【人工甘味料テスト結果】鏑木漣「甘い罠:小説・糖質制限食」(東洋経済新報社)に以下のセリフが出てくる(p.191)。
<審査員の四人が有明の料理に手をつけた。
「照り焼き、甘くて旨いが、これには砂糖を使っているでしょう?」
ソムリエの斎藤が有明を大きな目で見る。
「この甘味は、おそらく合成甘味料ではなく天然由来の糖アルコールでしょう」
時任が首を左右に振って言った。
「はい、エリスリトールです」
有明が答えた。
「やはり。私らが和菓子に使うのは和三盆ですが、エリスリトールなら合格でしょうね。アスパルテームやアセスルファムカリウムなどの人工甘味料を使っていれば、私は審査を放棄するところでした。甘さが人工的すぎて不味いということもあるけれど、身体に有害だからね。米国では使用禁止にすべきだと言っているほどだ。エリスリトールなら、さっと甘味が消えて、さっぱりする点も女性に受けるかもしれないね」
時任はぎょろっとした目を有明に向ける。>
この文章では「時制の一致」という原則が守られておらず、同じ時、同じ場面なのに、叙述に過去形と現在形が混じっている。
普通の会話ではセリフの前に発言者が指定されるか、「ト書き」形式では発言者が後に来る。この文章では発話の後に、独立して発言者が措定されており、読む上で混乱が生じる。
つまり、小説家としては未熟な文体である。
この小説は、「人工甘味料のうち、エリスリトールやキシリトールのような糖アルコールは良いが、アスパルテームやアセスルファム・カリウムのような合成甘味料は有害だ」と述べている。果してそうか?
「糖アルコール」とは、糖に結合している=C=Oというカルボニル基が還元されてヒドロキシル基-OHが2~3個くっついた「多価アルコール」をいう。糖アルコールをゆるやかに酸化すると、アルドース、ケトースなどの糖になる。急速酸化してえられるものに人工甘味料のひとつ「エリスリトール(ET)」がある。エリスリトールはブドウ糖の発酵により得られる。糖アルコール由来の甘味剤には他にキシロース由来のキシリトールなどがある。
今年3月から人工甘味料「パルスィート」という1袋170g入りのパウダーを朝、小さじ1杯、午後も同様に1杯、コーヒーに入れて飲んでいる。化学的には「L-フェニールアラニン」の粉末である。メーカーは味の素で、大正製薬が提携している。表示をよく読むと50%がアスパルテーム(L-フェニールアラニン)で、残りが「エリスリトール」と「アセスルファム・カリウム」らしい。で、肝腎の味の方だが、初め少し砂糖と違うと思ったが、今は慣れて大変甘くて満足している。
そしたら宇和島の武田元介さんが自分の会社で扱っている業務用パルスィート、シュガーカット、ラカントSをどっさり送って下さったので、飲み比べてみた。お約束どおりその結果を報告する。実験条件は同一で、いつもはブラックで飲む、バリスタで入れた「ネスカフェ・ゴールドブレンド」のカップ(約150ml)に小さじ1杯(約1gm)の人工甘味料を溶かし、主観的な甘味強度、甘味の純粋性(苦味、辛味、酸味、うま味などが付随しないかどうか)、味の持続性(あと口とその種類)、唾液中への二次分泌の有無について比較した。
いずれも重量濃度は約0.7%である。
その結果、パルスィートがもっとも甘く、味が純粋な甘さであり、味の切れがよい(持続性がない)、唾液への分泌による味も生じないことがわかった。
シュガーカットは甘さが純粋でなく強度も弱い。
ラカントSは甘さの他に、ヨモギに似た一種の苦味がある。薬草の味である。これを好む人もいるだろうが、私は好まない。
以上が結論で、送られた1.7キロのパルスィートは全部飲んでしまい、今はシュガーカットを飲んでいるが、まだ1キロ以上残っている。ラカントSは苦味があるので飲まない。
