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ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【この一月】難波先生より

2014-03-10 19:22:00 | 難波紘二先生
【この一月】「1月は去(い)ぬる、2月は逃げる」と言いますが、あっという間に2月が終わりました。
 1/31に各紙により「STAP細胞」論文がネイチャーに掲載されたことが大きく報じられた。これについては持ち合わせの知識と照らし合わせて、「TCR遺伝子の再構成」問題にふれ、2/3のメルマガでこう書いた。
 <ただ疑問は残る。
 一旦免疫遺伝子を再構成した細胞は、幹細胞になってもその遺伝子を引き継ぐので、もう余分な胚型TCR遺伝子がないはずだ。そうするとこの細胞から作ったクローンマウスは「重症複合免疫不全症(SCID)」を発症するはずだが、そのへんはどうなっているのか。>
 T細胞受容体は、抗原の多様性に対応するために胚細胞の遺伝子が発生途上で、遺伝子組み換えと体細胞突然変異を起こし、免疫遺伝子が違うクローンが多数作られる。この過程は誰も初期化に成功していない。)

 2/5の「報道ステーション」で、「現代のベートーベン」なるものを知った。資料映像を見ただけで「これは全聾ではありえない」と直感した。Nスペの「奇跡の詩人」と同じだと思った。で、2/6に「現代のベートーベン」のゴーストライターなる音大講師が記者会見を行い、実際の作曲を行ったことを明らかにした。
 2/7メルマガでは「代作」の項でこれを取り上げた。
 その後、問題の「全聾の作曲家」は雲隠れしていたが、3/7になって謝罪の記者会見を行い、全面的に非を認めた。サングラスをはずし、長髪をカットし、時折声を詰まらせながら謝罪する姿には真摯なものを感じ取れた。
 まだ若干、余波はあるかもしれないが、事件は大方のところ終息に向かうだろう。
 
 ところが「STAP細胞」問題は、一向に進展しない。
 メディアによる報道後、最初の1週間は大衆を熱狂的な「STAP細胞フィーバー」が襲ったが、第2週になると世界の研究者から論文に使用されている画像の不審点や論文の一部における他論文からのコピーの疑いが指摘されるようになり、さらに実験が再現できないという報告もネット上に見られるようになった。
 第3週目になると、2/15の「毎日」記事(「理研が論文の調査を開始」)という報道もあり、2/17「ネイチャー」誌はSTAP細胞論文の調査を始めたと報道した。
 第4週目になると、10件以上の追試がすべて失敗とネットで明らかにされたこともあり、問題の論文を「捏造」とする疑惑がネットで盛んに論じられるようになり、専門の英語、日本語ブログもいくつか開設された。
 第5週つまり3月になると週刊誌もさかんに取り上げるようになり、「日本分子生物学会」は3/3理事長声明をHPに発表し、理研に早急な調査結果の公表を要望した。これらの疑問や批判に応えるかたちで問題の論文執筆者のうち3人が連名で、3/5に実験手技にかかわる「プロトコル」を公開した。
 しかし、最終的に確立された「STAP幹細胞」に元のT細胞の標識であるRCR遺伝子の再構成がないという記述をめぐって、さらに多くの疑問と批判が投げかけられている。カリフォルニア大のKnoepfler博士(ドイツ語発音かと思っていたが、KとPは発音せず「ノフラー」と発音するらしい)のブログを見ると、STAP細胞の信頼性についてのアンケート投票結果(5週目、進行中)はSTAP細胞の実在を「信じない」(紫色:左)が77%、「信じる」(紫色:右)が20%と否定・懐疑派が圧倒的多数になってしまった。(図1)

