【質問など】名古屋のI先生から前便についてコメントが寄せられた。どうもありがとうございました。
1) <ハナミズキは花弁ですが、ヤマボウシは総包片です。見かけは似ていて同じミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属に分類される様ですが、先生の指摘するリンネ分類の問題点なのでしょうか。>
手許の「植物百科」(集英社)には総包片とは花弁を裏打ちしている「へた」(菊やタンポポで著明)のことで、ヤマボウシにもハナミズキにもあるが、ヤマボウシでは先が尖っているのに対して、ハナミズキでは「総包片の先に丸いへこみがあるので、すぐわかる」と書いてあります。(実ははじめ読んだとき「総包片」の意味がわからず、とばして読みました。他の方のために図を添付します。これは菊の総包と思います。(添付1)![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/28/16/6b845d3a2da7762fe6f432479615ae4f_s.jpg)
車の中から街路樹の花を見たので、下りて総包片を確認していません。しかし花弁の大きさから見て、明らかに園芸種です。
家内と意見が違ったのは「コブシだ」というので、「いや花弁が4枚だからドッグウッドだ」と私が主張したわけです。
コブシはモクレン科で花が芳香を放ちます。英語ではMagnoliaですね。但し花弁数が6~9枚と多いのですぐ区別がつきます。
モクレン科に北米の東海岸原産の「アメリカユリノキ(チューリップ・ツリー)」があります。幹からいきなり、白いユリのような花が咲き、はじめて見たときビックリしました。園芸種が日本で売られているのを知り、庭に植えて花を咲かせていたのですが、「肥やしになれば」と刈った芝を根元に積んでいたら、根腐れをおこして台風の時に倒れてしまいました。
植物の学名は現在「国際植物名規約」(手許の資料では1993年版が最新)に従うようになっていて、リンネの門ー綱ー目ー科ー属ー種の大枠は変わっていませんが、各レベルの下に「亜門」、「亜綱」などを設けたり、属名を変更したりしているようです。平嶋義宏『生物学名概論』(東大出版会)によると、ハナミズキ(Benthamidia florida)は「日米親善の樹」だそうで、理由はWIKIにありました。ワシントンに桜を贈ったお返しに日本にプレゼントされたのですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ハナミズキ
(このWIKIの下の写真説明は間違っていると思います。冒頭右の写真と説明は正しい。)
属名のベンタムはもしかして「最大多数の最大幸福」を唱えたジェレミー・ベンタムと関係あるかと、調べたらGeorge Bentham(1800~1884)という英国の有名な植物学者で、ジェレミーの甥で秘書をしていた人物でした。ジェレミーの方は確かトマス・ホジキンとも関係があります。
なお日本のヤマボウシはいま、学名がCornus kousaに変わったと上記平嶋本にあります。同書によると、国際規約で命名者の優先権(priority)を尊重することになったのが理由だ、ということです。(手許の「植物百科」は1964年版でした。買い換えます)。これは牧野富太郎の命名です(牧野はラテン語ができなかったので、友人のロシアの学者に標本を送って命名してもらった)。「牧野自伝」によると、途中でこのマキシモヴィッチという学者がなくなり、後は自分で学名をつけたという。この事情を知れば珍学名も納得がいく。
Cornusはラテン語で「角、こぶ」の意味。Kousaはヤマボウシの箱根方言「クサ」に由来するとあります。二重母音「ou」をウと発音するのはフランス語の特徴で、ラテン語になく、意味不明の変な命名です。
この説明に従えば、ヤマボウシはCornus属、ハナミズキはBenthamidia属ということになります。
動物学の方はDNA解析により「系統発生上の分類」つまり分岐分類が主体になってきていますので、将来は植物学名もまた変わる可能性があります。
牧野富太郎といえば、時折、「バベル社」という東京東池袋の出版社が「植物記」という本を「限定出版」と称して正続2冊を1万2000円で売る広告を新聞に出しています。あれには引っかからないように気をつけて下さい。「桜井書店版」の質の悪い復刻版です。
2)同じく、武村政春「新しい生物学」について:
<武村政春さんは、以前名古屋大学のウイルス講座にいたのでよく知っていますが研究者です。Non MDですが、「ろくろく部の首はなぜ伸びるのか(新潮新書)」などユニークな本を書いていて、高校生や文系向けの科学の本をたくさん書いているようです。>
GINIによると、武村政春氏には1996以来、22篇の論文・著書・学会抄録があるようです。
http://ci.nii.ac.jp/search?q=武村政春&range=0&count=200&sortorder=1&type=0
また天然痘ウイルスと真核細胞の起原に関する英文の仮説提唱論文もあるようです。
http://link.springer.com/article/10.1007/s002390010171#page-1
