【クモの糸】今日、文化の日は、小雨が降っていて気温が10度までしか上がらない。遅めの昼食時、ふと勝手口のクモの巣を見ると、この寒いのにちゃんと巣の中心部「こしき」というところで獲物の番をしていた。
網糸に雨だれが水玉を作っているのだが、それに大小があり、かつ同じクモ糸でも水玉がよく付着しているところと、ほとんど付着していない糸がある。(添付2)![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/68/77/c3b02780b6297331a82cd70b94717c64_s.jpg)
かかった獲物の死骸に大きな水滴がぶら下がっているのは、何となく理解できるのだが、網糸のうち、水滴がよく付いている部分は、2日ほど前、網に大きな穴が明いていて、ジョロウグモが補修した比較的新しい網で、水滴が付いていない箇所は前からある古い部分だ。
この前、網を補修しているのを望遠で拡大撮影した写真で、新しい糸はコブ状になっているのを認めたので、それと関係があるのかな、と思い、ラジオペンチでクリップの先端を枠状に加工したクモ糸採取装置をつくり、雨の中、傘をさして前庭に出かけ、ジョロウグモの棄てられた古い網の縦糸(枠糸)と今も使われている網糸の部分を採取してきた。
ここのクモは、この前、「タバコの煙に含まれるニコチンは猛毒だが、クモはどう反応するのか」という実験に使ったクモだ。煙を吹きかけたら、すぐに巣から逃げ出し、枠糸を伝わって木の枝に逃げた。面白いことにずっと尻から糸を引きずっていて、そのまま枝で丸くなった。いざという場合は、すぐに糸を引いて落下する体勢になっていた。
「ニコチン中毒で死ぬかな」と思っていたが、こちらのクモも雨中で元気に獲物を狙っていた。思ったほど、ニコチンの毒性はないようだ。
それらをUSB顕微鏡で観察した。倍率は約30倍である。
最初に「枠糸」と呼ばれる円形の網を周囲の木の枝などに固定している太い糸を観察した。(添付3)![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/50/52/b75255727a8bd1f5c420075f9085e75a_s.jpg)
驚いたことに、まるでロープか小包紐のような形状をしている。これは粘着性がまったくなくて、クリップの金属面に接着せず、指でつまんで巻き付けた。真ん中の枠糸にはそれにそって非常に細い糸が走っているのが認められる。
最近のNTT電話回線には、細い光ファイバーのケーブルがぐるぐる巻き付けてあるが、あれに似ている。
どうもこれは「しおり糸」といって、クモが歩行する時に使った糸らしい。この前、タバコの煙から逃げる時に尻から出していた糸と同じ種類のものだろう。
網の本体である「横糸」の部分をクリップの装置に採取した。これも指で巻き付けた。(添付4)
この糸には一見したところ、コブ状の部分がほぼ等間隔に並んでいる。これがマクロ撮影ではコブとして認められた部分だろうと思われる。
が、よく見るとこれは別の細い糸がループをなしたものだとわかる。さらにこれとは別の非常に細い「しおり糸」も認められる。クモが歩いた跡だろう。本によると「細い糸」は直径が1ミクロン(1/1000mm)だというから、解像力が10ミクロン(0.1mm)のヒトの眼では見えない。
Felixの「Biology of Spiders」を読むと、クモの糸を出す腺には6種類あり、開口部も6箇所あり、糸の性質や太さを自由に調節できるだけでなく、太い軸糸に細い粘着糸を巻き付けて紡ぐことも自在なのだそうだ。
粘着物質は多糖類で、これは糸に均等に塗られるのではなく、細い糸がつくるループの部分にはまり込んでいるという。この物質は水分を吸着する性質があり、糸に水分を補給することで糸の強靱さを増しているという。
クモの糸の粘着性は水洗いすると失われるという。
これを読んで謎がほぼ解けた。添付4
に見られる細いループは、わっかの部分に多糖類を保持していて、「粘着性捕獲糸」の骨格部なのである。古くなって雨により粘着物質が流されたために、ループとなって見え、かつ手で触っても粘着性がないのであろう。
