伊坂幸太郎著。
仙台をパレード中の首相が暗殺される。
そして犯人として追われるのが青柳雅春。
しかし、彼は身に覚えがない。
続々と現れる、彼を犯人と名指す目撃者達。
彼を陥れようとしているのは、いわば国家権力。
彼は分けが分からぬまま逃げ続けるのだが、大きな力の前に押しつぶされそうになる。
ネタバレ注意
もうすっかり気持ちが青柳になりました。
怖い。怯える。誰を信じていいかわからなくなる。
でも、誰かを信じたい。
逃げる。逃げ続ける。
執拗で強引でありえない強行手段で迫る警察を憎む。
自分のために犠牲になった人に心が痛む。
読んでいて自分まで何かに追われているような気分でした。
いい読者でしょ。
三章の「事件から二十年後」で、「青柳は犯人として死亡」と描かれているので、絶望感を持ちながら読み進めていました。
青柳を罠にはめる手伝いをしながら、結局は彼を逃がそうとして殺された森田。
彼は犯人じゃないと信じ、逃げる青柳にひそかに手を貸す昔の彼女、樋口。
樋口に頼まれて、昔のバイト先の「轟煙火」や友人の彼氏などが、青柳の知らないところで彼の逃亡を助ける。
他にも行きがかりで青柳を助けようとする切り裂き魔の三浦や、整形外科、裏家業の保土ヶ谷、宅配の仕事の先輩の岩崎。
その人たちの力を借り、知恵を絞り逃げ続けるのだが、影武者まで用意し、周到に用意された罠に青柳は・・・。
結局「青柳」として逃げるのを諦め、顔を整形し別の人間として生きていくことを選ぶんです。
巨大な力の前では、人は無力だなあ。
それにマスコミがセンセーショナルに煽り、民衆は彼が犯人であることを疑わなくなる。
それも怖いことだよね。
犯人「青柳」として水死したのは、影武者でした。
この本も伊坂さんらしく、話が時空を行ったり来たり。
大学生時代の話がちょいちょい挟まれますが、それがヒントであったり、人となりをうまく伝えていたり。
特に爆死させられた森田が魅力的です。
警察の描かれ方と対照的に、青柳に力を貸す人たちはみな魅力的に描かれています。
切り裂き魔の三浦でさえも。
さすがに内容が内容だけで、いつものように水の流れるような清涼感を全編に感じるのは無理でした。
けれど、最後、整形した青柳が両親に送る手紙や、助けてくれた岩崎へのお礼の仕方。
樋口との偶然の出会い。
なんかね、いいんだよね。
青柳の性格をよく表わしていて。
なんで樋口さんは彼と別れたんだろう。
私は結構タイプだわ。