以下は実験結果に対する文献による考察である。
まず3種の人工甘味料の特徴をまとめる。
パルスィート(味の素)=は「タンパク質0.4%、糖質100%、食物繊維0%、エネルギー0%」(メーカー表示による)で、成分はエリスリトール、アスパルテームとアセスルファムK。
シュガーカット(浅田飴)=は「炭水化物100%、糖質0%、エネルギー0%」(同上)。成分はエリスリトールとスクラロース。
ラカントS(サラヤ)=は「炭水化物99.5%、タンパク質0.1%」(同上)で、となっている。ウリ科植物の実ラカンカ(羅漢果)の抽出物「ラカンカ配糖体」に、糖アルコールであるエリスリトールが混合されている。混合比率は不明。色は暗褐色で、黒砂糖粉末のようだ。
次ぎに、含有されている成分を検討する。
3製品に共通に含まれているのはエリスリトールで、これは上述のようにブドウ糖由来の糖アルコールで、砂糖に対する甘味度は0.8(砂糖を1とする)で、やや甘さが落ちる。だから「増量剤」として使用されているものと思われる。
1)アスパルテームとアセスルファムKは「パルスィート」だけに含まれている。
アスパルテームは化学的には「L-α-アスパルチル-L-フェニルアラニン・メチルエステル」といい、アミノ酸であるアスパラギン酸とフェニルアラニンがペプチド結合し、フェニルアラニンのアミノ基の反対側にメタノール基が付いたものだ。甘味度は砂糖の200倍とされている。
このアスパルテームに関しては、「毒物だ」という指摘もある。
「週刊金曜日」ブックレット「買ってはいけない(1)」1999には、環境問題家の船瀬俊介が11項目の危険性を挙げている。
J.S.ハル「スイート・ポイズン」(東洋経済新報社, 2013)では、アメリカで「ニュートラル・スィート」という商品名で売られたり、ドリンク剤に含まれているパルスィートが、あたかも悪魔であるかのように、やり玉に挙げられている。しかし出発点は著者の偏頭痛とバセドウ氏病が、すべてダイエト・コークの飲み過ぎ、それに含まれているアスパルテームのせい、という思い込みから発しており、科学捜査のように身辺の環境汚染物質、食品添加物すべてを候補として挙げ、論理的に犯人を追いつめて行くというものではない。
アスパルテームが体内に入り分解されたら、まずアスパラギン酸とメタノール・フェニルアラニンが分離する。大量のメタノールには神経毒性があるから、当然体重Kg当たりの1日摂取量には制限を設けなくてはいけない。
もうひとつ、北欧系の白人の場合、先天的にメラニン色素合成能が低い。これは日光の少ない高緯度地方への適応として生じたもので、ノルウェー北方に住むモンゴロイドであるラップ人にもメラニン合成不全症が認められる。「白いアジア人」である。
メラニンの合成経路は複雑だが、最初にフェニルアラニンが水酸化酵素の作用によりチロシンに変わる。
チロシンを素材として二つの重要物質が合成される。メラニン色素と甲状腺ホルモンであるチロキシンだ。
遺伝的にフェニルアラニンを水酸化する酵素が欠損しているのが「フェニルケトン尿症」で、高濃度の血中フェニルアラニンの毒性により脳の発達が致命的に遅れる。
相同遺伝子の両方に欠陥がある場合はしばしば致命的だが、片方が正常の場合は「低フェニルアラニン食」で生き延びることができる。
アメリカの人口集団のなかに「フェニルアラニン不耐性症」の家系もしくは散発的な個人が存在し、それが過剰なアスパルテームを摂取した場合(一日に1g以上というような)に、フェニルアラニン中毒症状や過剰なチロシン産生によるバセドウ病を発症する可能性はある。