 図1

 STAP細胞の売りは「手間暇かけず短期間に作成できる」ということだったが、その評価がこれほど短期間に逆転したというのも、ネット時代ならではのことだろう。

 思えば2/12の京大山中伸弥教授の「iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察」
 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/other/140212-194926.html
 と題したプレス向けレリースはきわめて冷静で妥当だった。
 <論文によれば、STAP細胞を特殊な培地で培養することで一部の細胞が増殖する能力を獲得し、多能性と増殖能を併せ持つSTAP幹細胞へと変化します。
 iPS細胞やES細胞は多能性と増殖能を持つ「幹細胞」ですので、比較すべきはSTAP細胞ではなく、STAP幹細胞です。
 論文の記載によると分化細胞からSTAP細胞へ誘導すると、およそ8割の細胞が死滅し、生き残った細胞のうちの3分の1から2分の1が、つまり元の分化細胞の約10%がSTAP細胞と考えられます。さらに、STAP細胞からSTAP幹細胞への変換効率は10回に1、2回とあります。>
 と「STAP細胞はSTAP幹細胞を作るためのワンステップにすぎない」ことをちゃんと指摘している。
<iPS細胞は互換性の高い技術です。ES細胞と同じ方法で培養や分化誘導ができるため、30年を越える伝統があり、世界中に大勢いるES細胞の研究者が、すぐにiPS細胞の研究を開始できました。iPS細胞に高い再現性と互換性があることは、この技術が世界中で急速に普及した原動力となりました。
 他の多能性幹細胞技術(例えば、MAPC細胞; Jiang et al., Nature 2002)は、当時、大きなニュースとなりましたが、再現性と互換性が十分ではなく普及しませんでした。STAP幹細胞についても、広く普及するには再現性や互換性の検証が重要な課題になります。>
<STAP幹細胞技術も、人間の細胞で達成された後に、再現性、互換性、安全性、知財について検証される必要があります。> と流石にポイントを突いたコメントを述べている。

 人体実験が許されないから動物実験を行うのだが、動物種により実験の再現性が異なることがある。同じ齧歯類でもモルモットは壊血病に罹るが、ビタミンCを生合成できるマウスやラットは壊血病にならない。だから壊血病実験にはマウスやラットは使えない。
 ヒーラ細胞のような培養細胞が、脾臓から取り出した細胞と同一に扱えない実験もある。
 まして究極的にヒトへの応用を目指す再生医療用の多潜能幹細胞となると、ヒトの体細胞でも、ストレスにより多潜能性胚細胞への誘導が可能だという「再現性」が示されなければ、あまり意義がない。
 つまりSTAP幹細胞の再現性には、
1. 同一種の動物の他の体細胞による「再現性」、
2. 他種の動物による「再現性」、
3. ヒトにおける「再現性」、
4. 以上の3点について、他の研究者による「再現性」、
の確認が必要だということだ。この手続きのいずれを欠いても厳密な意味での科学とはいいがたい。
 3/5のネイチャー誌は「小保方だけでなく研究チームの他のメンバーが実験の<繰り返し>に成功。外部の他のラボでも酸処理後にOct3/4の誘導を認めるという、最初の重要なステップに成功した>という理研関係者の話を伝えている。同じ研究チームが実験の繰り替えしに成功したとしても、「再現」とはいわない。外部のラボが分裂能のないSTAP細胞の作成まで成功したとしても、それは1の一部にすぎない。実験全過程の再現性確認が必要だろう。
 残念ながら、3/5の理研による「実験手順プロトコル」の公開は多くの科学者の疑念を解消するに至っていない。当初、理研は「3月に調査結果を公表する」と言っていたが、3月も今日から第2週に入る。ネイチャーの調査結果も出るかもしれない。
 小保方第1論文の「盗用」は確定しており、これ以上世界の研究者を騒がし迷惑をかける前に「盗用」があったことを理由に論文を撤回したらどうか、その後でSTAP細胞とSTAP幹細胞の作成過程(両者の過程はまったく違う手順による)で、T細胞がES細胞またはiPS細胞によりすり替わったのかどうか、の疑惑は別途ゆっくりと徹底的に調査したらよいだろう、というのが3/7/2014のこのメルマガの提案(対案)だった。
 理研は2004/12に発覚した研究員の論文捏造のあとで、「監査・コンプライアンス室」を設置し、日本の研究機関としては最初に不正防止措置を取った。今回、その機能が迅速かつ厳密に発揮されることに期待したい。
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