論理に合わせて強引に論文やデータを解釈する傾向が目立つようです。
先ほどのカウフマン論文のケースでも、危険率は0.043パーセントなのに、前の理事長の寺岡先生がお書きになった論文では、同じ論文の引用なのに、がんの持ち込み危険率が4.3パーセントになっています。数字が100倍になっている。もうびっくりします。カウフマンは危険率が低いという主張をする根拠として、その数値を出しているのだから。論文の文脈を無視して数値を改ざんするなんて、私には信じられません。
ひょっとすると、移植学会幹部は他の数値も改ざんしているのではないか、という疑問を持ちます」(続く)
次回は海外における修復腎移植の評価と日本の移植医療とその主体である移植学会に対する評価について述べる予定だ。
7/1(火)午前10時から松山地裁で最終公判が行われます。民事ですから関心の高さは判決に影響を与えます。皆さん大挙して傍聴に行きましょう。私も前日から泊まりがけで行く予定です。
さて最終公判までにはこの証言も終えないといけないな。