またアスパルテームは人工的に合成されたペプチドだから、自然界に存在しない。従ってそれに対する抗体をあらかじめ有している個体なら、アレルギーや皮疹、脳血管の収縮による偏頭痛が起こることも考えられる。
これは肝臓にアルコール脱水素酵素が欠除していて、知らずに酒を飲んでも急性アルコール中毒になったり、採血の前に皮膚をアルコールで消毒してもかぶれる人がいるのと同様だ。
ハルの本の巻末には米上院における医師や薬学者、弁護士の証言・陳述が8本収録されているが、中には日付と場所の記載がないものがあるという杜撰さだ。
全部読んだが、LD50を示して、人体に有害であるというデータを示し、説得力のある禁止論を展開したものは、ひとつもなかった。それどころか「チャイニーズ・レストラン・シンドローム」を引き合いに出して、グルタミン酸ナトリウムが有害だと主張する論者もあり、笑ってしまった。量を過ごせば、薬も毒になる。問題は適量と中毒量の幅が広いか狭いかである。
毒か薬か、というような二分法的議論はだめだ。
アセスルファム・カリウム(アセスルファムK)は、「他の高甘味度甘味料と併用すると相乗効果をもたらす性質があり、アスパルテームと1:1で併用すると甘味度が40%強化されキレとコクのある甘味質となる。」(日本語WIKI)
この物質は「ジケテンとスルファミン酸を反応させ、これに三酸化硫黄を反応させることによりアセスルファム環を作った後、水酸化カリウムで中和することにより得られるオキサチアジノンジオキシド誘導体」(日本語WIKI)とあり、スルフォン基をもつのが特徴である。甘味度は砂糖の200倍とされており、等量のアスパルテームと混合すると280倍に上昇するので、組成比率は公開されていないが、「パルスィート」においては、アスパルテームが主材で甘味増強のために、アセスルファムKを等量混合し、さらに増量のために甘味度0.8のエリスリトールが加えられているものと推測される。
2)「シュガーカット」には、甘味増強剤アセスルファムKが入っておらず、スクラロースが主たる甘味剤である。スクラロースは五単糖のフルクトース(果糖)と六炭糖のグルコース(ブドウ糖)が結合してできるシュクロース(砂糖)の水酸基(-OH)を3箇所で塩素(CL)に置換した物質である。基本構造は砂糖と同じだが、甘味度は砂糖の600倍もあるとされている。従ってシュガーカットの味はスクラロースの味と見て良いだろう。エリスリトールは増量剤として使用されているようだ。
日本語WIKIによると、「スクラロース製品は、食品加工メーカー、また、製薬メーカー等、食品加工業向け商品であり、一般向けには直接市販されていない」という。道理で、武田元介さんが大きな「業務用1.7Kg」袋入りで送ってくれたわけだ。
藤井正美(監修)「高甘味度甘味料 スクラロースのすべて」(光琳)には、p.30に「核種甘味度甘味料の味質の比較」というタイトルの、砂糖、アスパルテーム、スクラロース、サッカリン、ステビアの5種を、こく、まろやかさ、すっきり、刺激、渋味、くせ、しつこさ、後引き、苦味の9要素にわけて、比較した図がある。砂糖を同心円として描いた場合、それに一番近い円を描くのがスクラロースとなっている。
これは専門家の味見試験の結果だそうだが、私の舌試験では甘味が薄く、純粋な甘味でない。
スクラロースが糖尿病や肥満防止によい理由として、同書に「体内で分解されないので、エネルギーにならない」とある。ヨーグルト発酵ではまったく分解されないそうだ。
本当にそうならよいが、もし分解されたら、塩素を3個含んでいるから、塩化ビニールと同じで発がん性があるものと見なくてはいけないだろう。