添付2の写真に見られるように、雨だれが水滴となって付着している箇所が、最近クモが補修した箇所に集中的に見られるのは、新しい横糸にはまだ多くの粘着性多糖類が保持されており、このため水滴が大きくなりやすいのであろう。
クモの糸の本体はフィブロインという分子量約3万のウィンナー・ソーセージ状のタンパク質分子が約10個集まって太い束になり、これが「凝集」して固体線維を形成することはこの前述べた。この際にタンパク質分子に、α型からβ型への変換が起こる。
フィブロインの分泌過程は、本によるときわめて複雑で、クモ糸腺の内腔に溜められている液体フィブロインは、ちょうど腎臓の糸球体を通過した原尿が、長い尿細管ループを通過して、集合管に入るように、腺の導管が日光のいろは坂みたいに、折れ曲がっている。
近位部で塩素とナトリウムのイオンが吸収され、中間部でリン酸基の付与と水素イオン(プロトン)の付加が起き、遠位部で脱水が行われる。
リン酸基とプロトンは、おそらくペプチド配列のα→β変換に関係しているはずだから、この部がクモ糸の強靱性と耐久力のカギを握っているのであろう。
驚いたことに、この導管の出口(紡錘孔)の手前には、クモが意識的にコントロール「括約筋」がある。従って、クモは6種の腺の括約筋を自由に操って、目的に応じた糸を自由自在に紡いでいるわけである。
これにはまったく驚いてしまう。
クモ糸を人工的に合成すると、βシート構造が硬くて強靱なので、防弾チョッキが作れるとこの前、新聞が報じていたが、「クモの生物学」には「神経の再生」に利用できると書いてある。クモ糸を失われた神経軸索の代わりに用いると、その周囲に「神経鞘細胞」つまりシュワン細胞が集まってトンネルを作る。この中を再生する神経細胞軸索が通過するので、切断した末梢神経の再生が速いそうだ。
これなどクモ糸と吸収性のゼラチンか何かで、太さ1ミリほどのクモ糸の束を作り、動物の足の神経を切断し、切断部をこれ置き換える実験をしてみたら面白そうだ。上手く行くと、人間への応用分野はいろいろあるだろう。
網糸に雨だれが水玉を作っているのだが、それに大小があり、かつ同じクモ糸でも水玉がよく付着しているところと、ほとんど付着していない糸がある。(添付2)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/68/77/c3b02780b6297331a82cd70b94717c64_s.jpg)
かかった獲物の死骸に大きな水滴がぶら下がっているのは、何となく理解できるのだが、網糸のうち、水滴がよく付いている部分は、2日ほど前、網に大きな穴が明いていて、ジョロウグモが補修した比較的新しい網で、水滴が付いていない箇所は前からある古い部分だ。
この前、網を補修しているのを望遠で拡大撮影した写真で、新しい糸はコブ状になっているのを認めたので、それと関係があるのかな、と思い、ラジオペンチでクリップの先端を枠状に加工したクモ糸採取装置をつくり、雨の中、傘をさして前庭に出かけ、ジョロウグモの棄てられた古い網の縦糸(枠糸)と今も使われている網糸の部分を採取してきた。
ここのクモは、この前、「タバコの煙に含まれるニコチンは猛毒だが、クモはどう反応するのか」という実験に使ったクモだ。煙を吹きかけたら、すぐに巣から逃げ出し、枠糸を伝わって木の枝に逃げた。面白いことにずっと尻から糸を引きずっていて、そのまま枝で丸くなった。いざという場合は、すぐに糸を引いて落下する体勢になっていた。
「ニコチン中毒で死ぬかな」と思っていたが、こちらのクモも雨中で元気に獲物を狙っていた。思ったほど、ニコチンの毒性はないようだ。
それらをUSB顕微鏡で観察した。倍率は約30倍である。
最初に「枠糸」と呼ばれる円形の網を周囲の木の枝などに固定している太い糸を観察した。(添付3)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/50/52/b75255727a8bd1f5c420075f9085e75a_s.jpg)
