ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【翻訳家】難波先生より

2014-02-19 09:01:41 | 難波紘二先生
【翻訳家】 渡部政隆は生物学/進化論を得意とする翻訳家で、ハーバードのS.J.グールドとオックスフォードのR.ドーキンスが進化論をめぐって大論争をしていた頃に、S.J.グールド「ニワトリの歯」(早川書房, 1988)の翻訳者として名前を知った。が、最近は翻訳新刊書に彼の名前を見かけなくなった。
 日曜日の新聞書評を見ていたら、A.ワイズ「滅亡へのカウントダウン」(早川書房)という本の書評をしているのに気づいた。肩書が「筑波大学教授」となっている。WIKIで見ると、「大学広報室」の所属となっている。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/渡辺政隆

 「大綱化」につぐ「独法化」で、大学の人事は何でもありになっているから、別に驚かない。職業として考えた場合に、翻訳家も書評家も決して割の良い仕事ではないからだ。書評家の斎藤美奈子が「本の本」(ちくま文庫)という書評集を出しているが、新聞、週刊誌に載せた書評原稿350本がもとで、700冊を紹介している。多くは小説・随筆の類の軽い本だが、中にはイサベラ・バード「日本奥地紀行」、V.E.フランクル「夜と霧」(みすず書房)のような重い本もある。読んで書くというだけで、大変である。
 翻訳家出身の書評者には、書評家として原著者の紹介だけでなく翻訳がすぐれているかどうかの批評をやってもらいたいと思う。ワイズマンは「人類が消えた世界」(ハヤカワNF文庫)もあり、どちらかというとホラー系のNF作家だ。迫り来る脅威を強調するタイプの作家である。訳者の鬼沢忍にはアセモグル「国家はなぜ衰退するのか」(早川書房)があり、訳文は少し固いが大きな誤訳はなさそう。

 本の書評を書いた渡辺は、まるでマルサス「人口論」における議論を知らないかのようにふるまっているが、これはいかがなものか。マルサスは人口が等比級数的に増加するのに対して、食糧生産は幾何級数的にしか増加しないので、絶えざる人口増加は食糧等の資源のアンバランスとあいまって、社会の大破綻や戦争をもたらすと警告した。
 この議論が背景にあって、資源欠乏が「選択圧」となり「適者生存」が行われれば「進化」が起こり、新しい種の出現が起きると論じたのがダーウィンの「種の起源」である。進化生物学書の翻訳に多く携わった渡辺が、そのことに無知だとは思えない。
 幸いにして、マルサスが予言したような破綻が到来しなかったのは、ひとつには産業革命により化石エネルギーが利用されるようになり、人間社会に投入される外部エネルギーが増大したからである。もうひとつは、化学肥料や機械の導入などにより、耕地面積あたりの農業生産性が向上したからである。
 発展途上国の人口増はこれまでも問題だったが、ここにきて目立つようになったのは、先進国が経済的にも人口面でも「定常状態」に近づきつつあるのに対して、発展途上国では経済成長率が高く、新生児及び乳幼児死亡率が急速に低下したことで、成人人口が急激に増え、これが新たな人口増の要因になっているという現象である。
 これらの国が国内経済に新しい労働力を吸収できなければ、出稼ぎ・移民となって国外に向かう労働者の圧力は増す。基本的にはマルサスが提起した問題だが、マルサスの当時と違い、経済がよりグローバル化しているので、一見別の問題に見えるにすぎない。
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