ブルーバックスの「新しいウイルス入門」を読んでみると、医学部卒でないのがすぐ判ります。病理学、医学史を本格的に勉強していないのが判ります。(記述内容と参考文献から)。
例えば「ワクチンの発明者」(1798)としてエドワード・ジェンナーの話が書いてありますが、これは通俗美談で、「天然痘予防法」としての種痘法は、ヴォルテールが「哲学書簡」(1727)の第11信「種痘について」ですでに書いています。ジェンナーの50年前です。
種痘法はコーカサス地方からトルコのイスタンブールに伝えられ、駐イスタンブール、仏、英大使によりフランス、英国に持ち込まれました。これはいずれもヒト天然痘ウイルスによる予防接種ですが、ジェンナーは牛の天然痘ウイルスが交叉免疫により、ヒト天然痘予防に利用できることを発見したのです。彼はジョン・ハンターの弟子でロンドンにいましたから、「種痘」そのものは知っていたはずです。
武村氏の記述は平板で、学問的蓄積がないので、深みがありません。
私は日本に本格的な「ポピュラーサイエンス・ライター」が必要と思いますが、それはおそらく片手間ではできないはずです。それと「理学部卒、医学博士号取得」と肩書に書くべきだと思います。いつかMRIC(メルマガ)に「医学博士に医師免許を与えよ」という逆立ちした論説が投稿され、反論したことがあります。医師免許のない人が「医学博士」になっても、それは「DR. Med. Sci.」であり、MDではありません。
生物の進化系列をみると不思議なことがあります。例えばサメは鯨を襲って食べます。しかしサメは軟骨魚類で鯨は哺乳類です。サメの祖先が誕生したときには、鯨はいなかったはずです。
琥珀の中から恐竜の血を吸った蚊が見つかっています。蚊が誕生したとき、陸生動物は爬虫類しかいなかった。しかし今は哺乳類に依存して生きています。
このように生物同志の寄生、感染、食物連鎖の関係は、ダイナミックに変化しているので、古細菌ー原核細胞ー真核細胞ー多細胞生物とリケッチャやウイルスとの関係も、直線的ではありません。真核細胞から退化したものも、原核細胞の遺伝子部分が独立したものもあると思います。ウイルスの起原に関する仮説は結構ですが、大事なことはそれを検証すること、もしくは「反証可能性」を呈示することです。残念ながらそれは見あたりません。
明治期に二人の井上という哲学者がいました。哲次郎の方は日本で最初に「哲学辞典」を編纂した、東京帝大の教授です。多くの日本語哲学用語を作りました。もう一人は「妖怪研究」に没頭した円了で、東洋大学の前身「哲学館」を創設しました。彼のあだ名が「妖怪博士」です。
さしづめ武村氏は「現代の妖怪博士」ですね。
1) <ハナミズキは花弁ですが、ヤマボウシは総包片です。見かけは似ていて同じミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属に分類される様ですが、先生の指摘するリンネ分類の問題点なのでしょうか。>
手許の「植物百科」(集英社)には総包片とは花弁を裏打ちしている「へた」(菊やタンポポで著明)のことで、ヤマボウシにもハナミズキにもあるが、ヤマボウシでは先が尖っているのに対して、ハナミズキでは「総包片の先に丸いへこみがあるので、すぐわかる」と書いてあります。(実ははじめ読んだとき「総包片」の意味がわからず、とばして読みました。他の方のために図を添付します。これは菊の総包と思います。(添付1)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/28/16/6b845d3a2da7762fe6f432479615ae4f_s.jpg)
車の中から街路樹の花を見たので、下りて総包片を確認していません。しかし花弁の大きさから見て、明らかに園芸種です。
家内と意見が違ったのは「コブシだ」というので、「いや花弁が4枚だからドッグウッドだ」と私が主張したわけです。
コブシはモクレン科で花が芳香を放ちます。英語ではMagnoliaですね。但し花弁数が6~9枚と多いのですぐ区別がつきます。
モクレン科に北米の東海岸原産の「アメリカユリノキ(チューリップ・ツリー)」があります。幹からいきなり、白いユリのような花が咲き、はじめて見たときビックリしました。園芸種が日本で売られているのを知り、庭に植えて花を咲かせていたのですが、「肥やしになれば」と刈った芝を根元に積んでいたら、根腐れをおこして台風の時に倒れてしまいました。
植物の学名は現在「国際植物名規約」(手許の資料では1993年版が最新)に従うようになっていて、リンネの門ー綱ー目ー科ー属ー種の大枠は変わっていませんが、各レベルの下に「亜門」、「亜綱」などを設けたり、属名を変更したりしているようです。平嶋義宏『生物学名概論』(東大出版会)によると、ハナミズキ(Benthamidia florida)は「日米親善の樹」だそうで、理由はWIKIにありました。ワシントンに桜を贈ったお返しに日本にプレゼントされたのですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ハナミズキ
(このWIKIの下の写真説明は間違っていると思います。冒頭右の写真と説明は正しい。)
