黒沢清監督「蛇の道」のファーストシーンは、この滑らかなクレーン撮影で始まり、ここでようやくカメラが切り替わり横向きの男(ダミアン・ボナール)をとらえる。次のショットで再び女の顔に切り替わるのだが、2人の視線の一致は感じられない。ようやく車を間にして2人が向き合っているショットになり、ここではじめてこの男女が向き合って話していたことが分かる。まるでブレッソンのようなカットワークにこの2人が決して相容れないが、何かを企んでいる関係であることを暗示させる見事な冒頭シーンだと言える。この冒頭シーンだけでも今年の日本映画(かどうかわわからないが)ベスト5に入ると思う。
WBCで最も美しかったのは、準決勝メキシコ戦で9回裏に逆転のホームインした周東佑京選手の走塁だった。バックネット側から、その迷いのない滑らかな走塁をワンショットでとらえた映像は、野球の周回する身体運動としての魅力を伝えて見るものを興奮させる。四球の吉田選手(歯が白すぎる)の代走として思い切りよく周東選手を送った監督の采配は確かに素晴らしいが、それはドラマとしての野球の面白さだ。この周東選手の走りこそ予定調和を超えた生々しい運動としての野球の魅力だろう。映像を見ると、村上選手が打った瞬間に迷いなく走り出し、打球の行方を確認している大谷選手を挑発するように一気にスピードを上げると、大谷選手が慌てて走り出すようにも見える。そしてホームインのスライディングも美しい。いや、サイコーでした。余計な見出しがうるさいけど、その映像をどうぞ。
https://m.youtube.com/watch?v=rZQCEDkaq9g
ところで、サムライJAPANという呼称には、神国日本とか兵隊日本とか鬼畜米英的なスローガンの匂いがあって、いささか違和感を持っている。たぶん「侍ニッポン」あたりが源流なのだろうが、◯◯ジャパン、◯◯ニッポンの高揚感に何でも収斂させてしまうことは、どこか危ない予兆のように思えてしまう。
そもそも「侍ニッポン」は1931年発表の郡司次郎正の小説で、同じ年に日活で伊藤大輔監督、大河内傳次郎主演で映画化、さらに西条八十作詞の歌まで出て大ヒットした。「人を切るのが侍ならば恋の未練がなぜ切れぬ」と武士の道義と恋の間で苦悩する男の心情を歌っているが、小説は、大老井伊直弼の隠し子として生まれた主人公新納鶴千代の剣術と恋と葛藤が、尊王攘夷盛んな時代を舞台に展開され、桜田門外の変に至る父子の悲劇で終わるというものだ。以下は、美空ひばりが歌う侍ニッポン。映像には東映で東千代之介が主演した同名映画の一部が使われている。
https://m.youtube.com/watch?v=P73c2yP_9o0
1931年、昭和6年は満州事変が勃発した年であり、大陸での戦争が拡大していく時代なので、◯◯ニッポンというスローガンは戦意高揚の時代の雰囲気に合っていたのだろう。しかし、新宿にムーラン・ルージュがオープンしたりエノケンが一座を旗揚げするなど、まだまだ国内は華やかさもある一方、東北地方は冷害、凶作で、娘を身売りに出すような生活を強いられる時代でもあった。侍ニッポンの小説も映画も歌も(メロディの出だしは勇ましいが)内容は決してそんな勇ましくないのは、時代の明暗を反映していたとも言える。
原作の郡司次郎正は、軍国化が進む当時、少なからず大衆の中にあった共産主義への憧れと反感の心情を武士の葛藤に重ねて、共感を得ようと意図したのだという。企画は大当たりだった。
昭和の初めの時代と今を重ね合わせて、危険な時代などというつもりはないが、侍ニッポンとサムライJAPANには確かに同じ匂いが漂っている。
侍ニッポンを原作にした岡本喜八監督の「侍」。主演は世界のミフネ
常設なのでいつ行ってもいいのだが、無性に行ってみたくなって、土曜日にいそいそと深川まで出かけた。正確には江東区古石場、江戸時代の埋立地だが、その2丁目にある古石場文化センターの小津安二郎紹介展示コーナーへ行った。小津監督は現在の深川1丁目生まれ。生家付近の清澄通りの歩道橋横には記念碑も立っている。展示は1階の小さなスペースだが、少年時代の写真や作文、習字、江東区とゆかりある作品の紹介、愛用の茶碗や直筆の扇面、色紙、着用していたスーツ、コートなど、いずれも初めて見るものばかりで小津愛に溢れる展示だった。
帰りはセンター横の古石場川にかかる小津橋を渡り、牡丹町の町中華でタンメンをいただく。お不動さんと閻魔堂をお参りし、生家記念碑、小津少年が通った明治小学校などを見て、小津詣を終了したのだった。深川は昼から飲める店も少なくないが、一滴も飲まず伊勢屋のきんつばも買わずに帰ってきた。🤣
昨日は生憎の雨、善光寺ご開帳へ。平日でしたが入場規制もあり前立御本尊参拝には長い列。土日は主要道路も大渋滞のようです。御本尊は三体、意外に小さいことに吃驚。参道は商魂たくましくご開帳グッズ満開。おいおいペヤングかよ、といいつつ買ってしまった私。🤣 回向柱の綱が御本尊の中指と繋がっていて回向柱に触ると功徳があるとのこと。連休は避けた方が無難でしょう。
今日のランチは会社近くにのカフェのタコライス。三馬鹿大将みたいな3人組が売っている。味はまあまあでした。
いろんな出会いがあった1年だったなぁ。
すっかり年末気分になっているこの頃なのだった。
そんなわけで駄句を2句。
冬ざれや毛皮のマリーの温き部屋
木枯らしや名前隠して裏街道
鑑賞後は、同じ町内に住む中学時代の同級生4人でプチ同窓会となった。
時間を忘れて朝まで飲んでしまった。
還暦を過ぎた老体にはいささかきつかったが、実に楽しい時間を過ごせた。
今日もまだ、その後遺症なのかからだが重いが、こころのほうはよいリフレッシュになった。
童心に帰るとはまったくこんあことなのだなあ。