この藤井本は食品業界の宣伝本で、欠点については何も書いてない。「MERCK INDEX」11版をみると、スクラロースのLD50はマウスで>16g/Kgとある(急性毒性)。
小さじ一杯つまり1gのシュガーカットに含まれるスクラロースの量は1%程度つまり10mg程度と思われる。仮に1日にコーヒーを10杯飲んでも100mgだ。体重50キロとすれば、2mg/Kgに過ぎない。
同じくアスパルテームを調べたがちゃんと物性は書いてあるが、LD50の記載がない。
アセスルファム(Acesulfame)も載っているが、これもLD50の記載がない。太田静行他「高甘味度甘味料 アセスルファムK」(幸書房, 2002), p.44-45によると、LD50はラット5g/Kg、マウス6g/Kgであり、慢性毒性や発がん性・催奇形性はないとある。
【結論】3種の人工甘味料は、甘さの点ではパルスィート>シュガーカット>ラカントSの順であった。
このうち、糖アルコールのエリスリトールはいづれの商品にも増量剤として使用されている。ラカントSはこれにラカンカ配糖体が加えてある。
他方、パルスィートはアスパラギン酸にL-フェニルアラニンを結合させた人工的化合物のアスパルテームと 同じく人工化合物のアセスルファムKとを主成分にしている。
シュガーカットはシュクロース(蔗糖)に塩素を三つ結合させた人工的化合物スクラロースが主成分である。
アスパルテームは国内では1983年以来、食品添加物として使用が認められている。アセスルファムKは2000年4月以来、国内で食品添加物として使用されている。
スクラロースは1999年7月以降、食品添加物として認められている。いずれも今のところ、明らかな害作用は認められていない。
そうなると、選択は各自の好みの問題といえよう。「天然物には害がない」と信じる人はラカントSを選ぶだろうし、100%排出されるから慢性毒性がないと考える人はシュガーカットを選ぶだろう。私のように、「少量で砂糖と同じ味がする。微量だから毒性など問題にならない」と考える人は、パルスィートを選ぶだろう。
そもそも生物の生存に不可欠な酸素は、猛毒である。生きていくとは、その猛毒を体内に取り入れることである。根本的なことを忘れて、タバコは害があるだの酒はよくないなどと言っても始まらない。人工甘味料も同じようなものだ。
<審査員の四人が有明の料理に手をつけた。
「照り焼き、甘くて旨いが、これには砂糖を使っているでしょう?」
ソムリエの斎藤が有明を大きな目で見る。
「この甘味は、おそらく合成甘味料ではなく天然由来の糖アルコールでしょう」
時任が首を左右に振って言った。
「はい、エリスリトールです」
有明が答えた。
「やはり。私らが和菓子に使うのは和三盆ですが、エリスリトールなら合格でしょうね。アスパルテームやアセスルファムカリウムなどの人工甘味料を使っていれば、私は審査を放棄するところでした。甘さが人工的すぎて不味いということもあるけれど、身体に有害だからね。米国では使用禁止にすべきだと言っているほどだ。エリスリトールなら、さっと甘味が消えて、さっぱりする点も女性に受けるかもしれないね」
時任はぎょろっとした目を有明に向ける。>
この文章では「時制の一致」という原則が守られておらず、同じ時、同じ場面なのに、叙述に過去形と現在形が混じっている。
普通の会話ではセリフの前に発言者が指定されるか、「ト書き」形式では発言者が後に来る。この文章では発話の後に、独立して発言者が措定されており、読む上で混乱が生じる。
つまり、小説家としては未熟な文体である。
この小説は、「人工甘味料のうち、エリスリトールやキシリトールのような糖アルコールは良いが、アスパルテームやアセスルファム・カリウムのような合成甘味料は有害だ」と述べている。果してそうか?