属名のベンタムはもしかして「最大多数の最大幸福」を唱えたジェレミー・ベンタムと関係あるかと、調べたらGeorge Bentham(1800~1884)という英国の有名な植物学者で、ジェレミーの甥で秘書をしていた人物でした。ジェレミーの方は確かトマス・ホジキンとも関係があります。
なお日本のヤマボウシはいま、学名がCornus kousaに変わったと上記平嶋本にあります。同書によると、国際規約で命名者の優先権(priority)を尊重することになったのが理由だ、ということです。(手許の「植物百科」は1964年版でした。買い換えます)。これは牧野富太郎の命名です(牧野はラテン語ができなかったので、友人のロシアの学者に標本を送って命名してもらった)。「牧野自伝」によると、途中でこのマキシモヴィッチという学者がなくなり、後は自分で学名をつけたという。この事情を知れば珍学名も納得がいく。
Cornusはラテン語で「角、こぶ」の意味。Kousaはヤマボウシの箱根方言「クサ」に由来するとあります。二重母音「ou」をウと発音するのはフランス語の特徴で、ラテン語になく、意味不明の変な命名です。
この説明に従えば、ヤマボウシはCornus属、ハナミズキはBenthamidia属ということになります。
動物学の方はDNA解析により「系統発生上の分類」つまり分岐分類が主体になってきていますので、将来は植物学名もまた変わる可能性があります。
牧野富太郎といえば、時折、「バベル社」という東京東池袋の出版社が「植物記」という本を「限定出版」と称して正続2冊を1万2000円で売る広告を新聞に出しています。あれには引っかからないように気をつけて下さい。「桜井書店版」の質の悪い復刻版です。
2)同じく、武村政春「新しい生物学」について:
<武村政春さんは、以前名古屋大学のウイルス講座にいたのでよく知っていますが研究者です。Non MDですが、「ろくろく部の首はなぜ伸びるのか(新潮新書)」などユニークな本を書いていて、高校生や文系向けの科学の本をたくさん書いているようです。>
GINIによると、武村政春氏には1996以来、22篇の論文・著書・学会抄録があるようです。
http://ci.nii.ac.jp/search?q=武村政春&range=0&count=200&sortorder=1&type=0
また天然痘ウイルスと真核細胞の起原に関する英文の仮説提唱論文もあるようです。
http://link.springer.com/article/10.1007/s002390010171#page-1
ブルーバックスの「新しいウイルス入門」を読んでみると、医学部卒でないのがすぐ判ります。病理学、医学史を本格的に勉強していないのが判ります。(記述内容と参考文献から)。
例えば「ワクチンの発明者」(1798)としてエドワード・ジェンナーの話が書いてありますが、これは通俗美談で、「天然痘予防法」としての種痘法は、ヴォルテールが「哲学書簡」(1727)の第11信「種痘について」ですでに書いています。ジェンナーの50年前です。
種痘法はコーカサス地方からトルコのイスタンブールに伝えられ、駐イスタンブール、仏、英大使によりフランス、英国に持ち込まれました。これはいずれもヒト天然痘ウイルスによる予防接種ですが、ジェンナーは牛の天然痘ウイルスが交叉免疫により、ヒト天然痘予防に利用できることを発見したのです。彼はジョン・ハンターの弟子でロンドンにいましたから、「種痘」そのものは知っていたはずです。
武村氏の記述は平板で、学問的蓄積がないので、深みがありません。
私は日本に本格的な「ポピュラーサイエンス・ライター」が必要と思いますが、それはおそらく片手間ではできないはずです。それと「理学部卒、医学博士号取得」と肩書に書くべきだと思います。いつかMRIC(メルマガ)に「医学博士に医師免許を与えよ」という逆立ちした論説が投稿され、反論したことがあります。医師免許のない人が「医学博士」になっても、それは「DR. Med. Sci.」であり、MDではありません。
生物の進化系列をみると不思議なことがあります。例えばサメは鯨を襲って食べます。しかしサメは軟骨魚類で鯨は哺乳類です。サメの祖先が誕生したときには、鯨はいなかったはずです。
琥珀の中から恐竜の血を吸った蚊が見つかっています。蚊が誕生したとき、陸生動物は爬虫類しかいなかった。しかし今は哺乳類に依存して生きています。
このように生物同志の寄生、感染、食物連鎖の関係は、ダイナミックに変化しているので、古細菌ー原核細胞ー真核細胞ー多細胞生物とリケッチャやウイルスとの関係も、直線的ではありません。真核細胞から退化したものも、原核細胞の遺伝子部分が独立したものもあると思います。ウイルスの起原に関する仮説は結構ですが、大事なことはそれを検証すること、もしくは「反証可能性」を呈示することです。残念ながらそれは見あたりません。
明治期に二人の井上という哲学者がいました。哲次郎の方は日本で最初に「哲学辞典」を編纂した、東京帝大の教授です。多くの日本語哲学用語を作りました。もう一人は「妖怪研究」に没頭した円了で、東洋大学の前身「哲学館」を創設しました。彼のあだ名が「妖怪博士」です。
さしづめ武村氏は「現代の妖怪博士」ですね。
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