驚いたことに、まるでロープか小包紐のような形状をしている。これは粘着性がまったくなくて、クリップの金属面に接着せず、指でつまんで巻き付けた。真ん中の枠糸にはそれにそって非常に細い糸が走っているのが認められる。
最近のNTT電話回線には、細い光ファイバーのケーブルがぐるぐる巻き付けてあるが、あれに似ている。
どうもこれは「しおり糸」といって、クモが歩行する時に使った糸らしい。この前、タバコの煙から逃げる時に尻から出していた糸と同じ種類のものだろう。
網の本体である「横糸」の部分をクリップの装置に採取した。これも指で巻き付けた。(添付4)
この糸には一見したところ、コブ状の部分がほぼ等間隔に並んでいる。これがマクロ撮影ではコブとして認められた部分だろうと思われる。
が、よく見るとこれは別の細い糸がループをなしたものだとわかる。さらにこれとは別の非常に細い「しおり糸」も認められる。クモが歩いた跡だろう。本によると「細い糸」は直径が1ミクロン(1/1000mm)だというから、解像力が10ミクロン(0.1mm)のヒトの眼では見えない。
Felixの「Biology of Spiders」を読むと、クモの糸を出す腺には6種類あり、開口部も6箇所あり、糸の性質や太さを自由に調節できるだけでなく、太い軸糸に細い粘着糸を巻き付けて紡ぐことも自在なのだそうだ。
粘着物質は多糖類で、これは糸に均等に塗られるのではなく、細い糸がつくるループの部分にはまり込んでいるという。この物質は水分を吸着する性質があり、糸に水分を補給することで糸の強靱さを増しているという。
クモの糸の粘着性は水洗いすると失われるという。
これを読んで謎がほぼ解けた。添付4
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/78/32/8338b2d79f4a14de84759fd17e41fbe3_s.jpg)
添付2の写真に見られるように、雨だれが水滴となって付着している箇所が、最近クモが補修した箇所に集中的に見られるのは、新しい横糸にはまだ多くの粘着性多糖類が保持されており、このため水滴が大きくなりやすいのであろう。
クモの糸の本体はフィブロインという分子量約3万のウィンナー・ソーセージ状のタンパク質分子が約10個集まって太い束になり、これが「凝集」して固体線維を形成することはこの前述べた。この際にタンパク質分子に、α型からβ型への変換が起こる。
フィブロインの分泌過程は、本によるときわめて複雑で、クモ糸腺の内腔に溜められている液体フィブロインは、ちょうど腎臓の糸球体を通過した原尿が、長い尿細管ループを通過して、集合管に入るように、腺の導管が日光のいろは坂みたいに、折れ曲がっている。
近位部で塩素とナトリウムのイオンが吸収され、中間部でリン酸基の付与と水素イオン(プロトン)の付加が起き、遠位部で脱水が行われる。
リン酸基とプロトンは、おそらくペプチド配列のα→β変換に関係しているはずだから、この部がクモ糸の強靱性と耐久力のカギを握っているのであろう。
驚いたことに、この導管の出口(紡錘孔)の手前には、クモが意識的にコントロール「括約筋」がある。従って、クモは6種の腺の括約筋を自由に操って、目的に応じた糸を自由自在に紡いでいるわけである。
これにはまったく驚いてしまう。
クモ糸を人工的に合成すると、βシート構造が硬くて強靱なので、防弾チョッキが作れるとこの前、新聞が報じていたが、「クモの生物学」には「神経の再生」に利用できると書いてある。クモ糸を失われた神経軸索の代わりに用いると、その周囲に「神経鞘細胞」つまりシュワン細胞が集まってトンネルを作る。この中を再生する神経細胞軸索が通過するので、切断した末梢神経の再生が速いそうだ。
これなどクモ糸と吸収性のゼラチンか何かで、太さ1ミリほどのクモ糸の束を作り、動物の足の神経を切断し、切断部をこれ置き換える実験をしてみたら面白そうだ。上手く行くと、人間への応用分野はいろいろあるだろう。
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