「糖アルコール」とは、糖に結合している=C=Oというカルボニル基が還元されてヒドロキシル基-OHが2~3個くっついた「多価アルコール」をいう。糖アルコールをゆるやかに酸化すると、アルドース、ケトースなどの糖になる。急速酸化してえられるものに人工甘味料のひとつ「エリスリトール(ET)」がある。エリスリトールはブドウ糖の発酵により得られる。糖アルコール由来の甘味剤には他にキシロース由来のキシリトールなどがある。
今年3月から人工甘味料「パルスィート」という1袋170g入りのパウダーを朝、小さじ1杯、午後も同様に1杯、コーヒーに入れて飲んでいる。化学的には「L-フェニールアラニン」の粉末である。メーカーは味の素で、大正製薬が提携している。表示をよく読むと50%がアスパルテーム(L-フェニールアラニン)で、残りが「エリスリトール」と「アセスルファム・カリウム」らしい。で、肝腎の味の方だが、初め少し砂糖と違うと思ったが、今は慣れて大変甘くて満足している。
そしたら宇和島の武田元介さんが自分の会社で扱っている業務用パルスィート、シュガーカット、ラカントSをどっさり送って下さったので、飲み比べてみた。お約束どおりその結果を報告する。実験条件は同一で、いつもはブラックで飲む、バリスタで入れた「ネスカフェ・ゴールドブレンド」のカップ(約150ml)に小さじ1杯(約1gm)の人工甘味料を溶かし、主観的な甘味強度、甘味の純粋性(苦味、辛味、酸味、うま味などが付随しないかどうか)、味の持続性(あと口とその種類)、唾液中への二次分泌の有無について比較した。
いずれも重量濃度は約0.7%である。
その結果、パルスィートがもっとも甘く、味が純粋な甘さであり、味の切れがよい(持続性がない)、唾液への分泌による味も生じないことがわかった。
シュガーカットは甘さが純粋でなく強度も弱い。
ラカントSは甘さの他に、ヨモギに似た一種の苦味がある。薬草の味である。これを好む人もいるだろうが、私は好まない。
以上が結論で、送られた1.7キロのパルスィートは全部飲んでしまい、今はシュガーカットを飲んでいるが、まだ1キロ以上残っている。ラカントSは苦味があるので飲まない。
以下は実験結果に対する文献による考察である。
まず3種の人工甘味料の特徴をまとめる。
パルスィート(味の素)=は「タンパク質0.4%、糖質100%、食物繊維0%、エネルギー0%」(メーカー表示による)で、成分はエリスリトール、アスパルテームとアセスルファムK。
シュガーカット(浅田飴)=は「炭水化物100%、糖質0%、エネルギー0%」(同上)。成分はエリスリトールとスクラロース。
ラカントS(サラヤ)=は「炭水化物99.5%、タンパク質0.1%」(同上)で、となっている。ウリ科植物の実ラカンカ(羅漢果)の抽出物「ラカンカ配糖体」に、糖アルコールであるエリスリトールが混合されている。混合比率は不明。色は暗褐色で、黒砂糖粉末のようだ。
次ぎに、含有されている成分を検討する。
3製品に共通に含まれているのはエリスリトールで、これは上述のようにブドウ糖由来の糖アルコールで、砂糖に対する甘味度は0.8(砂糖を1とする)で、やや甘さが落ちる。だから「増量剤」として使用されているものと思われる。
1)アスパルテームとアセスルファムKは「パルスィート」だけに含まれている。
アスパルテームは化学的には「L-α-アスパルチル-L-フェニルアラニン・メチルエステル」といい、アミノ酸であるアスパラギン酸とフェニルアラニンがペプチド結合し、フェニルアラニンのアミノ基の反対側にメタノール基が付いたものだ。甘味度は砂糖の200倍とされている。
このアスパルテームに関しては、「毒物だ」という指摘もある。
「週刊金曜日」ブックレット「買ってはいけない(1)」1999には、環境問題家の船瀬俊介が11項目の危険性を挙げている。
