【ホッチキス】
これは元機関銃を作るアメリカの会社の名前だった。小型の書類綴じ機は、機関銃のように「弾(ステープル)」を吐き出すので、日本語ではホッチキスというあだ名がついた。
綴じた書類から針金を剥がすのには、スライド式の除去器があるし、ホッチキスの先端にもヘラ状の金属板がついている。だが、私はもっぱら「ステープル・リムーバー」と呼ばれる、上下の爪で針金を挿んで持ち上げ、上に除去する方式のものを愛用している。(写真3)
(写真3)
ところが11/23の日曜日に、何年ぶりかで使ったところ、手がすべって金属爪の先で人指し指を突いてしまった。猛烈に痛く、すぐに出血して直径3ミリほどの丸い斑点ができ、軽く盛り上がった。いわゆる「血豆」というやつである。
初めは赤く脹れていたが、1週間ちかく経つと黒ずんできた。面白いことに、指紋や皮膚の溝がそのまま表面に残っている。もう痛みは全然ない。「これは実験だ。ひとつ観察してやろう」と思っているから、消毒もせず痛み止めの軟膏もつけなかった。
ただキーボードを叩くと痛むので、乾燥防止もあって、ゴムの手袋をした。今、黒くなった出血部を拡大撮影して観察すると、円盤状に隆起しており、完全な皮内出血である。(写真4)
(写真4)
表皮の下に真皮があるが、これは乳頭層(乳頭層と乳頭下層)という軟らかい薄い部分(バックスキンに相当)とその下の厚い網状層(なめし革の本体)とに分かれる。この出血は表皮と真皮乳頭層の間で起こっている。
乳頭層は表皮に固く接着しているので、出血巣による内圧が高い部分はちぎれるが、辺縁部では、ある内圧以下になると剥がれなくなるので、円形の出血巣をつくる。
「皮内注射」というのは、針をこの部分に刺してワクチンなどを注射する。注射液により皮膚が丸くプクッと膨らむが、あれと同じ現象だ。蚊やブヨの針も乳頭層には届くが、網状層は固いので針が届かない。だから食われた跡が円形に膨らむ。
リムーバーをよく見ると、前に太いステープルを除去するときに、爪先をねじったと見えて、外側の爪の一方が外反を起こしていた。
先の皮膚を2枚の爪が食い込んだのだ。爪が反った部分はラジオペンチで修理して、摩擦部に潤滑剤を塗っておこうと思う 。
20代の中頃、歯科で親知らずを抜いてもらった後、顎が腫れあがり、痛くてたまらなかった。言葉も上手くしゃべれない。その頃は病理学の大学院生だったので、教授に苦境を訴えたところ、「どうだ。急性炎症がどういうものか、よく分かるだろう」と言われて頭にきた。
が、今になって思うと、「発赤、腫脹、発熱、疼痛、機能障害」という急性炎症の五徴候をすべて満足しており、至言だったと思う。あれがありきたりの慰めの言葉だったら、絶対に覚えていないだろう。
「圧痛はもう少ししかない…。炎症は慢性化し、やがてこの血餅の下に表皮の再生が起こり、扁平な血豆はポロッと剥がれ落ちるだろう」と思いながら、今はなき恩師を偲んでいる。
これは元機関銃を作るアメリカの会社の名前だった。小型の書類綴じ機は、機関銃のように「弾(ステープル)」を吐き出すので、日本語ではホッチキスというあだ名がついた。
綴じた書類から針金を剥がすのには、スライド式の除去器があるし、ホッチキスの先端にもヘラ状の金属板がついている。だが、私はもっぱら「ステープル・リムーバー」と呼ばれる、上下の爪で針金を挿んで持ち上げ、上に除去する方式のものを愛用している。(写真3)

ところが11/23の日曜日に、何年ぶりかで使ったところ、手がすべって金属爪の先で人指し指を突いてしまった。猛烈に痛く、すぐに出血して直径3ミリほどの丸い斑点ができ、軽く盛り上がった。いわゆる「血豆」というやつである。
初めは赤く脹れていたが、1週間ちかく経つと黒ずんできた。面白いことに、指紋や皮膚の溝がそのまま表面に残っている。もう痛みは全然ない。「これは実験だ。ひとつ観察してやろう」と思っているから、消毒もせず痛み止めの軟膏もつけなかった。
ただキーボードを叩くと痛むので、乾燥防止もあって、ゴムの手袋をした。今、黒くなった出血部を拡大撮影して観察すると、円盤状に隆起しており、完全な皮内出血である。(写真4)

表皮の下に真皮があるが、これは乳頭層(乳頭層と乳頭下層)という軟らかい薄い部分(バックスキンに相当)とその下の厚い網状層(なめし革の本体)とに分かれる。この出血は表皮と真皮乳頭層の間で起こっている。
乳頭層は表皮に固く接着しているので、出血巣による内圧が高い部分はちぎれるが、辺縁部では、ある内圧以下になると剥がれなくなるので、円形の出血巣をつくる。
「皮内注射」というのは、針をこの部分に刺してワクチンなどを注射する。注射液により皮膚が丸くプクッと膨らむが、あれと同じ現象だ。蚊やブヨの針も乳頭層には届くが、網状層は固いので針が届かない。だから食われた跡が円形に膨らむ。
リムーバーをよく見ると、前に太いステープルを除去するときに、爪先をねじったと見えて、外側の爪の一方が外反を起こしていた。
先の皮膚を2枚の爪が食い込んだのだ。爪が反った部分はラジオペンチで修理して、摩擦部に潤滑剤を塗っておこうと思う 。
20代の中頃、歯科で親知らずを抜いてもらった後、顎が腫れあがり、痛くてたまらなかった。言葉も上手くしゃべれない。その頃は病理学の大学院生だったので、教授に苦境を訴えたところ、「どうだ。急性炎症がどういうものか、よく分かるだろう」と言われて頭にきた。
が、今になって思うと、「発赤、腫脹、発熱、疼痛、機能障害」という急性炎症の五徴候をすべて満足しており、至言だったと思う。あれがありきたりの慰めの言葉だったら、絶対に覚えていないだろう。
「圧痛はもう少ししかない…。炎症は慢性化し、やがてこの血餅の下に表皮の再生が起こり、扁平な血豆はポロッと剥がれ落ちるだろう」と思いながら、今はなき恩師を偲んでいる。
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