ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

あえて女性監督による活劇だから「K-20 怪人二十重面相・伝」を支持

2008年12月24日 | 映画
 昭和の人間にとって天皇誕生日というと4月29日なのだが、お腹の具合が芳しくなく風邪かなと思いつつ、いつも空いているわが街の映画館にノスタルジックな映像が話題の「K-20 怪人二十面相・伝」(佐藤嗣麻子監督)を観に行った。予告編で観たら意外と面白そうだったからだが、二十面相のマスクが「Vフォー・ヴェンデッタ」みたいだとか、ワイヤーアクションが「スパイダーマン」や「バットマン」のようだとか、まあいろいろあるけれど、デジタル映像や美術、舞台装置も含めて日本映画によくある貧乏臭さがない点を評価したい。例えば、松たか子の家は、エミール・ガレ風のスタンドが置かれたアールデコで統一、明智の家はバウハウス的モダンといった徹底ぶり。オープニングタイトルのアニメとジョン・ウィリアムズ風オーケストラによる音楽も、その後を期待させる拵えでなかなかよいではないか。

 監督と脚本は、TVドラマの脚本などで活躍している佐藤嗣麻子の初作品。太平洋戦争を回避した日本の1949年の帝都が舞台という時代設定、これを「ALWAYS」のスタッフによるデジタル映像や上海でのロケーションなどがうまく支えて、結構面白い仕上がりになっている。サーカス団員の平吉(金城武)が泥棒修行をするため、地図上に引いた直線の道をひたすら走るという難題をどうアクションとして見せるかと思ったが、これはスタントを使った背面からの撮影と上海あたりの街並みをうまく使ったヤマカシ的アクションで処理している。とくに落下ということに監督がこだわってアクションを展開していることにTV出身の最近の馬鹿男監督たちとは違う、映画を撮ろうという意気込みが見えた。さりげなく「帝都物語」の島田久作がお嬢様のデザイナーで出てくるあたり、帝都ものにはこの長い顔が必要と心得ているのだろう。

 これはロングショットで露呈したことだが、明智小五郎役の仲村トオルは、立ち姿も歩く姿も(セリフも)全くダメ。さらに兵隊たちの黒いマスクや間抜けな動作、これらの集団のアクションシーンが緊張感のないもので興ざめだった。最近のハリウッド映画が拠りどころになっているのが気になるが、活劇に熱心な女性監督が日本に出てきたことは大いに喜んでいいのではないだろうか。ただ、今後も活劇を撮るかどうかは分からないけどね。

 そんなわけで映画は結構楽しめたのに、帰ってみれば熱など出し、風邪薬を飲んで早めに寝た天皇誕生日だった。
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地球に落ちてきたデッドマンは金髪がお好きな将軍たちの夜

2008年12月17日 | 映画
 ジム・ジャームッシュ監督、ジョニー・デップ主演「デッドマン」をDVDで観る。「ダウンバイロー」でもそうだったが、ジャームッシュにあって川と船は、エクソダスへ誘う装置のようでもある。デップ扮するウイリアム・ブレイクという名前の会計士を助けるインディアンのゲイリー・ファーマー(漫才の東京ダイナマイトの太ったほうに似ている)が実にいい。ディッキンソン社長役のロバート・ミッチャムなど、出てくる男たちのみごとな存在感を楽しもう。

 ウイリアム・ブレイクは18世紀イギリスの詩人。「ドアーズ」のジム・モリソンなどが影響されたとか、ロック・アーチストにけっこう人気な詩人だが、この映画でも、インディアンのノーボディがデップを助けるのも、ブレイクの詩に救われた経験があり、デップ扮する会計士ブレイクを詩人と思ったからなのだった。呪文のように口ずさまれるブレイクの詩。映画そのものがブレイクへのオマージュといわれているけれど、ブレイクをしっかり読んだことがないので、よくわからない。

 ハワード・ホークス監督、ジェーン・ラッセル、マリリン・モンローのグラマラス・コンビ主演「紳士は金髪がお好き」、ニコラス・ローグ監督、デビット・ボウイ主演の「地球に落ちてきた男」をDVD、アナトール・リトヴァク監督、ピーター・オトゥール主演「将軍たちの夜」を録画で観る。

「紳士は~」は、むしろ「淑女はお金が大好き」というタイトルの方が合っているかな。カメラを意識させないショットのつなぎのみごとさよ。ローグの映画はやはり退屈。ラストの「スターダスト」が誰の演奏だったか知りたくてDVDを買ってしまったのだが、やはりアーティ・ショー楽団の演奏だった。この頃のボウイはやはり人間離れした顔をしている。

「将軍たちの夜」はワルシャワの反ナチ勢力を掃討するため、オトゥール扮するエキセントリックなタンツ将軍が、ベンツのオープンカーに立って指揮し、その背景の建物に火炎放射器の炎を放たれるシーンが秀逸。美術がアレクサンドル・トローネ、そのセットがすばらしい。

 ひさびさにミステリーなど読む。トム・ロブ・スミス著「チャイルド44」。面白いとの評判どおり一気読みだったが、ラストの失速が不満。スターリン圧政下のソ連が舞台、しかも1953年の話というところがミソ。スターリン独裁下のソ連ものは、粛清社会という過酷な現実にいかに抗うかがポイントとなるので、ナチものと同じでどうしたって面白くなる。極貧の村に生まれた兄弟、残酷な子ども殺しの連続殺人事件、嫉妬深く無慈悲な同僚に執拗に痛めつけられる主人公、愛情のなかった夫婦の再生などがからみ、読み応えは十分。表紙のイラストもよい。

 村上もとか著「龍(ロン)」が14巻までになった。750円×14で10,500円かかっているわけだが、日中戦争期の日本、中国を舞台にした歴史大河漫画で、なかなか読み応えのあるおもしろい漫画だ。14巻で舞台は上海から満州へと移るのだが、毎月2冊ずつの文庫化が楽しみの一つになっている。

 景気悪化著しく、暗い新年になりそうな気配だが、こんなときはアキ・カウリスマキの貧困3部作、「浮き雲」「過去のない男」「街の灯り」を観るべし。
コメント (1)
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