J.S.ハル「スイート・ポイズン」(東洋経済新報社, 2013)では、アメリカで「ニュートラル・スィート」という商品名で売られたり、ドリンク剤に含まれているパルスィートが、あたかも悪魔であるかのように、やり玉に挙げられている。しかし出発点は著者の偏頭痛とバセドウ氏病が、すべてダイエト・コークの飲み過ぎ、それに含まれているアスパルテームのせい、という思い込みから発しており、科学捜査のように身辺の環境汚染物質、食品添加物すべてを候補として挙げ、論理的に犯人を追いつめて行くというものではない。
アスパルテームが体内に入り分解されたら、まずアスパラギン酸とメタノール・フェニルアラニンが分離する。大量のメタノールには神経毒性があるから、当然体重Kg当たりの1日摂取量には制限を設けなくてはいけない。
もうひとつ、北欧系の白人の場合、先天的にメラニン色素合成能が低い。これは日光の少ない高緯度地方への適応として生じたもので、ノルウェー北方に住むモンゴロイドであるラップ人にもメラニン合成不全症が認められる。「白いアジア人」である。
メラニンの合成経路は複雑だが、最初にフェニルアラニンが水酸化酵素の作用によりチロシンに変わる。
チロシンを素材として二つの重要物質が合成される。メラニン色素と甲状腺ホルモンであるチロキシンだ。
遺伝的にフェニルアラニンを水酸化する酵素が欠損しているのが「フェニルケトン尿症」で、高濃度の血中フェニルアラニンの毒性により脳の発達が致命的に遅れる。
相同遺伝子の両方に欠陥がある場合はしばしば致命的だが、片方が正常の場合は「低フェニルアラニン食」で生き延びることができる。
アメリカの人口集団のなかに「フェニルアラニン不耐性症」の家系もしくは散発的な個人が存在し、それが過剰なアスパルテームを摂取した場合(一日に1g以上というような)に、フェニルアラニン中毒症状や過剰なチロシン産生によるバセドウ病を発症する可能性はある。
またアスパルテームは人工的に合成されたペプチドだから、自然界に存在しない。従ってそれに対する抗体をあらかじめ有している個体なら、アレルギーや皮疹、脳血管の収縮による偏頭痛が起こることも考えられる。
これは肝臓にアルコール脱水素酵素が欠除していて、知らずに酒を飲んでも急性アルコール中毒になったり、採血の前に皮膚をアルコールで消毒してもかぶれる人がいるのと同様だ。
ハルの本の巻末には米上院における医師や薬学者、弁護士の証言・陳述が8本収録されているが、中には日付と場所の記載がないものがあるという杜撰さだ。
全部読んだが、LD50を示して、人体に有害であるというデータを示し、説得力のある禁止論を展開したものは、ひとつもなかった。それどころか「チャイニーズ・レストラン・シンドローム」を引き合いに出して、グルタミン酸ナトリウムが有害だと主張する論者もあり、笑ってしまった。量を過ごせば、薬も毒になる。問題は適量と中毒量の幅が広いか狭いかである。
毒か薬か、というような二分法的議論はだめだ。
アセスルファム・カリウム(アセスルファムK)は、「他の高甘味度甘味料と併用すると相乗効果をもたらす性質があり、アスパルテームと1:1で併用すると甘味度が40%強化されキレとコクのある甘味質となる。」(日本語WIKI)
この物質は「ジケテンとスルファミン酸を反応させ、これに三酸化硫黄を反応させることによりアセスルファム環を作った後、水酸化カリウムで中和することにより得られるオキサチアジノンジオキシド誘導体」(日本語WIKI)とあり、スルフォン基をもつのが特徴である。甘味度は砂糖の200倍とされており、等量のアスパルテームと混合すると280倍に上昇するので、組成比率は公開されていないが、「パルスィート」においては、アスパルテームが主材で甘味増強のために、アセスルファムKを等量混合し、さらに増量のために甘味度0.8のエリスリトールが加えられているものと推測される。
