少数民族の村でも、昔から使われていた様々な生活用具が、急激に姿を消しつつある様です。甑(こしき)もその内の一つです。貴州省に住む多くの少数民族は、今でも祭りの際には餅を搗いたり、必ずの様に糯米を食べます。そう云う事もあって以前は甑が良く使われていた様ですが、近年は殆ど見かける事は出来なくなりました。今年2月と7月に久しぶりに貴州省を訪れた際、幾つかの少数民族の村で甑を見かけました。がこの様な光景も次第に見られ無くなりつつあります。
甑でもち米を蒸しているところ。こちらは全て木製でかなり年季が入っている感じです。貴州省黎平県双江郷黄崗村。
木桶の下に穴が穴が開けてあり、そこから蒸気が通り、中には糯米が入っていて、中のモチ米を蒸しあげる。貴州省黎平県肇興郷。
別の村で見かけた甑。甑は中国語ではzengと発音します。
今では甑が使われている村も少なくなっているようで、最近はこの様にして糯米を蒸すのが一般的。今は未だ蓋をしてませんが、この後蓋をして蒸し上げる。
この木桶の中に蒸しあがったお強が入っています。
奥に木桶が見えますが、同じように木桶の中には糯米が。
甑を中国語ではzeng(注:4声)と発音します。漢語大辞典で甑を調べると「食べ物を蒸す炊事用具」とあり「底には穴が空けてあり古くは陶製であったが、殷周時代には青銅製の物が用いられ、その後は木製の物が使われる様になった」とあります。俗に甑子と云うとの説明もあります。
中日大辞典(大修館書店)には、甑は「古代蒸し用の土器、カメ」とあります。中日辞典(小学館・北京商務印書館)も似たようなもので、「古代の食物を蒸す土器」と説明してありますが、如何な物かと云う様な説明です。
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説より
甑こしき
穀物などの蒸し器。鉢形または甕(かめ)形の器の底に、下の器から沸いた湯気をあげる穴をあけ、中に簀子(すのこ)や麻布を敷き、蓋(ふた)をして食物を蒸す。弥生(やよい)時代の土器にもみられたが、5世紀のころ、朝鮮南部を経て角(つの)状の把手(とって)のある大型の土製の甑が伝来し、土製の釜や竈(かまど)と組み合わせて使用された。山上憶良(やまのうえのおくら)は、「竈(かまど)には火気(けぶり)ふき立てず甑には蜘蛛(くも)の巣かきて、飯炊(いいかし)ぐ事も忘れて」と詠んでいる。甑では米を蒸して強飯(こわめし)、蒸し米を干して糒(ほしいい)、杵(きね)で搗(つ)いて餅(もち)をつくる。稗(ひえ)は蒸してから搗いて殻を除き飯にする。そのほか、団子、ちまきを蒸すとか、酒造やみそづくりにも用いられる。平安時代に曲物(まげもの)の甑が出現し、のちに桶(おけ)の甑となり、江戸時代には蒸籠(せいろう)の発達をみた。[木下 忠]
[参照項目] |