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4月の課題本 山田詠美 『学問』

2012-05-04 16:58:15 | ・例会レポ



山田詠美 『学問』

新潮社 2009年 / 新潮文庫 2012年


「私ねえ、欲望の愛弟子なの」。
4人の少年少女たちの、生と性の輝き。そして、いつもそこにある、かすかな死の影。
山田詠美の新たなる代表作。

東京から引っ越してきた仁美、リーダー格の心太、食いしん坊な無量、眠るのが生き甲斐の千穂。四人は、友情とも恋愛ともつかない、特別な絆で結ばれていた。やがて思春期を迎える彼らの、生と性の輝き。そして、いつもそこにある、かすかな死の影。高度成長期の海辺の街を舞台に、彼らが過ごしたかけがえのない時間を、この上なく官能的な言葉で紡ぎ出す、かつての少年少女のための成長小説。

新潮社


<例会レポート>

4月の例会、参加人数は男性7名、女性21名の合計28名でした。

今回の課題本は山田詠美の長編小説『学問』。山田詠美と言えば、ベース育ちの不良娘、黒人連れて六本木を徘徊するHな女、といったイメージが先行していると思うのですが、どっこい作品の多くはピュアな青春小説であることを知ってもらいたく推薦した次第です。また、おも本会員の大多数を占める「良識派」女性会員のみなさんの、作中ヒロインが行う「儀式」についての感想もお聞きしたく思っておりました。

ほとんどの会員は、課題本を含め何らかの山田詠美の作品を読んだことがありました。逆に先に書いたようなイメージに恐れをなして、今まで読んだことがなかった、という会員も結構いました。今回の課題本再読者の意見・感想は、

「読んだことはあったのだけれど内容はまったく覚えていなかった」

というものばかり。印象が薄い作品なのでしょうか。

しかし、中には、

「課題本となって再読できて良かった。これ以上の作品に出会えることはないのではと封印していた」

との感想を述べた人もいました。

イメージから読まず嫌いになっていた人からは、

「山田詠美はHな作家だと思っていたので今まで絶対に読まないだろうと思っていた。そうした作家の作品を読むことができてよかった」

という感想もありました。

さて、面白かった、という会員の多くは、

「描写が上手で作品に入り込みやすい」
「さらさらと書いている。子どもたちのエネルギーや時代そのものをまるごと書いているところがうまい」
「作品に引き込まれた。モコちゃんの登場から面白くなった」
「作中人物と同世代なので共通体験があった。青春小説としていい話。会話がうまい」
「テーマは生と性。前者については、人間が生きることは平等ではない、生きることの残酷さなどを思った。後者については、登場人物の思春期の行為は通俗的なものだけれど、それはそれでいいと思った。高校生になってからの行為は『重い』ものに思えた」
「読みやすい文章。自分には作中人物のような幼なじみがいなかったのでうらやましい。心太は、まっすぐでズルイことをしない感じでとてもいい」
「それぞれの故郷への想いがうらやましい。心太と仁美の関係は自分にとっての理想」
「小学生のくせにうまい言葉を語る心太はとてもいい奴だ。最後の死亡記事が最初の死亡記事につながっている構成がうまい。久しぶりに楽しく読めた」
「ストーリーテーラーとして秀逸。人間の欲望、睡眠・食欲・性欲が書かれているが、心太の欲望は世界を自分のものにしたい、ということか。仁美は性欲への幻影を葬り去ることで成長していくのだろう」
「ムリョくんこそ健全な精神の持ち主」
「登場人物の年齢設定など考え抜いたものであることがよく分かった」

こうした意見を述べた会員に、作中人物と同世代であることを明らかにした人が多かったことも興味深い事実でした。

それに対して、つまらなかった、面白くなかったという意見・感想には、

「ストーリーに生々しくなくドロドロしたところがないから退屈してしまった。それはセクシャルな部分を観念的に描いているからだろうか」
「登場人物が小学生・中学生らしくない」
「こまっしゃくれている子どもだ。学校生活などはすでにどこかで読んだことがあるようなものばかりで、目新しさがない。山田詠美なら、もっと隠微でエロチックな作品のほうが好きだ」
「起伏のいないストーリー、単調な文章で読みづらかった。体験することも普遍的なもので面白くなかった」
「心と体のバランスが取れた愛の形が本来あるべき形ならば、仁美だけが成長しきれなかった。腑に落ちない話」
「心太の仁美に対する思いがよく分からなかった」
「うまいとは思うのだけれど、心には残らなかった。世界に入り込めなかった」
「初めての山田詠美、それが不幸なものになった。心太の魅力は分からないし、どこかで聞いたような話ばかり」
「仁美と心太がなぜ恋愛関係にならなかったのかが不思議」
「好きなシーンはあったが、仁美の性格がよく分からなかった。純粋すぎるのだろうか。なぜ心太の息子と同居していたのか、心太とはどうなったのだろうか」

面白かったという人、つまらなかったという人。総じて、個性的な4人、特に仁美と心太の性格や魅力、関係の分かりにくさに戸惑う人が多かったようです。謎のまま事実のみが提示された仁美と心太の息子の関係も、腑に落ちた、腑に落ちない、という感想に現われているのではないでしょうか。

講師の菊池先生からは、

「死亡記事・訃報を章の最初に持ってくるなど、よく考えた構成。作中で仁美が読む『車輪の下』はマスターベーション小説の傑作。山田詠美の目の付け所はさすが」
「少年少女小説をどう書くか。かつては生々しい世界観で少年少女小説を書いていた山田詠美が、この作品では整理され計算されつくした形での少年少女小説を目指している」
「セックス(性)と生きること(生)、つまり人間の生きる営みを描き、タブーみたいなところもあえて描いている。そこに作家として成熟していることが読み取れる」

などの講評がありました。

推薦者がうまいなあと感心した、いやらしさがなく美しい描写で表現された女性の「儀式」への意見・感想はほとんど聞かれなかった例会でしたが、そのあたりについては二次会でお酒の入った女性会員数名に、ピンポイントでお尋ねすることができました。

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