2)「シュガーカット」には、甘味増強剤アセスルファムKが入っておらず、スクラロースが主たる甘味剤である。スクラロースは五単糖のフルクトース(果糖)と六炭糖のグルコース(ブドウ糖)が結合してできるシュクロース(砂糖)の水酸基(-OH)を3箇所で塩素(CL)に置換した物質である。基本構造は砂糖と同じだが、甘味度は砂糖の600倍もあるとされている。従ってシュガーカットの味はスクラロースの味と見て良いだろう。エリスリトールは増量剤として使用されているようだ。
日本語WIKIによると、「スクラロース製品は、食品加工メーカー、また、製薬メーカー等、食品加工業向け商品であり、一般向けには直接市販されていない」という。道理で、武田元介さんが大きな「業務用1.7Kg」袋入りで送ってくれたわけだ。
藤井正美(監修)「高甘味度甘味料 スクラロースのすべて」(光琳)には、p.30に「核種甘味度甘味料の味質の比較」というタイトルの、砂糖、アスパルテーム、スクラロース、サッカリン、ステビアの5種を、こく、まろやかさ、すっきり、刺激、渋味、くせ、しつこさ、後引き、苦味の9要素にわけて、比較した図がある。砂糖を同心円として描いた場合、それに一番近い円を描くのがスクラロースとなっている。
これは専門家の味見試験の結果だそうだが、私の舌試験では甘味が薄く、純粋な甘味でない。
スクラロースが糖尿病や肥満防止によい理由として、同書に「体内で分解されないので、エネルギーにならない」とある。ヨーグルト発酵ではまったく分解されないそうだ。
本当にそうならよいが、もし分解されたら、塩素を3個含んでいるから、塩化ビニールと同じで発がん性があるものと見なくてはいけないだろう。
この藤井本は食品業界の宣伝本で、欠点については何も書いてない。「MERCK INDEX」11版をみると、スクラロースのLD50はマウスで>16g/Kgとある(急性毒性)。
小さじ一杯つまり1gのシュガーカットに含まれるスクラロースの量は1%程度つまり10mg程度と思われる。仮に1日にコーヒーを10杯飲んでも100mgだ。体重50キロとすれば、2mg/Kgに過ぎない。
同じくアスパルテームを調べたがちゃんと物性は書いてあるが、LD50の記載がない。
アセスルファム(Acesulfame)も載っているが、これもLD50の記載がない。太田静行他「高甘味度甘味料 アセスルファムK」(幸書房, 2002), p.44-45によると、LD50はラット5g/Kg、マウス6g/Kgであり、慢性毒性や発がん性・催奇形性はないとある。
【結論】3種の人工甘味料は、甘さの点ではパルスィート>シュガーカット>ラカントSの順であった。
このうち、糖アルコールのエリスリトールはいづれの商品にも増量剤として使用されている。ラカントSはこれにラカンカ配糖体が加えてある。
他方、パルスィートはアスパラギン酸にL-フェニルアラニンを結合させた人工的化合物のアスパルテームと 同じく人工化合物のアセスルファムKとを主成分にしている。
シュガーカットはシュクロース(蔗糖)に塩素を三つ結合させた人工的化合物スクラロースが主成分である。
アスパルテームは国内では1983年以来、食品添加物として使用が認められている。アセスルファムKは2000年4月以来、国内で食品添加物として使用されている。
スクラロースは1999年7月以降、食品添加物として認められている。いずれも今のところ、明らかな害作用は認められていない。
そうなると、選択は各自の好みの問題といえよう。「天然物には害がない」と信じる人はラカントSを選ぶだろうし、100%排出されるから慢性毒性がないと考える人はシュガーカットを選ぶだろう。私のように、「少量で砂糖と同じ味がする。微量だから毒性など問題にならない」と考える人は、パルスィートを選ぶだろう。
そもそも生物の生存に不可欠な酸素は、猛毒である。生きていくとは、その猛毒を体内に取り入れることである。根本的なことを忘れて、タバコは害があるだの酒はよくないなどと言っても始まらない。人工甘味料も同じようなものだ。
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