ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

ラストタンゴのマリアと青空のマリア

2008年07月29日 | 音楽
 NYで今最も人気があるといわれているビッグバンドがマリア・シュナイダーのバンドだという。マリア・シュナイダーと聞いて、まず、ベルトルッチの映画「ラスト・タンゴ・イン・パリ」でマーロン・ブランドと激しいまぐわいを演じたかの女優を思い出すが、まったくの別人。ギル・エヴァンス最後の弟子といわれる才女で、コンダクターぶりは蝶のように舞うともたとえられる。そのコンテンポラリーなジャズ・オーケストラのサウンドは、かなり評価も高く、一度聞かねばと思っていたのだが、いずれのアルバムも3,500円くらいで、CD一枚の値段としてはちょっと手が出しにくい。

 そうした中で、昨年出た最新のアルバム「ブルー・スカイ」は、カヴァー・ジャケットが洗練されていて、気に入ったので買ってしまった。背景のスカイブルーに、流れるようなシュナイダーのブラウンの髪と白のコスチュームが映えて美しい。中身は、ブルース色を脱色したジャズというのだろうか。アンサンブルとソロが高次元で見事に融合しているが、ブラスバンドの課題曲を聴いているようでもあり、でも確かにジャズのようでもある? マイルスとギル・エヴァンスの合作「スケッチズ・オブ・スペイン」におけるマイルスのトランペットは「アランフェス」を吹いてもブルースを感じさせるのに・・・。シュナイダー自身の体験や心象風景を音にしているのだろうか、森林浴でもしているような鳥のさえずりがあったり、青い空や吹く風といったある情景を聞くものに喚起させるアルバムではある。

 2曲目の「Aires de Lando」がなかなかよい。アルバム中唯一官能的でダンサブルな曲なのだが、これはペルーのセクシーな黒人音楽ランドーをモチーフにしているからで、スコット・ロビンソンのクラリネットをフィーチャーしながら、ポリリズミックなパーカッションが奏でるタンゴのような不思議なリズムと相まって、どこか悲しいジンタのように響き。もしかしてコンチネンタルタンゴの名曲「青空」にこのアルバムタイトルは由来するのかと思ったほどだが、どうもそうではないらしいし、あの女優と同じ名前なので「ラストタンゴ」とつながっているのかとか、ランドーとブランドは似ているとか、勝手にイメージしてしまった始末で、なかなかよい曲なのだが、やはりジャズのスイング感、グルーヴとはちょっと異なった趣なのだ。たぶんこのアルバムのシュナイダーの曲は、演奏すると楽しいかもしれないし、ぜひライヴを聞いてみたいものだ。
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VANミュージック・ブレイクとナベサダと「白い波」

2008年07月02日 | 音楽
 1967年頃、今のテレビ朝日がまだNETといっていた時代、日曜日の朝の音楽番組に「VANミュージック・ブレイク」があった。アメリカから帰国した渡辺貞夫のクインテットがレギュラーで、アルト・サックス:渡辺貞夫、エレキギター:中牟礼貞則、ピアノ:菊地雅章、ベース:原田政長、ドラム:富樫雅彦というすごいメンバー。その頃のナベサダは、当時最新の音楽だったボサノヴァを中心に、そのリズムでスタンダードなどを演奏するスタイルだった。しかも細身のVANのスーツできめている。それが新鮮で、カッコよかった。

 中学生だった僕は、ブラスバンドでトランペットを吹いていて、もっぱらハーブ・アルバート&ティファナブラスに憧れ、先輩と二人でコピーしたりしていた。ところが、この番組でナベサダの演奏を聴いて、すっかりジャズの魅力にとりつかれてしまったわけで、僕にとって忘れがたい番組なのだ。ナベサダの演奏以外、番組の内容はよくおぼえていないが、前田武彦が司会、VANの社長・石津謙介もよく出演していた音楽バラエティだったのではないか。とにかくナベサダのジャズという自在な演奏、背中を丸めてピアノの鍵盤に頭を突っ込むようにして弾くプーさんこと菊地雅章の姿が印象的だった。最初に買ったLPもタクトのナベサダのアルバム(「ジャズサンバ」だったはず)だったが、高校の文化祭で盗まれたのが今でも悔しい。

 番組でよく演奏していたのがナベサダ作曲のボサノヴァ「白い波」。この曲は、ヒデとロザンナの出門英が、ヒデとロザンナとしてデビューする前、ユキとヒデだったか、そんなデュオで、ジョヴィンの「ウェイヴ」に似たこの曲を歌っていて、そのドーナッツ盤は、僕のかなりお気に入りだった。これも件の文化祭で盗まれてしまった。ちなみにユキは、後に「悲しみはかけ足でやってくる」をヒットさせたアン真理子。インストの「白い波」は、ナベサダの何かのアルバムにも入っていたと思うが、「ユキとヒデ」盤は、はたしてあるのだろうか。

 ナベサダのバンドにも在籍していたケイ赤城トリオ「リキッド・ブルー」。昨年末のアルバムだが、最近、月刊「プレイボーイ」のジャズ大賞になっていたので買ってみた。ケイ赤城は、菊地成孔のマイルス研究書「M/A」で、マイルスバンドでの体験を語っているが、そのインタビューがとても好感がもてたので、トリオの演奏もぜひ聴きたいと思っていたのだ。エヴァンス風なユーロ・ピアノ・トリオばかり聴いていた耳には、かなり新鮮に聞こえた。トリオのインタープレイ(このドラムとベースはすごい)、各人のテクニックがすばらしいが、「ブルー・イン・グリーン」の最初の一音には意表をつかれた。混沌、カオスといった表現がぴったりの演奏で、これまで聴いたことのない「ブルー・イン・グリーン」だ。1曲目の美しい「スマイル・イン・ザ・レイン」など、どれも刺激的だがどこかなつかしく、噛み締めるほど味の出るアルバムなのだった。
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