ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

辻原登「ジャスミン」を読むと茉莉花茶が飲みたくなる!

2007年01月29日 | 
「ジャスミン」(辻原登・文春文庫)を読む。

 初めての辻原登。物語作家としての名声高くいずれ何か読まねばと思っていた。金曜日の晩、寝床で読み始めたが、睡魔に勝てずすぐ眠ってしまった。朝七時目が覚めて、再び読み始めると止まらなくなった。一気に読了。

 舞台は神戸と上海、天安門事件に阪神大震災が背景にあり、中国へのODAにからむ利権争い、中国国家公安部の暗躍、失踪しスパイ容疑で中国奥地黄土高原に幽閉された父親探し、戦中の上海を舞台にした中国国内の覇権争いや周恩来の権謀術数、劇中映画と重なる日中の恋、これら盛りだくさんなサイドストーリーが、外資系シンクタンクの辣腕ディレクターの主人公と中国人映画女優との恋と逃避行を軸に展開され、その話の節々を至高のジャスミン茶の馥郁たる香りが包むという贅沢さで、とにかくこれでもかといわんばかりのサービス精神旺盛な冒険小説である。

 芥川賞作家で東海大学の文学部教授という肩書からは想像できなかった面白さだ。そしてこれを読むとおそらく誰もがジャスミン茶を飲みたくなる。早速ネットで「茉莉龍珠 白毫冠軍」などを求めて心を躍らせる始末であったが、近所にそんな高級茶を売る店はないので、とりあえずスーパーでパックのジャスミン茶を購入し、秩父太田屋の絶品本煉羊羹を友に飲む。

 「ロンググッドバイ」がギムレットの小説なら、これはタイトルどおりジャスミン(茉莉花)茶の小説で、甘く切ない味がするのだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

はや拵えでもう1本的手際よさに脱帽の「硫黄島からの手紙」

2007年01月25日 | 映画
 いつもほどよい空き加減で特等席を確保できるわが街の映画館で、「硫黄島からの手紙」(クリント・イーストウッド監督)を観る。硫黄島2部作では、こちらの方が評判よく、アカデミー賞作品賞、監督賞などにノミネートされている。きっと戦場のドラマに徹した分かりやすさのためだろう。

「自分の信ずる正義を貫きなさい」という戦死した米兵が握り締めていた母親からの手紙の一文はこの映画のテーマだろうし、「生きて妻子のもとに帰る」という信念に基づいて、決して死なないことを選んだ二宮和也演じる召集兵に発信させたメッセージを、この映画の観客は、兵士たちの母国にいる家族、妻子と同じ立場で受け取ることになる。だから切実なのだ。とりわけ長引くイラク戦争に嫌気のさしているアメリカ人に、主役は日本人だが、戦争における死がいかに無駄死であるかを実感させるに十分な映画だ。

 イーストウッド監督は、短期間で実に手際よくつくったと思われ、それは俳優の少なさ、限定された撮影場所なでうかがえるが、それだけで賞賛に値しながらも、やはり映画としての充実感は、「父親たちの星条旗」に軍配を上げたい。テーマと手法と映像のみごとな親和力が「父親たち~」にはあるからだ。いずれにしろ、これだけの映画を2本もまとめてつくってしまうイーストウッドに拍手だ。こんな芸当のできる映画作家は他にはいまい。それだけで賞賛ものといえるのだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

80歳キムタクファンの母と観た「武士の一分」

2007年01月17日 | 映画
 キムタクファンの80歳の母親を連れて「武士の一分」(山田洋次監督)を観にいった。静かで分かりやすい時代劇に老人はいたく満足の様子で、久しぶりの親孝行という一日ではあった。

 藤沢周平の下級武士の凛々しさとはイメージを異にするキムタクだったが、脇の俳優人はなかなか面白いし、いつになく長くカメラを回す演出も好感が持てたが、視力を失ったキムタクが再び剣の修行を積み、盲目の剣士としての再生する道程があっさりしすぎていて、果し合いでの勝敗のカタルシスがあまり感じられないので、どうもすっきりしない。これはかなりこの映画で重要なポイントだと思うが。
坂東三津五郎の悪役は、人妻を手篭めにした男の雰囲気が出ていてよかっただけに、これだけがんばったんだからキムタクが勝ってよかったよね、という展開がほしかった。

 原作は読んでいないので、決闘シーンがどう終わったのか分からないが、三津五郎が背後の小屋の屋根から襲い掛かるというのは、テレビの怪獣映画じゃあるまいし、これを映画的と思っているなら、これはちょっと困りモンだ。

 それにしても、三津五郎とキムタクの妻・壇れいとの出会いのシーンで、隣の母が「ああ、こいつが悪いやつなんだ」とか、小林稔侍が貝の毒の責任をとってあっさり切腹してしまうと、「なんだ、もう死んじゃうのかい」とか、自宅にいるようなくつろぎぶりで楽しんでいたので、何はともあれ、新年初回の映画鑑賞はめでたしめでたしなのであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする